その頃の王家と
「近衛第一隊出陣します。目標、垓下宿場街。」
「バルコニーに座す殿下に敬礼!」
「続いて近衛第二隊出陣!」
「敬礼!」
「続いて第三陣。」
近衛五隊のうち三隊、300人が城を出陣して行く。先頭は各隊の隊長が剣を捧げたまま、バルコニーの下を通過し、近衛兵が顔だけ私に向けて行軍している
旅人を無実の罪で捉え、名ばかり裁判にかけて処刑する。
決して褒められた事ではないが、これは我が国安寧の為に必要とされた事だった。
我が国はそれ程豊かな国ではない。
税もそれほど課せられない。そんな事をしたら国民は川向こうの隣国に逃散するだろう。
貴族と生まれながらも、権力も贅沢も許されない訳で、彼らの不満を発散させる事項。
それが一人旅の旅人を捕らえてキメラの餌とする残酷ショーだった。
だが、1人の旅人を捕らえた事で全てが変わった。変わってしまったのだ。
何故かはわからない。死体となったキメラは街角に放置され、裁判所は消えた。
現場には裁判所らしき跡が残っているだけだった。そして、我が国の9割に及ぶ貴族はこの世から消えた。
王たる父の言葉は一言。
「殺せ」
だから私は腕利きの兵を暗殺者とし、国内最強と言われる武闘家を付けた。
失敗した。
「あんな化け物に対抗する手立てがわからない」
そう言って、武闘家は城を後にした。
不敬である。
しかし、我が国の兵を差し向けるには犠牲を考えねばならぬ武闘家には、素直に退去を見守るしかなかった。
そこで思いついたのは人海戦術だ。
近衛隊は、貴族とその家来達で構成された、我が国最強の部隊だ。
旅人を殺し、武闘家を殺す。
裁判所の悲劇は既に貴族内に知れ渡っていた。全隊が復讐を申し出たが、城を空っぽにするわけにもいかない。
近衛隊の包囲を突破されて、城に侵入される可能性も考えなければならない。
あの武闘家の話を嘘ではないとするならば。
音もなく壁がなくなった。
驚く事も出来ない。訳がわからない。
城の半分がなくなっていたのだ。
私の部屋が半分消滅していた。
そこは父上をはじめとする王族が暮らしているブロックがあった。か、今はただ荒地になっている。
ちょうど私の執務室の半分から先は、何も無いただの空間になっている。
私の理解が追いつかない。
何故なら、続け様に私も塵と化したからだ。
こうして、独立以来200年続いた王国は、王族、貴族、高級官僚全てと共に消え去った。
そして、その日王都上空には無数の流れ星が散飛したと言う。
って感じかな?少し詩的に言うと。
大体あってんだけど、かなりお上品にしてあるザマス。実際はもっとヘイトで、もっと間抜けなんだけど。この国にも住民は沢山いるからね。
「えーと、慎吾様?昨日宿に入るまでは、あそこに白亜のお城が有りませんでしたか?」
うん。鬱陶しさの元凶だから潰した。
「お城とか、そう簡単に潰せるものではありませんが。私が寝ている間に何してたんですか?」
寝てる間にっているか、逝っちゃって気絶している間に、だけどね。
「それは、それで気持ちよかったです。」
そうなんだ。
鼻息荒くして踏ん反り返るほどなのね。
食堂に行ったら誰もいなかった。
ので、勝手に厨房に入って朝ごはんを作ることにした。
おお、牛蒡があるじゃん。人参と一緒に笹掻きにして、油揚げを短冊切りに。
調味料は?と。
おお一通り揃ってる。醤油と味醂と酒と鷹の爪で煮込んで金平牛蒡を作ろう。
で、ごはんと、スープは。なんだよ何にもないな。しょうがない。卵で卵スープを簡単にこさえて、と。あとは豚肉かな?これ。
そこらに転がってた野菜と塩胡椒でさっと炒めて肉野菜炒めを作ってと。
「なんで慎吾様がちゃっちゃとごはん作ってるのかしら。」
「パパはなんでも出来るのです。」
ハナタカダカなユカリさん。
「おかあさんは料理出来ないのですか?」
「ううっ。私はまだ花嫁修行中なのです。」
「おかあさんは花嫁じゃないの?」
「つい3日前になりました。」
「駄目じゃん」
「ひーん。」
ユカリさん?お嫁さんをいじめちゃ駄目だよ。それよりホラ、ごはんが出来たから食べようよ。
「わーいパパのごはん!」
「私も作れない訳じゃないんですよ。木賃宿では普通に作ってましたか、ら、…牛蒡牛蒡言ってましたけど、これを私に作らせようとしてたんですか?」
美味しいよね。金平牛蒡。
宿代を払おうとしたら、カウンターにも誰もいなかった。
厨房に勝手に入って、勝手に食材使って、勝手に食べ散らかして(ユカリが)、勝手に後片付けして、勝手に出てきたから迷惑代も払おうとしたのに。
仕方ないから、泊まった離れに金塊を置いてきた。
多分、この宿幾つか買える額になるけど。
「今更ですから、私は驚きませんよ。慎吾様の事だから、大した事じゃないんでしょ。」
その通り。お嫁さんは玉の輿に乗った人なので、死ぬまで遊んで暮らせるよ。
「慎吾様の女房してる限り、遊べるとは思えません。」
俺は遊んでるんだけどね。
「パパお金持ち?」
おう。オカネモチだ。別に買いたいもんないけどな。サユリとユカリが居てくれればな!
あらら、2人共真っ赤になって俯いちゃった。
安い妻子で何より。
で、親子3人と小鳥一羽(俺の頭の上で、でんぐり返しして遊んでる、もはや小鳥かどうかもわからない)は仲良く宿を出たわけだけど。うーむ。なんか宿の人も含めて並んでるぞ。
「…お城が…」
「…王族と貴族が…」
「…誰も…」
「…どうなった…」
「…どうなる…」
うん。面倒事からは逃げよう。
面倒くさい事からさっさと逃げたのに。
せんせーと、ゆんべ逃した兵隊さんのおじさんが待っていた。
土下座して。
顎ははまったかな。
「はまりましたよ。」
そうですか。よかったね。
「よかないです!ああもうどうしたら。」
「慎吾様?あっちの人はせんせーさんなのは知ってますけど、この2人は誰ですか?」
昨日、俺を殺しにきた賊だよ。
「慎吾様を!なんと無謀な。」
「おかげで城ごと我が国が全滅しました。」
「だよねー」
せんせーとお嫁さんが、国の存亡を軽く話している姿を苦虫を100匹くらい噛み殺した顔してる顎外しマンだけど、ユカリさんがピヨちゃんとフワフワ浮かんで遊び出したのを見て、また顎を外してるよ。
で、そこのもう1人マン。何しに来たの?
「もう1人マンて。」
だって顎外しマンは顎外しって必殺技があるけど、君になんの個性も特徴もなんもないんだもん。
「私は顎外しマンの部下ですから、個性なんかどうでもいいんですよ。」
そうですか。
「顎を外した上司に代わって言いますと、何しろ途方に暮れてます。」
接続詞がおかしいよ。
「とにかくでも、すなわちでも何でも良いです。途方に暮れてます。」
ですか。
「私達はどうすれば良いでしょうか?」
知らんがな。
「取り得る選択肢は二つ。北の帝国か南の商国に合併されるしか有りません。」
「慎吾様それはあまりと言えばあまりです。」
とお嫁さんに怒られて、
「おかあさんはパパを虐めちゃ駄目!」
ってお嫁さんはユカリさんに怒られて
「ピヨ」
ピヨちゃんに耳たぶを甘噛みされながら即席家族会議を開いた結果、とりあえず全部せんせーに無茶振りしてみた。
その結果は、他国との合併だった。
ま、そだろね。
「北の帝国は高山脈の向こうなので繋がりが薄く、南の商国も大河の向こうですから繋がりが多少はありますから、南と合併ですかね。」
ならそれでいいじゃん。
「王城と王家貴族だけがスッパリ消えましたから、そこら辺は残された関係者が判断すれば良いと思います。」
何よ、俺達に相談する前に結論出てんじゃん。
「この2人は中間管理職みたいなものですから、結論を出したくないんでしょう。」
「ふろうかほの、ほへは。」
「武道家殿、それは。」
おや、仲の良い。
「ただ一つ問題がありまして。」
なんだい?
「北の帝国に姫が1人留学しています。アレどうしましょう。」
知らんがなって言いたいけど、まさかせんせーさんよ。
「亡国の姫が健在な事は、今後の我が国に選択肢を、それもややこしい選択肢が増える訳で。アレを何とかする必要があります。」
俺が滅ぼした国の姫を担いで国を発す貴種流離譚とかマッチポンプも良いとこだけど?
「ですから、姫の意思を確かめて欲しいのです。引き続き帝国に留まるか、帰国して庶民になるか。」
それ以外なら?
「最悪、殺害もありかと。」
「ふろいはろの!」
「武道家殿!」
「黙らっしゃい。国が無くなったと知った姫が何かを企んだらどうなる。王家が消滅した以上、極力騒動を起こさす次の政体に渡す義務が貴方達にはあります!」
そういう台詞を、国を滅ぼした張本人に言うなや。
面倒くさいから殺そか?ここからでも出来るよ?




