第40話 金閣銀閣時々伊吹吾郎登場
「息吹!いぶきいぶきいぶきいぶきいぶきいぶきいぶきいぶきいぶきいぶきいぶきいぶき。」
ユカリさんが沙悟浄の梵の窪を指で抑えると連発している竜の息吹。ユカリさん、わざわざ言葉に出しているし、わかりやすいな。うん。
見事にエネルギーが、指を通じてボインボインと流れ込んで行くのがわかる。
「ボインボイン。」
プラチナブロンドの12歳が自分のおっぱいを揉みしだいてなんか言ってる。
歳を考えると有る方ではあるけど、巨乳にはまだまだ程遠いんだけどな。
「ないんないん。」
隣で15歳には控えめ過ぎる俺の幼妻がペタペタ触りながら落ち込んでる。
お嫁さんのおっぱいだけ後で揉んだげよう。
ユカリさんが指に力を入れる、その度に沙悟浄の身体は痙攣し、同時に足腰に力が蘇っていく。
「いぶきいぶきいぶきいぶき伊吹吾郎!」
ユカリさん、それ違う。
「この紋所が目に入らんか!」
ほら、沙悟浄が格さんに化けた。深沙大将が渥美格之進になっ…
「シンケンジャー参る!」
俺が絶句させられるのも珍しいな。
ユカリさん?この愉快な干物何?誰?
「知んない。でもなんかこの人楽しそうだよ。」
「人を干物言わない!って言うか、なんですか、小生の頭脳に勝手に流れ込んでくる、ゴツい顔した男の情報は?おかげで勝手に身体が動きます!助けてぇ?」
深沙大将の一人称は小生だったのか。
「パパ、気になるのは、伊吹吾郎じゃなくてそっちなの?」
「待ってくれ、小生は妖怪では有るが、一応宝具や宝着を携えているはずだが、なんだこの前合わせの着物は?」
ははぁ、伊吹吾郎に引っ張られたか、それともお嫁さんの矢絣着物・袴姿か、ジェニーの振袖街娘蜻蛉柄に影響されたか。
相変わらずマイクロビキニなユカリさん。
ジーンズにアロハの俺。
いよいよ俺達に統一感が無くなったよ。
「全部慎吾様が、その場のノリで私達に着替えさせたからです!」
だって、そっちの方が可愛いんだもん。
あ、嫁とジェニーが俯いちゃった。
「わたしのは、わたしが出して貰ったんだよ。」
ユカリさんのマイクロビキニは、採寸したらドラゴンちゃんにヤキモチ妬かれるので、サイズ調整が大変だったんだぜ。
「さいすんしてさいず。」
ユカリさん?交通事故みたいな駄洒落をわざわざ拾わない様に。
で、沙悟浄さんよ。お前さんはこれからどうすんの?
「一生、伊吹吾郎のままですか?小生。」
多分、俺達が濃過ぎるからこうなっただけだよ。
俺達から離れれば元に戻るよ。
「私達濃過ぎますか?」
ゴビ砂漠のど真ん中に、ハイカラさんと街娘とビキニ幼女が居て、俺の肩には小鳥と烏が止まってんだから。ここは特異点もいいとこだ。オーガス!(ボイスチェンジャー使用)
「そうですか。小生は砂漠の守護をしていた筈なんですが、さっきから突然、小生の力が砂漠に吸われるようになりまして。」
つまり、俺達と離れるとやばい、と。
「恐らく。こんな事は初めてです。」
ふむ。
「斉天大聖がいずれ来ると言う話を聞いていましたが。」
ふむ、なのに来ないと。待てよ?何で孫悟空が来る事を、沙悟浄が知っているんた?
原作にそんな描写があったか?
「何ヶ月か前に、お釈迦様に聞きました。」
いやいや。それは違くない?竜王の曾孫がムーンブルクの犬っころの正体を教えて回ってるもんだぜ。
「サマルトリアの王子って、なんか軽視されがちよね。」
「“しあわせのかたち“でも、コイツくん不幸だったし。」
「でも中の人、山寺宏一だったんだよ。」
「古本新乃輔って元気なのかしら。」
君らが脱線を始める様になってから、話が全く進まなくなったんだから、少しは自重しなさいよ。1回1回の文字数も増える一方だし。
「慎吾様に言われたくないもん。」
「ねー。」
お前ら本当に仲良いな。
「そのお釈迦様の気配も、この世から消えましたけど。」
あ、話を戻してくれた。ん!では。
いやいやいやいや。
考えれば沙悟浄って、堕天妖怪が冒険の果てに仏陀に認められて仏神となるってのが大元の設定だった筈だ。
砂漠の真ん中で乾涸びて伊吹吾郎になる妖怪じゃないよな。
まぁお釈迦様が居なくなったと言う話は、天照大神の証言と一致する部分もある。
「なので小生はどうしたら良いのか分からんのです。」
ふむ。
ならばやるか。
俺達で西遊記を。
「また慎吾様が変な事を言い出しました。」
ユカリさんを玉龍に当て嵌めると、人数的にちょうど良いし。
「ならわたくしが夏目雅子ですね。」
「別の作品だといかりや長介が演じていますが。」
ああ、君ら猿か豚か、志村か高木かマチャアキかとん平か好きなの選べ。
三蔵法師は俺だから。
「「えー!」」
ゴッコなんだからどっちでもいいでしょ。
んしょっと。
ペコちゃんベロでヒョイと車を撫でると、あら不思議、車ちゃんが3列シートに早変わり。
別に5人なら普通に乗れるんだけど。
「私の身体は髪の先から爪先まで慎吾様のものですので。」
「英国皇女として、肌を許す殿方はお一人だけでございます。」
要は、妖怪と並ぶ事を嫁と妾が渋るとわかっていたので先回り先回り。
この子達、無駄に身持ちが固いんだよね。俺以外には。触られるのも嫌がる。
伊吹吾郎も自分が異性で妖怪で仏で有る事はわかっているので、神道(あと日蓮宗)とプロテスタントとは距離を自分から置いてくれた。
車の中で宗教戦争おっぱじめられたら叶わんからな。
伊吹吾郎こと沙悟浄は、最後部のベンチシートに寝込んでミネラルウォーターをガロン単位でガブ飲みしてる。
やってる事はアイアンキングそっくりだけど、アイアンキング並みに燃費も悪いらしい。
んじゃ、西へ向かうぞニンニキ!
「OK!弦の字!」
沙悟浄。お前までこっち側なのか。5人も居て、ツッコミが1人も居らへんやないか。
で、西遊記と言いつつ、ちっとも遊記しないでクライマックスです。
西遊記で一番有名な敵キャラと言えば、コイツらだ。
そう、金閣・銀閣。
ただな。設定上、最初から俺達には勝てる様にはなってないんだよ。
だって、アイツらの母ちゃんと俺、おともだちだもん。その母ちゃんとは(義理の母ちゃんだけど)九尾の狐。つまり玉藻前だよ。
こないだも言った通り、あの世で鳥羽院といちゃいちゃしてる。いちゃいちゃ。ねちょねちょ。
なので、母ちゃん呼んで政治力で倒しちゃってもいいんだけど、それじゃ伊吹吾郎の修行にならないそうなので(クエストをクリアしないとダーマ神殿に行くフラグだ立たないので、深沙大将に転職できないでやんすって言われたの。いやあんた観音様の化身でしょ。学生鞄を引きずってる五郎って後輩じゃないよね)
閑話休題(いい加減にしろ)
金閣銀閣最強の武器と言えば、例の金色瓢箪。あれは確かに初見殺しでは有る。
でもね、種を知ってれば何の意味も無いわけでね。
俺達の前には、何やらわちゃわちゃ騒いでるでっか〜い鬼が二匹。
どっちがどっちなのかは分かんない。けど、瓢箪を持ってる方が多分、金閣なんだろう。
連中がわちゃわちゃしてるのは、俺が音波を遮断してるから。
いやね。こんな事があったのさ。
「斉天大聖いいいいぃ!」
しーん。
「せ、斉天大聖?せーてんさん?セーテンさんは何処や。全世界は知らんと欲す。」
そんな人、此処にはいないよ。
「んじゃお前!」
初対面でなんだその態度は?ああ?
人を指差すな!
「ええと。」
名前わからなきゃ、そんな瓢箪なんかただの瓢箪だ?
おい金閣?俺の名前を言ってみろ!
(胸に七つの傷は無いけどね)
「あのう、あなただr」
音声遮断。プチ。
とりあえず、瓢箪を潰しとくわ。
よいしょ!
俺は何の気なしにヒョイと飛び上がると、前方回転踵落としを瓢箪に決めてみる。
グチャという音と共に瓢箪は金閣の手から落ちた。仕上げは、おい重力魔神?
(お久しぶり)
あれ?初めて喋った?てか、思ったよく軽いな、重力魔神のくせに。
(重くも出来るし軽くも出来る)
そういやそうか。
まぁ軽くする必要ないから。潰しちゃえ。
(奥方達は軽くしないので?)
駅弁売りが出来るから、今のところ要らない。
(夫婦性生活を簡単にバラしますな)
いいから、やれ。
(アイアイサー)
という訳で、10Gくらい重力をかけた瓢箪は板になり、砂漠の地下深く沈んで行くのでした。あら、マグマ溜まりで溶けちゃった。
んじゃ、お嫁さん?
お嫁さんはとっくの昔に精神集中に入ってました。よしよし。
おい伊吹吾郎!
「あんさん何者じゃ?」
俺?俺は俺。
うちのお嫁さんに銀閣を任せるから、あんさんは金閣をやりなはれ。
得物は、刀と降妖宝杖。どっちが良い?
「格さんとしてなら前者だし、沙悟浄としてなら後者だし。っていうか、斬りかかるには間合いも距離も足らないのでは?」
うちのお嫁さんも、得物は刀だぞ。
「それも変!何故女の子が1人で銀閣大王に立ち向かおうとしてんのよ。」
うーん。あのね。うちのお嫁さんは剣士であっても、基本はただの女の子だよ。
俺の加護がなかったら、あんた簡単にうちのお嫁さんを瞬殺出来るよ。
「それもこれも変。あの子からも竜の気を感じるし。」
お嫁さんが使役しているのは蛇。確かに竜種ではあるものの、竜とは比較にならない下級種なの。
ただし、俺を通じて「日本神道」の加護を得ている。夫婦子弟の繋がりってのは、それ程強固にもなれるの!
更にユカリさんは俺達の娘設定だから。
俺達が家族である限り、竜の加護の一つもそりゃあの子からも溢れてくるさ。
それにだ。
忘れたのか?お前は深沙大将。
仏法の守護者にして、阿羅漢菩薩だ。
たかが金閣大王くらいちゃっちゃと倒してこい!
知っているだろう。あれの正体は狐狸の類いだ。
そして、お前が斃すべき仏敵だ。
「うむ。承知。」
伊吹吾郎は俺から宝杖を受け取ると、大きく吠えた。
同時に着物がはだけ、身体中に甲冑が纏われていく。
そこにいるのは、憤怒の毘沙門天だった。
「思い出したぞ。思い出しだぞ。我が名は毘沙門天。四天王が1人!」
あれ?四天王って封印されてたって、天照回で言ってなかっけ?
「封印されていたから、砂漠で乾涸びていたのよ!」
カッコ悪いです毘沙門天。
上杉謙信が聞いたら泣きます。厠で。
「アイツは酒の飲み過ぎじゃ!」
あ、日本の戦国武将を知ってた。
「あのぅ?」
何ですか。街娘おジェニーさんや。
「銭だかお粥だかわからない呼び名はやだなぁ。」
ハイハイ。何の用ですか。ジェニー。
今から今回のハイライトなんだけど。
今週のびっくりどっきりメカがヤッターワンから出て来る時間です。んあー!
「伊吹吾郎さんって何者なんですか?」
みと…
「黄門の格さん役とかじゃなくてね。河童とか砂かけババアとか深沙大将とか観音様とか。挙句に毘沙門天って。」
多聞天でもいいよ。
「いくないです。正体はなんなのよ?」
にんげん。
「は?」
正確に言えば人間の想い、信心、願い。そう言ったものにより、神仏は幾つもの姿を兼ねる。人の想い、人の願いが積もれば積もるほど、重なれば重なるほど、神仏は強くなる。
こんな風に。
お嫁さんが竜骨刀を、毘沙門天が宝杖を振りかざしながら同時に突入し。
一太刀で、一振りで、西遊記最強の魔王、金閣銀閣は光となって消えていった。
金閣銀閣の姿が消えると、俄に空はかき曇り、雨がしとしと落ち始めた。
砂漠に降る雨だ。何年ぶり、いや恐らく何百年ぶりの雨だろう。
その西の空、雨雲が途切れる僅かな隙間から1人の、いや1体の巨大な影が覗く。
あのさ、俺、あの人見た事あんだよ。
主に、広隆寺と中宮寺で。
「弥勒菩薩様にございますな。」
って事はさ、今は56億7千万年後って事かい?
「そういう事になりますな。そりゃ仏陀伽耶様達の気配が無くなる訳ですわ。」
仏様が死に絶えるくらいの未来か。
つか、よく地球自体が残ってたな。
「旦那様。御説明を。」
うむ。あそこに座すは仏教でいう未来仏、最後に降臨して人を救うと言われている、仏教唯一の一神教性格を持つ菩薩様だ。
「なんでそんな人がいるんですか?」
人じゃなく菩薩だけどね。
「では、小生はあの方の元に帰ります。」
だね。それが一番だ。
「さらば。」
伊吹吾郎改め深沙大将改め砂かけババア改め河童改め毘沙門天は軽やかに空を駆け、穏やかにアルカイックスマイルを浮かべる弥勒菩薩の元へ向かっていった。
めでたしめでたし。
「56億7千万って帝国の軍艦を宇宙戦艦に改造して…」
ジェニー。だから話が終わらないから広げないで。あっちは往復29万6千光年だから。
桁が違うから。




