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第37話 レディ・ジェーン・グレイのそれ


はいはい。みんな終わり。帰った帰った。

パンパンと手を叩くと、タイガで開かれていたリサイタルの観客達は一斉に我に帰り、回りにいる者達の姿を改めて確認して驚く。

「終わりですよう。みなさん、大人しく帰りなさい。」

「「「「「がう。」」」」

「気のせいですかね。奥様が指示している相手は二角黒熊に見えるんですけど。なんか立ち上がって敬礼してますよ。」

黒熊の上位種だね。元の地球ならグリズリーといったとこかな。一角黒熊より一回り大きくて、角が二本ある。 

「あのあの。熊が奥様の手をひと舐めして挨拶してませんかね?」

そりゃうちのお嫁さんは、熊を統べる人だから。

「なーんーでー!なんでそうなるのっ?」

あ、欽ちゃんだっ!


こないだ森の中でお嫁さんと熊がメンチの切り合いして、お嫁さんが勝ったらああなった。

実は我が夫婦の下には熊達がいるんだ。

俺達に戦争を仕掛けると、世界中から熊が援軍に駆けつけるのさ。

「無いから。色々無いから。」

無いって言ってもさ。ステゴヘラジカが順番に並んでるし。

ジェニー。君にだ。

「はぁ〜?」


俺達以外の観客というのは、北の大地に棲まう野生動物達。黒熊、ヘラジカ、狐、大小の鳥達が、それぞれの場所でジェニーの歌声に安らいでいた。

一部の鳥は、ジェニーの歌声に合わせてハモリまで、己の鳴き声を奏でていた。

その鳥達は、ユカリさんとユカリさんの両肩に止まるピヨちゃんと八咫烏に嘴を軽く当てる挨拶をした後、こちらも礼儀正しく順番に大空へ飛び立っていく。

いつしかジェニーは鹿に埋もれてしまい、歓声だけステゴザウルスの中から聞こえてくる。

手持ち無沙汰になった俺はどうしようかね。


ん?キタキツネ?るーるるる?

歌ったのは、うちの居候で、俺じゃ無いよ。

「わたくしは一応英国王室の姫であって居候と言われるとなんだかくすぐったいよぉ。そこ舐めないでええ。」

なんか鹿の森の中から前後の辻褄が合わない声が聞こえてくるけど、楽しそうだからいっか。 

「いくないですぅ〜。」

え?あー、玉藻前?知ってる知ってる。

油揚げで釣った事あるよ。

「無視されました、ウヒヒヒヒヒ。」

あっちはほっといていいから、そっか。あいつの眷属か。

ああ大丈夫。あいつはあいつで幸せそうだったよ。まだ鳥羽上皇に仕えてた。

わかったよ。よろしく言っとくし、また逢えるようにしとく。ああ、じゃあね。


「久しぶりにみんなに会えて嬉しかったです!」

種族は違うけどね。熊は熊か。くまー!

「私達も楽しかった。」

「ピヨ」「クー」

「わたくしは別の扉が開けかけましたわ。バター鹿という。」

大体の性技って暇に任せた女貴族が、男貴族の歓心を買う為に開発したそうだけどさ。

バター鹿を開発させたとか、ヘンリー卿が聞いたらどんな顔すっかな?

「お父様は傍系王族ですから、娘は道具でしかないから、セーフ。」

そんな悲しい事を12歳の女の子が言うんじゃ有りません。

「その可哀想な12歳の処女を楽しんだ責任くらい求めてもバチは当たらないと思うの。そのくらいの甲斐性ある男なんでしょ。妾の1人くらい。」

そういえば、妾希望の竜人姫が2人くらいいたなあ。ほったらかしだけど。

「竜人姫って。それも2人?姉妹丼?」

まーそーだけど。

「困ったなぁ。竜人相手じゃ、たかだか12歳では勝てないわ。もう処女じゃないし。」

「そんな事言ったら、私なんかただの百姓娘ですよう。妻の座を脅かされ過ぎな旦那様です!」

「パパ、彼女達なら毎日ワクワクしてパパが迎えに来るの待ってるよ。」

お前らうるさい。


しかしな。ジェニーの歌に癒しの効果があったか。

「ジェーン・グレイはベホマズンを覚えた!」

いや、せいぜいハッスルダンスだ。

「しょぼ〜ん。」

ふむ。何故だ?確かにジェニーの声は心地よいし、俺の加護が発動するのはやぶさかでは無い。だが、それにしては俺とジェニーの縁が薄過ぎる。コイツが典型的な肉食なのはわかる。死ぬくらいなら犯られたい、って言うのは思春期直前の、小学校高学年にあたる女子として異様だ。

いくら、そんな教育を受けて来た王女であろうとだ。エゲレス人ってのはそうなのか?

ん?エゲレス人?魔術師、錬金術師、占星術師。そして、ジェニーの鍛えられた計算能力。

ふむふむ。おいおいジェニーさんや。

「なんですか?お爺さんや。」

やっぱこの子面白い。閑話休題それはともかく、口をおっきく開けて喉ちんこ見してみい。

「女のわたくしに唯一付いているチンコですわね。」

またチンコが出てきた。おっぱいだのチンコだの。下品な作品だ。 

「飯炊き女の腰を抜かさせたと、初期に描写がありますが?」

そのチンコ目当てに道端でいきなりプロポーズして来たお前さんが言うかね。

どれどれ。なるほど。そういう訳か。

「アアーン。」

変な声を出さない様に。要が済んだから口を閉じなさい。

「ちゅー」

しません。お嫁さんも一緒になってちゅーしないの。

「ぶちゅー」

こらこら、ユカリさんにされました。ほっぺに。

「まぁなんて事でしょ。娘に主人を寝取られましたわ。」

「この売女!」

「えへへへへ。」

姦しいなぁ。


思考開始。

(そっか。イギリス王室というか、イギリス人は魔術が好きだったな。

ジョン・ディーやら、アレイスター・クローリーやら。ましてやジェニーは中世の人間だし、東洋の陰陽道が当たり前の世界だった様に、魔術が当たり前の世界ならば、それが“実在しようがしまいが“、人間の精神に影響を与えて、沈着定着するのは当たり前なんだな。

本人には言えないけど、ジェニーは魔法使いになれる素養がある。もしかしたら、それが4年後に向かえる悲劇を避けられる切り札になるかも)

以上、思考終わり。


「何かまた変なこと考えてませんでしたか?」

失礼な。俺が考え事したら悪いか?

「あぁでも、悪い顔してなかったから大丈夫かな。」

あの、サユリさん?俺ってそんなに顔に出易いの?

「まだ短いとはいえ夫婦ですから。慎吾様が無茶をする時は、何故か切なそうな顔します。」

うーむ。大体力尽くで罷り通るからなぁ。俺以外が被害を被るんだ。敵対者ならともかく、嫁や娘にまで無茶をさせるのは心苦しい。

「だよね。慎吾様って無茶苦茶な割に優しいもんね。」

「いいなあ。さすがは夫婦。わたくしにもそんな日が来るのかしら。」

元のジェニーは、夫にも信教にも真摯な人だったな。政治的な立ち回りに全く興味をわざと示そうとしなかったから、ああなった訳だし。

まぁあれだ。お嫁さんとはそれ相応の縁を紡いで来たから、たった15歳の少女でも俺の一部が透け透けスケトウダラになった。

このお嫁さんは、一見アホに見えるし、人生経験も少ないからアホな部分も実際にあるんだろうけど、常に真剣に生きている人なんだよ。

ジェニーが今後どうなるのか。俺達について来るのか、何か別の道を見つけて俺達と別れるか。そりゃ分からん。どーでもいー。

「わりかし心に染みかける話だと思っていたのに、なんですかそのハイフンマイナスで締めるテキトーな言葉は?」

だってサユリは嫁だし、ユカリは娘の体のドラゴンだけど家族には間違いない。

ジェニー。お前はどうしたい?

前にも聞いたかも知れないけど、今新しい分岐点に立っているから、改めて聞こう。

お前には癒しの能力がある。

魔女、魔術師としての道も出来そうだ。

なんなら膜を再生して亡国の姫の貴種流離譚の主役にしてやってもいい。


「あのですね。確かに滅茶苦茶な出会いをして、わたくしの滅茶苦茶な願いを聞いて頂きました。わたくしは貞操を捧げた人にはわたくしの全てを捧げる覚悟、というか想いをずっと持って来ました。所詮、王族間の肉人形としてしか存在が許されない女ですから。だから、わたくしはわたくしの初めてを捧げた方について参る所存です。わたくしが役に立つ事が一つでもあるならば。」


だ、そうだけど?どうする?

「今更捨てられる訳ないです。ジェニーは私の妹で、私達の家族です。」

「ん〜、いいんじゃない?この子も育てるとおかーさんとは別方向の勇者になりそうだよ。ムーンブルクの王女的な。」

「あぶない水着を着ますか?」

着なくていいから。(そういや、あいつギガンテスをソロで倒したって設定もあったな。イオナズンとか覚えるんだろうか?うちのお姫様)


という訳で、半ばエロギャグ担当のNPCもしくはゲストキャラだった、元の地球ではテューダー朝第4代王にして、僅か9日間で廃位斬首刑になった悲劇のイギリス初代女王、(レディ)ジェーン・グレイ(非処女)は、俺達の正式な家族になった。

今回は後半ドラクエ回かぁ。

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