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神様野郎(お婆ちゃん)

暗闇を潜ると、そこは雪国なんかじゃなく(雪国なら今走り抜けて来たとこだしね)、薄暗い空間だけがただ広がっていた。

俺の車は、ふわふわ頼り無く浮いている。

ピヨちゃんは、何かを感じたのか、鼻提灯を出しているユカリさん(可愛い)から俺の肩に飛び移っていた。

周りを見渡すと、火の鳥の火が消えて鳶的な姿を表したストーカーがキョロキョロ首を捻っている。

一応敵っぽい立ち位置の登場のくせに、やたら不安そうだなおい。


しばらくすると、前方から柔らかな灯りが輝き始め、その中心に人影が現れた。

杖、というよりは介護用の4本脚のステッキを左手で持つ老婆の姿だ。

鳶は慌てて逃げだそうとするも、何処に逃げんだよ。あちこち矢鱈滅多ら飛び跳ねた末に、諦めて俺の車のボンネットに止まった。

というか、不貞腐れて寝転がった。

トンビのくせに器用なもんだ。

「ぴー」

ハイハイ、ピヨちゃんは焼き餅焼かないの。


「お初にお目にかかります。私はこの世界の神を務めている老婆に御座います。貴方様はワタリの方とお見かけ致しますが?」

32話もかけて、やっと神様に会えたか。

「私には名前がついておりまして、俗に言う天照大神。」

待てこら。

いやさ、地球の神話を基に設定されたフィクションなら山ほどあるよ。

大神オーディーンとか、主神ゼウスとか。

でも大抵は北欧神話かギリシャ神話だと思うんだ。日本神話、それも天照大神って。

「仕方がないでしょう。私は生まれた時から天照なんだから。」

思ったよりフランクな神様の様だ。

元日本人としては、ちょっと複雑な気分ではある。


「コホン、話を戻します。この世界に於いて感じられた不自然とは何でしたか?」

んー。どいつもこいつも処女を俺に差し出す、とか?

「…私は経産婦ですからね。」

知ってる。俺、元日本人だし。

神様に手を出した事は無いよ。


あとは、微妙に地球の匂いがする。

嫁の名前はサユリだし、途中で拾ったのはジェーン・グレイだし。

あと、地名やらアンタやら。

「その通りです。ここは地球です。」

ふーん。

「ふーんて、ふーんて。驚きが足りません。」

わーびっくり!これでいい?

「驚いてないし。」

!マークまで付けてあげたんだけどなぁ。


では、質問しよう。ジェニーはあのジェニーなのか?

「はい、イギリス初代女王ともされるレディ・ジェーン・グレイその人です。」

北の帝国で捕らえられたスケベ姫が、イギリス王室有数の悲劇の姫君ねぇ。

しかし、うちのお嫁さんは誰だ。サユリだと20世紀の赤胴鈴之助に出ていた女優くらいしか思い浮かばない。

「何故、キューポラのある街とか、まぼろし探偵とかでなく、剣をとっては日本一に?」

思ったよりも昭和芸能史に詳しい我が国の始祖神だった。

どこまで付いてこれっかな。

「コホン。肝心なのは彼女ではなく。彼女の子供が、歴史に名前を残します。名を伊藤弥五郎景久。勿論、貴方の息子です。」

また渋いとこ拾って来たなあ。塚原卜伝とか、宮本武蔵とか持ってくりゃいいのに。一刀流の開祖じゃねぇか。

「仕方ないでしょ。貴方と縁が合って貴方の子として生まれてくるんだから。」

俺との縁?

「終焉地が下総小金原、生前貴方が住んでいた地です。」

待て待て、話がひっくり返ってる。

なんで俺が住んでた場所で死んだから、俺の子供として生まれてくんだよ。

「全てはそれに尽きる訳ですよ。」

はあ。


「それだけでは有りません。元の地球にはあり得なかった生物をご覧になったかと思います。」

まぁねぇ。竜とかはモンスターとして世界各国に伝承がある事実には、なんらかの要因があるのだろうけど、竜人はねぇなぁ。

学研漫画で、人類が滅んだあとに地球を支配する生物として、爬虫類系進化型人間の想像図くらいしか知らないや。

「彼らは別の世界から、彼らの存在が当たり前の世界から、やって来ました。いえ、より正確に言うのならば、混ざりました。」


少し整理させてくれ。今聞いた話を大雑把に纏めるとだ。複数の世界と複数の時間が入り混じったって事かいな?

「大雑把に纏めると、そうとしか言えません。」

なんで神様の言う事が仮定形なの?

「私にもわからないからですよ。何しろ私は神とはいえ、様々な封印を受けてこの北の果てに閉じ込められているからです。」

ふむ。


「ふと気がついた時、世界各国の天界は崩壊していました。私は各国の主神としては目立たなかったから北の地に逃げ込みました。そのまま封印された訳です。」

おいおい情け無いな神様、というか目立たなかったから生き残ったってガミラス相手の日本かよ。

「その代わり、私がここにいる、この世界に現存する唯一の神族として、元日本人のワタリを迎え入れる事ができたのは、何かの思し召しなのでしょう。」

…神様が言って良い言葉じゃないなぁ。

「因みに、何者が地球の天界を滅ぼしたのか不明です。」

…始祖神があちこちに何柱が居た筈だけどなぁ。

「助けて頂けるならば一夜を共にする事も厭いません。」

厭います。さすがに貴女は内角(内閣)高めのビーンボールです。

「大リーグボール1号はビーンボールにならないと、川上監督が確認してたと思います。」

そんな事実確認が面倒くさい事を思いますで片付けないでください。

「大丈夫、私の封印がとければいくらでも若返れます。」

そーゆーもんだいではありません。(白眼)


とりあえず、この世界で俺がやらなきゃならない事はわかった。

どーしたらいいかさっぱりわからないけど。

「お願いします。」

お願いされてもなぁ。俺の仕事だからやるけど。とりあえず必要なのは、事実確認だな。

「巨人の星全巻読み返しましょうか?」

いや、そっちじゃなくてね。

「Kindleでまとめ買いしますか?」

しなくていいです。


まずは、その鳶はなんなんですかね。

「極北の魔王の使いになります。」

名前はミストバーンとか言いますか?

「名前はわかりません。」

あれま。そこら辺で手を打ってくれそうなのに。

「ただわかっているのは神の息吹、神威が全く通用しない存在だと言う事です。炎帝や四凶、阿修羅や四天王の力は一切通用せずに、別世界に飛ばされた様です。

いつも役に立たんなぁ阿修羅と四天王。

あと、そんな極悪魔王の使徒にしては、なんだか矢鱈剽軽なんだけどアイツ。

ほら。腹ばいになって臍掻いてる。

「なんで鳶に臍が有るんですか?」

知りませんよ。おおかた、卵生ではなく胎生の鳶なんでしょ。

「そんな事が有るんですかね。」

今更でしょ。

でさ、うちのお嫁さんなんだけど、蛇神を使役させたのは良いけど、能力に飲み込まれかけててね。アイツくらいでテキトーな訓練出来ないかな?

「んん。この空間ならば私の力が及びますから邪神くらい簡単に討ち滅ぼせますよ。というか、何故貴方は自分の愛妻に邪神を飼わせて居るんですか?」

ノリで?

「ノリで人間が出来る事ではありませんよ。」

出来ちゃった人だから仕方ないでしょ。

「…まぁ、そう言う人だから、貴方のお嫁さんになったんでしょうけど。」

多分、そんな事考えてないな。

食欲と性欲に負けたってゲロってたし。


「でも、改めて貴方のお嫁さんを見ますと、多分あの鳶くらいじゃ相手になりませんよ。」

俺の弟子だからな。それなりに鍛えて居るもん。

「で、はいからさんが通るな姿はなんなんですか?」

俺の趣味。

「レディジェーンは和服ですね。意外と私とは趣味が合いそうです。」

どうでもいいです。

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