蛇神さん
両腕が無くなった竜人さんは、どうも頭の方が残念化したみたい。
なんか暴れてるけど、何しろ腕無いからなあ。
踊っているようにしか見えないんだわ。
見覚えがあると思ったらアレだ。◯谷プロが怪獣プロレスの低予算番組を作った事があったけど、あの中に出てくるくたびれ果てた着ぐるみが採石現場をふらふら歩いている姿だ。
目が明後日の方見て、涎ダラダラナイアガラ状態。近寄りたくないなぁ。
「神龍様に攻撃されるとは思ってもみなかったでしょうね。我々には神なんですから。」
村長さん、アレどうしようか?
「神龍の祟りって事で片付けとくしか無いでしょうね。本人を座敷牢にでも閉じ込めときますか。それでも世話が大変ですね。」
ふむ、ならば。おい、こっちのドラゴンちゃん。
「儂か?うーむ、しかないかのう。」
「…どうされる訳で?」
みんな見ている前で、神龍に殺されれば誰も文句言えないだろ。
罪状は、内乱を起こそうとした一派への共謀罪。実際、その通りだし。まだ村内に存在するかも知れない竜王(笑)派への警告になる。
神龍は内乱を起こす様な輩には天罰を下す。
俺と違って神龍は竜人達には絶対の存在みたいだし。
「神龍様に取り合いされる貴方が色々おかしいだけでは?」
ついでだから、こっちのドラゴンちゃんに蛇穴まで送って貰おう。
のんびりと歩って行くつもりだったけど、お嫁さんが思ったより体力無いし。
「一緒にしないで下さいよ。私は普通の村娘なんです。大体竜人の国って、元居た国から結構離れているんですよ。神龍様に乗ってあっという間に着きましたけど。」
最初会った時は、もう少し凛としたサムライガールだったのに。
どんどん軟っこくなってくな。うちのお嫁さん。
「普通の人間が体験するには、毎日が余りに濃すぎます!気のせいか我が家の序列がピヨちゃんより下になってる気がするし!」
ピヨちゃんは常に俺の懐で寛ぐ様になっちゃったね。
「ピヨ」
うん。
「なんか分かり合ってるし。妻の立場というものがですね。」
美味しいご飯を作ったら、可愛がってあげます。失神する程ね。
「…………頑張る。」
うん、頑張れ。
「乳繰りあうのもいいが、さっさと済ませるぞい。」
ドラゴンちゃんに急かされたので、お嫁さんの腰を平手で叩きます。袴の腰板をパーン!と鳴らすと、お嫁さんの顔が引き締まります。
「行きましょう!慎吾様。」
竜骨刀を引き寄せ、俺の顔を見てくる。
うん。いい顔だ。
「村長。村人を集められるだけ集めてくれ。15分後、えーと数を900くらい数えた後に村の広場に“アレ“を落っことす。アイツらが神龍様の敵である事を知らしめるぞ。」
「わかりました。」
竜人の年齢はよくわからないけど、娘達がああなら、それなりに壮年なんだろう。
トカゲを思わせる速度で帰って行った。
うんうん。アレが竜人のポテンシャルなんだろう。残念な竜人にばかり会ってるけど。
伝書竜骨改め愛玩竜改め神龍に戻ったドラゴンさんに跨がる。
うん、うちのドラゴンちゃんよりは一回り小さいかな。
「だから姉者には敵わんと言うとる。姉者は多分儂より2回多く脱皮しとる。」
「あの。脱皮とか言われるとちょっと生々しいんですけど。実際にやっぱり神龍様の肌は爬虫類系のゴツゴツした感触ですし。」
人間形態の時はもの凄〜く柔らかいよ。
ドラゴンちゃんを布団にすると、あったくて柔らかくて、一度終わらせたのに思わず続きがしたくなる。
でも舌がザラザラ系だから、濡れる前に咥えられると少し痛いんだ。
「慎吾様の方が生々しいです。」
その舌で今頃うちの方のドラゴンちゃんが舐め回し始めてるんじゃ無いかな。あの雌達。凸凹がかなり刺激的なの、って昔ドラゴンちゃんと共有した女の子が言ってた。
「私は共有されたくありませんが。」
それは大丈夫。俺のものは俺のもの。ドラゴンちゃんのものはドラゴンちゃんのもの。
きっちり15分後、ドラゴンちゃんは村の広場上空を旋回している。
村長以外の竜人は皆一様に土下座で礼を繰り返している。
丸い広場の中央に祀場と思われる巨石と、焚き火台が見える。
神殿や教会、寺社的なものは、この世界にはまだ無いのだろうか。
自然信仰と、龍の様な絶対の存在を崇める原始的な宗教形態なのかね。
巨石の前にアレを落とした。
頭が巨石にぶつかる様に落としたので、アレは即死している。
「聞け!我が子たちよ。」
ドラゴンちゃんの口から衝撃波と共に、彼らには同じく衝撃的な言葉が紡がれる。
「竜王と名乗る痴れ者を私は認めない。竜人は力のある種ゆえ、優しくなければならない。平和を愛さねばならない。だが、竜王と名乗る痴れ者は力で王位を奪おうとした。前領主を殺し孫娘を力で犯そうとした。そんな不埒なものを私は認めない。未来永劫認めない。幸い、竜王と名乗る痴れ者は我が友によって滅ぼされた。今、この村に居ないもの達は、なお竜王に忠誠を誓おうとする痴れ者である。私はそんな竜人を認めない。みよ、その男を。そいつは我が友を襲い、竜によって滅ぼれたものだ。今後とも竜王を懐かしむものに安息の日々は与えない。それが私の意志だ。文句が有るものは私を殺せ。神殺しになれる力があるのなら、それは新たな秩序となるのであろう。だがな。」
ドラゴンちゃんが吠えた。
その声による衝撃は、アレの死体を粉々にした。
「私は負けん。私に文句あるものは私と試合え。その覚悟がないものは大人しく静かに生きろ。私を愛するものを私は愛す。私は守る。
どうするか、しっかりと考えるがよい。」
それだけ言うと、ドラゴンちゃんは西の空に消えて行く。
後には滂沱の涙を流す竜人達が残った。
さすがは神龍と言われる事はあるな。
俺はドラゴンちゃんのツノを撫でて労った。
「あふん。」
え?ドラゴンの性感帯ってツノなの?
という訳で、ここ。
直径3メートルくらいかな。岩場の崖に空いた洞窟。ここが蛇穴なんだって。
「儂、蛇嫌い。蛇怖い。儂、ここでお主らの帰りを待ってる。」
洞窟の入り口で愛玩竜に戻ったドラゴンちゃんは、丸まって座り込んだ。
うちのドラゴンちゃんは竜形態だと休んでいるとこ見た事無いけど、ドラゴンも犬みたいな寝方するんだ。
ドラゴンとも付き合い長いけど、初めて知った。
「ドラゴンと付き合いの長い人ってなんなん?」
貴方の亭主ですが。
「因みに“うちのドラゴン“さんはどうなんですか?」
んー。普段は別の空間で「飼ってる」女の子と遊んでいるけど、人間形態の時は大体全裸で人の腕を抱き枕にしてるかな。
「あら可愛い。」
ヘトヘトになるまで攻め続けるからかな。
「慎吾様が可愛くない。」
「どうでもいいが、さっさと済ませてくれんか?儂、蛇の匂い嫌い。」
なんでさっきからカタコトなの?
お嫁さんは静かに呼吸を整え出した。
丹田に気を通せ。
一応剣術修行をしているだけあって、それだけ言うだけで分かったみたい。
俺はベクトル反射とサーチスキルを強化させる。ついでに殺気を前方、洞窟の奥さんに思い切り流しとく。
ピヨちゃんが驚いてたので両手で包んであげたら直ぐ寝ちゃった。
可愛い可愛い。
それで、と。ここは、お嫁さんに任せるつもり。
この世界の魔獣レベルは、そろそろ見切った。別に俺が出なくともお嫁さんだけで充分だと。
「私で大丈夫なんでしょうか?」
「サユリのレベルなら先ず問題無い。ましてや得物が竜骨刀。蛇くらい膾切りにしてくれんと、俺の女房、俺の弟子を名乗る資格はないな。」
「私は大して剣を習ってませんが?」
「体幹。あれだけ意識すれば良い。問題無い。」
ほら、向こうからやってきた。
「!!」
体長30メートルくらいかな。顔が丸いから毒は無さそうだけど、小柄なお嫁さんより頭がデカい。チロチロ伸びる下だけで5メートルはあるね。
「あんな化け物相手?無理無理無理無理です!」
「大丈夫大丈夫、ありゃたかだか蛇神だから。」
「か、神様?」
うん。
「うんじゃありませんよう!」