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北へ行こうらんららん

つうわけで、北の帝国に向かっている俺達です。

ユカリさんは俺の肩車にのり、ピヨちゃんはユカリさんの肩でユカリさんの耳を甘突きし、サユリさんはいつもの通り、一本歯下駄で俺の隣で歩きます。

蛇神が憑いてて人としてのポテンシャルはカンストしてるから、多分これ以上体幹は上がらないと思うけど。

「我が師匠にして、我が夫・慎吾様のおっしゃる事ですから、私が納得するまで行きたいねです。」

うん、なかなか良い娘だね。

でもね。一本歯下駄でダッシュしたりトンボを切ったりしてる段階で、もう意味が無いと思うよ。

「だってぇ、エンシャントドラゴンが2人と竜人の娘さんが2人がお妾さんなんですよ。アタシじゃ女として勝てないし。」

「私もお妾さん?わーいお妾さん。」

ユカリさんに手を出すと、色々厄介な事になりそうだから、やらないよ。

「パパ、やろーよー。」

やりません。

「なんか、ユカリさんわかって言ってる気がするなぁ。」

「大丈夫だよおかーさん。」

「なんか馬鹿にされている気もしますけど。大体これでお姫様まで混じったら、ただの村娘の私なんか夜伽に呼ばれなくなりそうで。」

何心配しているのか知らないけど、人間のお嫁さんはサユリさんだけだよ。(イマノトコロ)

「人間のって言うあたりが、ツッコミどころ満点なんですけど。」


北の帝国と国を分ける山脈は、ここから徒歩で3日。

今の俺達にはひとっ飛びな距離なんだよね。

うちのドラゴンちゃんの力を借りずとも、ユカリに乗ってきゃ良いし。

何なら、お嫁さんも蛇神の力使えばなんとかなりそうだし。

と思い提案してみたらだね。

「蛇に跨って行くのは女としてちょっと。」

「蛇やー。」

女性陣に反対されたので、蛇神君出番無しだって。

なんかわからないけど、皆んなで歩いて行く事になりましたとさ。

なんで?


でまぁ特にこれといって事件があるわけで無し。北へ向かう街道は基本人影なし、宿場もなし、たまに農村があるくらいだけど、わざわざ一晩の宿を借りたりするのは面倒なので、簡単な天幕で休む事にしたのさ。

「どっからこんな何か訳わかんない物出したんですかぁ?」

ジト目半分、興味津々半分でお嫁さんが俺が取り出したテントをペタペタ触ってる。

ペタペタ。

ユカリさんもペタペタ触ってる。

ペタペタ。

ピヨちゃんもペタペタ触ってる。

ペタペタ。

ピヨちゃんがどうやってペタペタ触ってるんだかは描写しない方が良い気がする。

この小鳥は日一日と鳥の生態から離れて行く気がするし。

ペタペタ。


はいはい。ペタペタはそこまでな。

俺がテントをひょいと投げると、カプセル型のテントに早変わり。

元々は日本で市販されてた物だけど、何処ぞの世界で作っちった。

夫婦と娘とピヨちゃんくらいなら充分過ぎる4人用テントなんだよん。


ちょっと火の番しててな。

テントの中でお嫁さんとユカリさんが一休みと言いつつ仲良く並んで寝ちゃったので、ピヨちゃんに焚火番をお願いすると。

「ピヨ」

と、羽根で敬礼してくれたザマス。

人間のお嫁さんや、エンシェントドラゴンのユカリさんより頼りになる小鳥ってなんなんだろう。


さてと、ご飯だご飯。

俺は一息大きく吸うと、そのまま気配を消した。別に息を止めてる訳でも物陰に隠れている訳でも無い。

俺がそうすると決めたからそう出来る。

簡単に言やぁ動物からは俺の姿や気配を感じる事が出来なくなる。

何でそんな事が出来るかって?簡単簡単。

俺がこの世界での最高位な存在だからだ。

なのでご飯を自由に物色出来ちゃうのよ。

うさぎみたいな生き物とか、でかいネズミみたいな生き物の鼻先を通り過ぎても、向こうはわからない。

幾つかの動物を見定めて決めたのは、カモシカみたいな生き物。

俺の最初生きていた世界では天然記念物だったかな。でもジビエ料理とかあったし、多分旨いだろう。うん、決めた。


トコトコとカモシカモドキ迄歩ってくと、両手を合わせる。

命を頂く訳だから、感謝を捧げるのは元日本人な俺の習慣だからね。

取り出だしましたるは、竹串一本。

あっしには関わり合いの無い事でござんす

とか言いながら、耳の穴から串を突き入れると、それだけでカモシカモドキは苦痛を受ける事もなく即死した。


その場でカモシカモドキを血抜きすると、脚を担いで帰宅しよう。

今日の晩御飯は、美味しい焼き肉だ。

ついでに腸詰ソーセージも作っちゃおう。

らんららんらんららん、と鼻歌を歌いながら帰った場所では、


ピヨちゃんがむつけき男共と睨み合っている姿だった。

何だこりゃ。


俺の妻子は相変わらずテントの中で寝呆けているみたいだな。

ユカリさんはともかく、お嫁さんはアレはアレで大人物だったりして。


とりあえず、近くに居る男の「首」を引っこ抜いてみた。

「ピヨ」

おう、お疲れちゃん。


「なななななな」

俺が引っこ抜いた頭を、そこらの男にパスしたら、そのまま頭を落として腰を抜かした。

頭だの腰だの、よく抜ける男たちだ。

あとお前、ノックオンな。

ついでにななな禁止。


「何者だ貴様!」

それは俺の台詞だなぁ。

「ピヨ」

なるほど。突然やって来てテントに手を掛けようとしたから撃退したと。

あ、確かに何人かこめかみから血を流して倒れてる。

強いぞ!僕らのピヨちゃん!

「ピヨ」

んじゃ、敵認定という事でひと暴れしますか。相棒。

「待って待って。これ以上ワシらを殺さないでぇ。」

がしっと残り総勢9名が見事な土下座を決めてくれちゃった。

えー。ここはさぁ

憎まれ口ヘイトの一つも決めてくれて、俺が暴れるところだろう。

「ワシら野盗してんだけんども、小鳥一羽に玉砕寸前っておかしいだろ。あんた飼い主かい。飼い主も飼い主でお手軽に仲間殺しやがって。その生首、一応ワシらの御頭だったのに。」

なるほどねぇ。俺とピヨちゃんの連携プレイで本部特攻プレイが成立しちゃったのか。

「大体何であんた、鳥と会話が成立してんだよ。」

あ、そういえば。

「ピヨ」

まぁ、いいか。


「いくない。折角寝ついたユカリが起きちゃったじゃないの!」

あ、ユカリさんのおかーさんがおかーさんしててお冠だ。

というか、寝ぼけてるなアイツ。

「大体、うちの亭主に喧嘩売ろうとする馬鹿はさっさと去ね!」

わぁ、寝ぼけたお嫁さんが刀を抜いた。

逃げてー。野盗さん逃げてー。


仲間の死体を置きっぱなしにして、野盗のおじさん達は蜘蛛の子を散らす様に逃げて行きましたよ。あの人達何しに来たのよ。

「ピヨ」

ふむ。一角黒熊の大量発生から逃げ出した途中とな。

「何で慎吾が鳥の言う事分かんのよ。」

口わりーなー。うちの嫁さん。

ならば、と。竹串でサユリに襲い掛かる。

弱点は全部知ってるからね。あちこち突いているうちに、たちまち腰を抜かして潤んだ目で俺を見つめるお嫁さんだった。

本当に首やら腰やら、以下略。

そのまま押し倒してもよかったんだけど、

何しろ周りは野盗の死体だらけだし。

ユカリさんは眠い目擦って出て来たし。

何やら、森の方で獣声が響いて来たし。

どうやら、ごはん前に一働きしないといけないみたいだ。


「おい、サユリ!そろそろ目を覚ませ!来るぞ!」

声で気合いを入れると、お嫁さんの顔が引き締まった。今、この娘は俺に捨てられる事を極度に恐れている。

そのせいか、どれだけダラケていてもスイッチを切り替える事が出来る。

ダラけたり出来る様になった事自体は、夫婦の距離が縮まった事だと俺は評価している。

それが許される時間は、いくらでも甘えようが、淫らになろうが、我儘言おうが構わない。

一人の人間の女くらい、いくらでも背負ってやる。けど、俺の側にいたいのならば、それ相応の覚悟を決めろ。

そして、サユリはそれが出来る女だった。


「おかーさん。私も出ようか?」

「大丈夫。ユカリはお母さんが守ります。」

「わかったあ。ごはんまで寝てる。」

なるほど。ユカリはサユリを認めた様だ。

「ピヨちゃんおいで。お外は邪魔になるから。」

「ピヨ」

大人しくユカリの肩に乗って、テントに入っていくピヨちゃん。

ピヨちゃんもお嫁さんを認めた訳だ。


「慎吾様。分かりますか?」

「一角黒熊は総体164匹。理由はわからないけれども、皆んなパニック状態になって、闇雲に駆け回っている状態だな、」

「スタンピートって事ですね。黒熊の進行方向は?」

「さっきの愉快なおじさん達の他は、農村が一軒。夕方には到着するスピードだな。」

「不味いですね。ここで止めないと。」

「ならば訊ねよう。どうする?殺し尽くすか?」

「なるべく無駄な命を失わせたくはありませんね。」

「分かった。おい、蛇神。」

「なんですか?」

お嫁さんの後頭部から、気軽に顔だけ出す蛇神ちゃん。

「蛇やー」

「ピヨ」

テントの中では、暴れるユカリと宥めるピヨちゃんの声がする。万能だな。ピヨちゃん、


轟音が森の中を迫ってくる。

サユリは一度野盗達に抜いた竜骨刀を静かに鞘に収めた。軸足を引き、呼吸を整える。

「殺したくは無いんだな?」

「出来れば。私はそんなに覚悟を持った女ではありませんから。」

「分かった。」

俺は静かに蛇神に触れ、蛇神も物言わず頷いた。

「サユリ、いいか。1・2・3。俺が合図したらこの速度で60数えろ。そして数え終わったら殺気を放て。深く考える必要は無い。ただ、それ以上近づくなら殺す。そう考えろ。」

「分かりました。」

「では…………数えろ!」

「1・2…」

少しずつ、少しずつ轟音が迫ってくる。

「…21・22…」

念のため。俺はサユリにバレない様に背後に下がり抜刀の準備をする。

「…52・53…」

同じく、サユリは鯉口を切ると上体を沈め抜刀の構えを取る。

「…59・60」

数え終わると同時に、一角黒熊は森から飛び出て来たが、抜刀したサユリを前にして歩みを止めた。

先頭には一回り大きな一角黒熊がいたが、奴は明らかに怖がって居る。

パニック状態を瞬時に覚ます恐怖の塊がそこにはいたのだ。

まだ幼い少女にしか見えないそれは、間違えても自分達には敵わない、敵対してはいけない高位の存在である事は、獣の本能として理解出来た。それが無ければ、自然の中では生きていけない。

気がついた時には、164匹の一角黒熊は全匹腹を出してサユリに服従していた。

一角黒熊の女神、サユリの誕生であった。

「なんでよー!!」

知らんがな。ほれ、折角だから野盗のおじさん達をごはんに持って帰えらせとけ。熊ハウス!

「がう」

リーダーっぽい一角黒熊が敬礼すると、おじさん達の死体を担いで森に消えて行ったとさ。

「なんかこれ、私が思い描いてたのと違います。」

さて、カモシカモドキを食べようか。

ユカリさん、終わったから出てらっしゃい。

「わぁごはん?」

「人の話を聞いて下さい!」

改めて言おう。知らんがな。

てか、俺のお嫁さんは何者なんだろう。

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