山越えその3
「居るかー」
居るなあ。
「おるかー」
おるぞ。
「くじらー」
なんだその昭和親父ギャグ。
うちのドラゴンちゃんのセンスは、時々分からんなあ。
「そりゃ、あたしゃこれでも悠久の時を生きてるからな。」
なんか用か。これから忙しくなるつもりなんだけど。
「忙しくならない選択もあるんだ。」
そりゃあな。
こんなウ◯の偽物、俺1人で充分だし。
嫁と娘はほっといても問題ねぇし。
テントん中で2人戯れてる声するしさ。
大体、龍人娘で遊んでんじゃないのか?
「今、最後の一匹舐め殺したんだ。龍と龍人は流石に相性が最高らしくてな。あたしが攻めてるうちは逝き続けてて、欲しがって、更に攻め立てるうちに、みんな餓死しちゃった。」
あー、あれからそのくらいは経ったか。
「んで、飯代わりに死んだ娘共食って腹一杯になったから、寝ようかなと。でもその前にと我が主の様子を見てみれば、白い馬鹿デカいのに掴まれているときたもんだ。」
俺たちは、寝しなに観察されるもんじゃないけどなぁ。
「だってそっちの龍がなんかベトベトしとるじゃろ。」
ユカリさんは飴ちゃんか何かか?
一応、お前に遠慮してチビ龍になったみたいだぞ。チビなら俺を襲いたくとも難しいとな。
「我が主殿よ。あんた襲われるんか?」
性的にね。
「なるほど。一応龍のつがいはワシ1人とワシが決めとるけん、チビになる事で性的欲求も抑制したか。」
知らんけど、龍の性生活って何がどうなってんだか。あと何処の方言だよ。
「龍は最後まで添い遂げるぞ。嫉妬深いから浮気は許さん。だがモテる雄は誇らしい。だから一種に一人の嫁は構わん。龍人は二人嫁候補がおったな。龍のよしみで大目に見よう。出来れば変態でなければ尚良い。」
俺は変態か?
「幼な子を嫁にしとる。」
この世界のお嫁さんか。あれはなんとなく口説かれてみたらまだ15歳だっただけだぞ。
「なんとなく15歳に口説き落とされるな。」
何処ぞの世界では、初潮前の12歳の子と正式に婚姻の儀を結び、あっという間に2人子供が出来た事もある。
「何処ぞの国だと強姦扱いじゃな。」
あれも、なんとかという殿様に見込まれて押し付けられたんだけどな。
天下統一を達成させた後は、娘婿の座なんか面倒な事になっから、さっさと依頼片付けて逃げ出したけど。
「やーいロリコン」
己の所業を鑑みて否定は出来んが、大年増も美味しく食べとる。
長く生きてる分、経験値も高けりゃ、その時々の美味しい食べ方も知ってるだけだ。
「…大年増って誰じゃ?」
お前、最初に俺に抱かれた時、何歳だった?
「ふわぁぁあ。眠い眠い。眠いからワシ寝る。」
はい、おやすみ。
「嫁ならいくらでも食べていいが、龍は食うなよ。」
本当にヤキモチ焼きのドラゴンちゃんだった。
ところで今、俺は一応この馬鹿デカい怪物くんと闘おうとしているわけだけど、ほんと何しに話しかけられたんだ?
さてと、まずはコイツをなんとかしよか。
テントの方は、と。
「キャッキャッ」
うん。ユカリさんは楽しそうだ。
「私は楽しくないですよう」
うん。お嫁さんは楽しく無さそうだ。
とりあえず、延髄切りを一発。白い化け物は、雪煙を上げて倒れた。
テントの方は、と。
「キャッキャッ」
うん、ユカリさんが楽しそうだ。
テントが空を飛んでるのはユカリさんの飛行能力だろう。
「私は楽しくないですよう。」
うん。お嫁さんは相変わらず楽しく無さそうだ。泣きそうな声がする。
ユカリさんにはテントごと離れてて貰おう。
「分かった。パパ。」
テントの窓から羽根だけ出してパタパタ羽ばたいて離脱してったよ。
そうか、龍の羽根ってテントのメッシュくらいは突き抜けるんだ。
ぬおおおおおおおおおおおおおおおお。
おおお、吠えたぞ。
思わず受け口になって両手を差し出しちゃうぞ。
こいこいバカヤロー!元気ですかー?
白い化け物が立ち上がるところを、顎めがけてジャンピングニー!
おお!と右手を上げる。
そのまんまサポーターを掻き上げると、空中でラリアートを首に叩き込む。
仰向けに倒れた化け物の胸でテキサスロングホーンを高々と突き上げると。
UIIIIII(ユース!)
遊び過ぎた。
白い化け物にボディプレスを食らったぞ。
雪の中だからよかったけど、雪が無かったら骨の一本もイカれたかもしれん。
…俺じゃなくて、白い化け物の方が。
とはいえ、身長57メートルに潰されると身動きが取れない訳で。
こおゆうときはっと。
腕立て伏せ腕立て伏せ。
おいっちにさんしー。
おいっちにさんしー。
繰り返すうちに、白い化け物が大きく上下動を始める。
と、同時に俺は雪の中に沈んでいくわけで。
ある程度繰り返して、白い化け物がフワッと浮いた隙に、俺は仰向けになる。
そうなったらこっちのもん、草薙の剣を抜くとそのまま突き刺すわけだ。
ぬおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお。
コイツからは神威を感じない。
モンスターや怪異特有の妖しさも感じない。
つまり、うちのお嫁さんが使役する蛇神の様な「特殊性」「特別性」は一切感じない。
感じるのは、人の気だけだ。
そう、コイツは人だった。
コイツは一人なのか大勢なのかはわからんが、要は雪山で遭難したモノの念が実体化したものだ。
ったく。雪男も雪女も◯ーも全部混じってんじゃん。
だとしたら、俺がやる事は一つだけ。
俺は元々日本人だし、神様とやらには山程会ってきた、とぉっても信心深い人間なんだよ。(仏様には会った事なかったな)
そして俺が今構えている刀は神剣。いささか緊張感に欠けたとは言え、八岐大蛇の尻尾から出した神の剣だ。
改めて白い化け物を見据えると、そのまま空を切った。
九字を切るが如く、上下左右に草薙の剣が動いた。
そのまま、白い化け物は光のカケラになって消えていった。
「南無三」
それが正しいのかは分からん。一言念仏らしきものを唱えると、静かに剣をしまった。
パタパタとユカリさんテントが降りてきた。
「終わったー?」
終わり終わり。さー寝るか。
サユリさんはどした?
「おかーさんだったら、途中で目を回しちゃった。もう寝てるよ。」
そっか。パパもちょいと疲れた。
16文キックをし忘れたし。
明日は雪山も越えて平地に出ようか。
山も飽きたし。
「おかーさんはごねないかなぁ。」
普通の旅館なら可愛がれると言えば大丈夫。
「おかーさんってチョロい?」
あっちが最初からそういう女だったから、俺何にも苦労して無いもん。
さぁ寝よう寝よう。なんならおかーさんの寝袋なら広げられるから、3人で寝よう寝よう。
「ねよーねよー。」
んじゃ、おやすみなさい。




