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テイム

「刀はまだ抜かなくて良い。足を肩幅に開いて体重を臍に落とせ。右足を前に。」

「はい!」

うん。気合いの乗った良い声だ。 

開き直ったのだろうか。剣士として一段上がってる。

「間合いはわかっているな。」

「この剣では初めてですが、慎吾様長さの調整もしてくれたんですね。元の剣と同じ長さです。」

竜骨剣以上の得物はサユリには死ぬまで手に入らないだろう。

年齢を考えても、これ以上身長が伸びる事も考えにくい。なので俺は夕べ夜っぴてサユリの剣を調整していた訳です。

「毒は無い。飛び込むよりは向かい入れて切り抜けろ。」

「はい。」

お嫁さんの声から余計な力が抜けた。集中力がMAXになったか。

よし、それでは…


「待て待て待て待て。待って下さい。」

蛇が喋った⁉︎

「私はこれでも高位な蛇ですから。人語くらい解せます。待って下さい。殺さないで。」

こらサユリさん。構えを解くな。

「あの。慎吾様どうしましょう?」

「とりあえず話を聞いて。殺さないで。」

全くもう。聞くだけだよ。

「慎吾様、なんか軽い。」

だってさ、一応中ボスくらいだから、うちのお嫁さんにはちょうどいい経験値になると思ったから。

「神様を経験値にしないで。」


「大体あんた首が沢山ある魔物じゃなかったの?」

「首ならホレ!」

蛇が顔を赤くしていきむと(器用な変温動物だな)ポンポンと音がして首が生えた。

「なんで隠しとくのよ。頭一個だとただの大蛇じゃん。」

「頭が沢山ありますとな、考えは纏まらんし仲悪いのもいるし。それに減ると困るから普段は隠しとるんです。」

「あの〜慎吾様?これどうしましょう?」

「あんたさんな、両方ともエンシェントドラゴンにマーキングされとる。そんな人間おらんよって。」

うーん。俺は散々ドラゴンちゃんを食べ尽くしてるし、中に出してるからアレだけど。

お嫁さんもか。つう事はだ。

「ふむ。サユリも家族としてうちのドラゴンちゃんに認められたって事なんだな。」

「どんな人間なんですか、あんたら。」

「私は普通の人間の筈なんですけど。」

「あんた、私らくらいの蛇神なら一刀両断に出来るじゃないか。何処が普通なの?」

「えーと?」

うん、さっきの瞬間は達人の落ち着きがあったよ。


「んじゃ殺さないであげてもいいけど(だって暇つぶしで来たんだもん)、二つばかり条件がある。」

「慎吾様、それもう強盗…。」

黙ってなさい。

「先ず一つ。うちのお嫁さんの使い魔にならないか?」

「はい?あの慎吾様?」

「ドラゴンは蛇が嫌いな様でね。うっとこのドラゴンちゃんなら海龍大決戦の一つも楽しむんだろうけど、この竜の里でお前さんは魔王扱いされてんだよ。」

「私は蛇であり神の端くれでもあるんですけどねぇ。爬虫類よりの哺乳類なところも竜人と変わらないし、大体竜がこの地に住まう前からここに居るんですが。」

んー。悪いが竜に少し感情移入して来てるし。大体神様って言うけど、何してる神様なのよ。

「長く生きていたら、勝手に神威が着いちゃっただけです。」

生かしとく意味ねぇなあ。

「待って待って殺さないで。生きてたら神様になっちゃった私に何の罪が有るとおっしゃるのですか?」

俺の行動原理に倫理観や損得勘定はないよ。面白いかどうか、俺が満足するかどうかだから。

「慎吾様もう何言ってるかわかりませんよ。」


わあわあ言う取りましたが、蛇神様は無事お嫁さんの使い魔になりました。

「俺達と旅すると面白いよ。」

って囁いたら即座に了承しました。

そりゃ何百年も穴蔵で自分と口喧嘩してた蛇生よりは楽しかろうし。

あ、因みに契約方法はお嫁さんの鮮血を蛇神様が舐めて完了。俺がこっそりテイムスキルを発動した。

期間はサユリが死ぬまで。

サユリが真の危機に陥った時は、本人の意思意識の有無に関わらず自動的に蛇神発現し宿主を救出すること。

それ以外はサユリの意思で蛇神の発現をコントロールできる。


なお、蛇神のテイム化に伴い、サユリの肉体的ポテンシャルは120%~400%上昇するけど、これは内緒。

本人が実生活の中で確認し、身体を馴染ませていくしかない。

短い付き合いだけど、この人は常に強く正しくあろうとする一方で、誰かに依存する事を求めている要はお子様だって事はわかった。

俺がいつまでこの世界に居るかはわからないけど、少なくとも俺の隣を歩きたいと思う女は俺が教えるし俺が支えるし可愛がる。

そう決めてる。


さて、蛇神様よ。あんたの尻尾は切って大丈夫かな?

「首以外はまた生えてきますけど、それが何か?」

ちょっと切らせろ。

「はあ、」

どうぞとばかりに狭い洞窟内で器用に巨体を反転ので、ずっと持ってた棒でスパンと切り落とす。

「何で竜骨剣より木の棒の方が切れ味が良いんでしょうか?」

「マスター、おそらくマスターの旦那様は気にしちゃいけない存在かと。」

お前らもう仲良しだな。


ふむふむ。蛇の尻尾は蜥蜴みたいにクネクネ動かないのか。

「自切機能が有りませんからね。普通の蛇は生態系の中でも捕食者に入りますから必要のない機能です。」

…くっ付けようか?

「くっ付けられるんですか?」

「いえ、次の脱皮の時に勝手に生えてくるから大丈夫です。」

便利だな神様。

俺の場合、そもそも切られないけど、


で、だ。用があるのはこの尻尾。

力無く横たわるこの尻尾をぼっこで一閃!ほらあった。

背骨に付随している金属、これが俺の目当てでした。

ぼっこでスルスルと三枚おろしにすると、骨は穴を掘って埋め、肉は燻製にしようかな。

そして骨から外した金属板、これを掴むと青眼に構えます。うん、これはいい。

「それ何ですか?刀の本身?」

「ちょっと構えてごらん。」

持ち手に簡単に布を巻いただけの金属板をお嫁さんに渡してみる。

「く、これは。」

おお、くっが出た。次はくっころかな?

からん。お嫁さんが金属板を落とした。

蛇神を使い魔にしても無理だったか。

「何ですかそれ、何かが物凄い勢いで吸われたので思わず手を離してしまいましたけど?」

「高位な魔物が何百年という時を重ねると、身体の何処かに魔力溜が出来るんだ。その魔力溜が物質具現化したものがこれだ。しかもこの蛇は神化するところ迄いってる。こここまで純化した魔力溜は“霊剣“もしくは“神剣“となる訳だ。普通の人間なら生命力がどんどん吸われていって死んじゃうな。」

「つまりやっぱり慎吾様は普通の人間じゃないと。…そんな危険物に触らされましたわけですねえ慎吾様?」

はい、今日のジト目頂きました。

「本当の素人なら最初から触らないよ。サユリはうちの戦力だから信頼して触らせてたんだ。」

「まぁそんな。照れちゃいます。」

ちょろい。

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