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8話 王太子視点

 あれからしばらく時間が経った。

 どうやらランドロール家はこの国を後にする決断を下したらしく、つい先日移動を開始したとの報告を受けていた。


「……何も、起きなければいいのだがな」


 アストラは大きく息を吐きながら、己の複雑な心中を整理するように声を出した。

 結局、何も掴むことはできなかった。

 『要の巫女』という存在と、過去に起きた事件の詳細。

そして何よりリシア・ランドロールという少女の存在を、何一つ掴むことが出来ずに終わってしまった。


 リシアとは決して仲が悪かったわけではない。

 むしろ客観的に見てもそれなりに良好な関係にあったとも言える。

 だが彼女は、常にどこか一歩引いた感じと言うか、意図的に壁を作って一定の距離を保っていたような、そんな気がしてならなかった。


 だがそれはアストラ自身にも言える事であり、彼は彼でリシアとの正しい距離感を掴み切れなかった部分がある。

 それは彼が過去の王子の手記を見て抱いてしまった疑問を解消する目的でランドロール家に近づいた、ということに起因するものだった。

 かの家との関係を深めれば、あの手記には記されていなかった何かが見えてくるのではないかと。

 そう思って、リシアへと近づいた。


 今にしてみれば、それがそもそもの間違いだったのかもしれない。

 結局は何も分からず、彼女と彼女の家を貶める結果に終わっただけだ。


 どうして無力の巫女の座を継承し続けてきたのか。そもそもの契約内容とは何なのか。

 そして本当に大地の神の怒りを鎮めたのなら、何故現代で地震が多発しているのか。


 知りたいことは、山ほどある。

 だがそれを知る術を、今のアストラは有していなかった。

 ランドロール家は国を去り、かつての王族が用いた大地の神召喚の手法も失伝している。

 もう、諦めるしかないだろう。


 だが今、彼が最も恐れているのは、巫女が国を離れた事で何らかの災厄が訪れる事だ。

 未知は妄想を育て、妄想は恐怖を生む。

 彼の頭の中では、いつの間にか膨れ上がった壮大で最悪なストーリーが描かれていた。


「本当に……何も起きなければ、いいのだがな」

 

 胸の中のざわめきが、どんどん大きくなっているのを感じる。

 思い起こされるのはリシアとの最後の会話。

 既に決定したひっくり返せない事実を彼女に伝えなければならなかったあの日。

 

 中途半端に己の本音を出せば、彼女を困らせるだけになってしまう。

 だったら一層の事自分の事を恨んでくれた方が彼女のためになるだろうと、敢えて偽悪的に突き放す発言をした。

 それはきっと間違いではなかったと信じている。

 信じているが、それでもやはり後悔はしてしまう。


 この行動が、どういう意味を持って返ってくるのか。

 それは正に――


「神のみぞ知る、という訳か」


 アストラは立ち上がり、顔を上げた。

 一応は終わったことをこれ以上考えても仕方ない。

 今は己のやるべきことをやらなければと、そう思って部屋を出て行った。


 そしてその後――


「――なんだっ!?」


 一瞬、地面が激しく揺れる。

 比較的軽いものたちが地面に倒れ落ちる音が聞こえてきた。

 だが、それはほんの予兆に過ぎない。

 その僅か数瞬後には――視界が滅茶苦茶になるほどの悍ましい大地震が、彼らを襲う事となった。


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