第38話 西へ向かうぞニンニ以下略
「にーしー!」
ニシン?食べたいの?
んじゃ、ちょっくらそこの川で捕まえてくっから、塩焼きか甘露煮にすっか。
「ちーがーいーまーすー!次の目的地の提案ですー!」
という訳で、ジェーン・グレイさんはうちの家族(サユリさんの妹設定)になりました。
あれから、感涙したジェニーがサユリさんに抱きついたり(以外と涙脆い。それだけ不安だったんだろうけど)。
わんわん泣き出したので、しばらく車を走らせなかったよ。
「急がないけど、そろそろ行こうか?」
「分かりました。親父さん。」
植木等と小松政夫のエピソードに反応してくれる新しく出来た義妹。
うむ、今回はクレイジー・キャッツ回と見た。
で、熊やら鹿やら狐やらの見送りを受けて、車を走らせ出したら、ジェニーがニシンニシンと騒ぎ出した訳で。
「ニシンなんか川にいる訳ありませんよう。」
おや、お嫁さんが知ってたよ。
「私は農村の娘ですから。川魚と言えば鯉・鮒・鯰・鮎ってところかしらね。食べて美味しいのは。」
鰻は?
「あれ、美味しいですかぁ。小骨は多いし泥臭いし。」
なるほど。今までわかった事を総合すると、うちのお嫁さんの出身地は下総か常陸の米造り農家だ。関東の川魚は上手く泥抜きしないと食べられたモンじゃないからなぁ。
わかったわかった。鰻をちょっくら捕まえてくるわ。んじゃ。
「ちょっと。こんな北の川に居ませんよう。」
「わたくしの西へ向かいましょうという提案が、何故お昼ご飯の献立に変わってしまったのでしょう。しかも捕まえてくるとか。」
「慎吾様は、街場以外では大抵食べて美味しいもの捕まえてくるわよ。」
「捕まえて来たって処理や調理がね。」
「何でも出来る事は、今朝見たでしょ。」
「私達もねー。」「ピヨ」
「そう言えば、この中で唯一お料理が出来ないのは奥様だけでした。」
「えっへん!」
「「開き直るな」」
ここが地球の川で、川が海に繋がっているならば、俺にかかれば鰻だの鮭だの鰡だのは向こうから勝手に来てくれる訳で。ほい。
採れた採れた。
「せめて時間をかけて下さい。馬鹿話を展開する前に捕まえてこないで!ぬめぬめしてる魚を親指と人差し指で簡単に摘まないで。」
前に回って鰻に聞いてくれい!
「志ん生ですか!」
小さんでもいいぞ。つうか、うちのお嫁さんが生きてた時代がもはや江戸なんだか昭和なんだかわからんちん。
ところで鰻がご不満ですか?
「有り難みがカケラも見当たらないので。」
そう?だったら白鳥でも捕まえて締めとこか?ほら、あそこ飛んでるし。
「ぎゃあ。白鳥は綺麗だからダメ!鴨か何かを要求します。」
鴨か。しかし鰻と鴨じゃ食い合わせが合わんなぁ。魚は魚、肉は肉だし。
「本気にしなくていいです。」
車をひょいと停めて。どうせ人なんか居ないし。バックドアを開けてコレコレ、七輪と炭。
鰻は腹開きでさっとね。
「ちょっと待ちなさい。鰻は背開きでは?」
あのね。流れの早い水の中で暮らしている鰻は、腸に泥が溜まらないの。
だったら腹から開いた方が楽なの。
「でもでも、武士にはあまり縁起の良いものではないかと。」
この中に武士っているの?
「わたくしは王女です。」
「私はエンシェントドラゴンだよ。」
「ピヨ」
「カー」
うん、君達は神様と八咫烏だね。
「えーとあのー。」
宗門人別帳はなんになってんの?
「……矢五郎兵衛の長女です…。」
初めて義父の名前を聞いた気がする。
ヤジロベーさんのご職業は?
「うちの父ちゃんを子供のおもちゃにしないで下さい。」
んじゃ、大人のおもちゃで。
「そりゃ母ちゃんのおもちゃでしたけど!今になって思えば、滅茶苦茶おもちゃにしてましたけど。」
多分、大人的なおもちゃとして義父を義母が使ってたんだろうなぁ。
全てをして顔を赤らめてるお嫁さんを見る限り。
んで。お義父さんの職業は?
「………。」
なんだ?
「父ちゃんをお義父さんとか、まさか慎吾様から出るとは以外過ぎて反吐が出ます。」
お嫁さんから酷い侮辱を受けました。
「だって、慎吾様って傍若無人が服を着て歩いているじゃありませんか。或いは服を着ていないじゃないですが。」
失礼な。俺は服を着ていない時の方がむしろ紳士だぞ。全裸紳士だ。
「…もうやめてって言っても、やめてくれないくせに。」
あーそれは悪い事をした。俺のデリカシーが足りなかった。今夜からは、やめてって言われたらやめるよ。
「やめないで〜!」
「そうは言いつつ、旦那様の手元はなんですか?」
おや、夫婦間の大馬鹿話についてこないと思ったら、俺の料理の方が気になると。
「だって黒い蛇みたいな魚をあっという間に割いたかと思うと、鍋で何かを煮立て始めるんですもの。女としては奥様の性生活も性癖も大いに気になりますが、それよりご飯。」
君達には食欲と性欲しかないのかね。
「正確には性欲>食欲ですね。」
「あ、あたしも〜!」
この子達、この先どうしよう。
鍋で煮立てていたのは、日本酒と味醂。
熱でアルコール分を飛ばしたところに、砂糖と醤油を加え、弱火でじっくりコトコト煮込みます。割いた鰻は串に刺して、炭火(備長炭)で遠赤外線効果でジュクジュクと火を通してっと。
山椒の実は、実は帝国内部をうろちょろしていた時に採取・乾燥させていたので、これを擦ってスパイスに。ほら、だんだんタレが煮詰まってきた。
焼きだのタレ付けだの、俺にかかればちょちょいのちょいなので。
ついでだから、誰かご飯炊いてくれ。
「わたくしにお任せください!」
エゲレス人がご飯炊けんの?
「ライスって言葉があるんですよ。初めちょろちょろ中ぱっぱ。赤毛ないても蓋取るな。」
赤毛の人はいませんが。
「赤子もいないから丁度いいです。」
なにが?
てなわけで、ピヨちゃんが俺が捌いたワタから肝吸いを作り、ユカリさんは熱いお茶と冷たいお茶を用意して、北国の鰻重試食会(ひつまぶしにするほど鰻捕まえてないし)が開催されましたとさ。
どんどんヒューヒューパフパフ。
「相変わらず私だけ何もしてないの。」
「奥様はお片付け専任という事で。」
「大体、こんな鎌倉彫沈金漆塗り重箱なんかどこから出したのよ。」
トランク(ストレージ)から。
「この馬無し馬車のどこにトランクがあるのよ。」
あなたの心の中に。
「それじゃ仕方ないわね。」
「奥様、信じんだ。」
「慎吾様に関しては疑問を抱かない事が夫婦仲を良好に保つ秘訣です。」
「さっき性癖で喧嘩してましたが。」
「アレは夫婦間の戯れ合いです。」
「旦那様に紳士的に扱われると聞いて血相を変えてましたが。」
「たまには我儘も言います。」
「良いですよ。その分わたくしに全裸非紳士になって、不満を全てぶつけて頂ければ、わたくしが全部受け入れますので。どすこいと。どすこえふすきーと。」
もうすぐ3000文字に近づいているのに、今回ちっとも話が進まないなぁ。
「だからわたくしが冒頭第一行で西に行きましょうと提案したではありませんか!何故かニシンの話になって、鰻重を作り出しましたけど。あと、土鍋で炊いたライスって美味しいし。」
どれどれ。あ、ほんとだ。にーしーとか言ってるからニシンと間違えたんだ。
「違う。わざとです。」
うん。
「少しは否定しなさい。話の腰がボキって折れました。」
だってかみまみたパターンが始まりそうだったんだもん。ただでさえ地の文も台詞もふざけっぱなしなんだから、ある程度は抑えんと。
「わたくしもこんな馬鹿な話の登場人物になろうとは想いもよりませんでした。」
君、最初のキャラ設定よりはっちゃけ過ぎだもん。
で、西に何があるんだい。
「天竺です。」
…君さ、何話か前まで敬虔なプロテスタントじゃなかったの?
「知識としてあるだけです。プッディストの存在は。」
東インド会社とか、大航海時代は少し後の話だったと思うけど。
「非暴力運動をしていました。」
うわぁ、大航海時代どころか戦後になっちゃった。
「旦那様が求められているものは何なのか分かりませんが、天竺には大いなる力があります。」
うむ。しかし、ここはアラスカなのかロシアなのか、西に行ったら天竺って。
「行きますよ、おっしょさん。」
クレイジーキャッツ回だと思ったらマチャアキ回なのかな。
「あーみーまー。」
えぇ、ドリフ回なのぉ。しかも孫悟空がジェニーぃ。
「んじゃ私は夏目雅子で。」
お嫁さんはカトちゃんで。つうか、ドラマ版にするか人形劇版にするか、統一しなさい。
「パパ私は?」
んー。キャラ上、馬かなぁ。
「すわしんじ、だね。」
ああ、ユカリさんまでおかしな事に。ピヨちゃんと八咫烏は乗らない様に。
だから何故大きな熊手を持ってんの?
「ピヨ」
ああ猪八戒のつもりなのね。ていうか、あんた多岐都姫だろ。神様が妖怪に当て振りするとは、世も末だなぁ。
「ピヨ」
ハイハイ、それを正すのが俺の役割だったね。ハイハイ。
3500文字使ってメシ食っておしまいとか毎回の様にやってんのに、いつの事になるのやら。




