ろーどむーびー
「ピヨ」
ふむ。あの鴉達からは生命力を感じないとな。
(もう一つ付け加えるならば、生体エネルギー、つまり生体電力を感知出来ません。勿論、機械的な電力も感知出来ません)
つまり、生きて無いし機械でも無い。と。
生物ならゾンビ。生物外なら魔物的な何かか。連中の狙いは何かね。
俺か、それとも囚われ姫ジェニーか。うちのお嫁さん…は無いか。帝国正規兵を間違えて殺して殺して虐殺したけど、得体の知れない連中に襲われる理由が無いって、思ったのも幾星霜ありゃバリバリ有るやん。邪神の類いになる蛇神連れてたっけ。
ユカリさんはエンシェントドラゴンさんだから、人外相手に過去何したか知れたもんじゃないし。
あれま。我が家にまともな奴が1人もいなかった件。
「ピヨ」
いや、ピヨちゃん抗議するけどさ、あんたとっくの昔に小鳥の範疇を越えてるし。
(で、どうするの?機械相手じゃないならあたしの出番無いし)
うん。セクちゃんは、俺とピヨちゃんだけじゃ寂しいから景気付けに話してただけだし、ミクラスはエンジンに専念していいよ。
(あたし電気的な存在だから、どっちかって言うと、ウィンダムなのよねー)
わかったわかった。アギラとか言い出さないうちに黙らそう。
さて、どうしよう。今のところ俺達を包囲して飛んでいるだけだし、放置しても良いんだけど、鬱陶しいなぁ。
ウィンダム!全力前進をしてみようか。
(あたしはセクちゃんなのか、ウィンダムなのか。どっちよ)
んじゃ、間をとってチンコで。
(子供か!)
うるさいチンコもっと飛ばせチンコ怒張しろチンコ。
(だんだん面白くなって来たけど、一応あたしはチンコをありがたく貰う方なので勘弁してください。なんなら全裸土下座しますから)
この車の中に喜んで全裸土下座する奴が2~3人居るから要らない。
(…娘にまで全裸土下座させる気ですか?)
ユカリさんは全部分かった上で、楽しんでしそうだけどね。
そんな馬鹿話をしながらアクセルを踏み込んだみる。プリウスかなんかを運転してるみたいでエンジン音が全く高まらないのでつまらない。それでもそれなりにスピードは出ているようで、鴉達をあっという間に振り切った。
とはいえ案の定、一度振り切った鴉がデスラー戦法の如く行く先々に現れる。しかもコイツら、相変わらず俺達の周りを包囲するだけだ。
コイツらの狙いは本当になんなんだろう。
時速180キロまで表示可能なスピードメーターはとっくに振り切っている。
うちの女性陣が寝呆けていて助かる。ユカリさんはともかく、サユリとジェニーにスピード耐性が有るとは思えない。Gがかかり始めているし。
偶にはまともに状況描写をしてみようか。
街道を真面目に走る気は最初からなかった。
だって、この世界に存在しない4WD自動車なんかが走ってたら、人々の無駄な騒ぎになるだけだもん。(今更と言うツッコミは無しだ。俺みたいに基本的なポテンシャルが人間離れどころか神様離れしていると、くしゃみするだけで村が一つ滅ぼせるからね)
荒野を壮大な土煙と共に疾走している黒い車体は側から見ると視認が難しい。
見た目はただの黒い塊にしか見えないだろう。
そこまですっ飛ばしているから、真っ当な存在は物理的に追い縋る事は不可能だ。
だから、それこそ小ワープを重ねるが如く、謎の鴉達は謎の跳躍を見せて食い下がってくる。わからないのは、鴉達はついてくるだけで、それ以外の行動を取ろうとしない事だ。
奴らが俺達に敵対心を持っている事はわかる。それは、ワタリの俺の極々基本的な探知能力だし、敵意はビンビンに伝わってくる。
俺達の中の誰かを害したい。それに間違いは無い。
なら何故手を出さない?出せない?
ふむふむ。
まぁ別にお誘いするほど人が良く無いので、とりあえず色々試してみよう。
スピードメーターが振り切れるとどうなるか?答、ぐるぐる回り出す。松本零士かよ。
そんな事して遊んでいる訳だけど、ぶっちゃけ粘着走法で走れる速度はとうの昔に超過してる。いや、どこまで付いてこれっかなぁって無制限に速度を上げてみたのさ。
勿論、普通の人間(あれま、うちにはジェニーしか居ねえや)が大丈夫な様にシールドを掛けてあるんだけど、そのシールドだけで鴉は脱落したよ。そのかわり、猛禽類なのかな。
科学忍法火の鳥みたいなデカいのが単体でついてくる様になった。
火の鳥って言う様に空気の摩擦で燃え上がりながら、必死についてくる。
「ピヨ」
ピヨちゃん曰く、「こんなん聞いてないよぉ!」って叫んでるそうだ。
ぴーとか、くえーとか叫んでるらしいけど、今の俺達は宇宙空間を滑空している様なもんで、外は映像は見えても音声は確認出来ない。音速なんて、明後日の後ろに置きっぱなしだし。
ていうか、弱音吐いてんのかよ。
もっとしっかりせいや、暗殺部隊!
多分まだ半日経ってないけど、外の景色は白くなった。針葉樹林の中に突っ込んで行く訳だけど、ちょいと細工をしてだね。
俺の進路の木々が慌てて避けて行く。
死にたくなけりゃ逃げろ!って念じたら、動けない筈の木々が根っこを自ら引っこ抜いて走って逃げていく。
中には、中々自分の根っこが抜けなくて、慌ててる木から雪が舞ってたりしてる。
アメリカのカートゥーンみたいで面白い。
「ピヨ」
後で勝手に好きなとこで埋まり直すから大丈夫だよ。
火の鳥も必死についてくるけど、あれま。
時々木にぶつかって、木に怒られてる。
謝り謝りまた速度を上げて、俺についてくる。随分と礼儀正しい暗殺者だね。
やがて雪と氷の世界に変わり、針葉樹林も消えて(逃げて)行ききった。
永久凍土が猛烈な湯気を上げながら、俺達が走った後に谷を刻んで行く。
この世界の極地はどうなっているんだろう。
北極海か、北極大陸か。
4WD自動車はとっくの昔に自動車という概念を再考しないといけない「何か」になっているけど、この後はマッハ号にするか、流星号にするか方向性を考えないといかんしね。
俺達の少し後方を飛んで居た火の鳥は、やっと邪魔する障害物が無くなり、伸び伸びと飛んで、え?伸び伸びとしてないの?
「ピヨ」
まぁね。この車とっくにもう空飛んでるし。
必死ですか。ですね。
というかですね。前方に何やら黒いものが見えるんだけどなぁ。
「ピヨ」
うん。避けるべきなんだろうけどね。
俺の中の誰かが突っ込めと囁くんだ。だから行くわ。
黒い何かは、中空に浮かぶ異空間への入り口だろうし。その先で多分何かが待ってる気がする。
「ピヨ」
気がするだけで家族を巻き込むな!ってもう遅いよ。だってほら、黒い何かが一気に膨らんで俺達を飲み込もうとしてる。
後ろの火の鳥が慌てて(慌てる奴多いな)離脱しようとしてるけど、はい追いつきません。
「ぴー」
ピヨちゃんの悲鳴と共に、俺達は黒い何かに吸い込まられていきました。
ああ、なんか後ろの方でクゲェって声がしてたそうだけど、そこまで責任は取れないから。
全ては自己責任で。