34話 星剣士の覚醒
「くそっ!! リシアたちから離れろ!!」
「チッ」
オレは星剣を振るい、邪神エメシュヴェレスへと襲い掛かる。
しかし奴はそれを軽々と避けやがった。だが、それでも大きく後退させることに成功した。
どうやら奴は復活したてで体があまり思うように動いていないようで、自分の体の調子を確かめるように腕や首を回したり小さくジャンプしたりしている。
「アストラ――どうしてあなたが私を庇ったの……? 私のことを――捨てたあなたが」
「げほっ……これで、いい。私は、生きる資格など等になかったのだから――ぐっ」
リシアが震えながら、アストラ殿の頭を抱えて問う。
しかし、アストラ殿の表情はどこか満足気で、この運命を受け入れているようにすら見えた。
リシアが動けない以上、今はオレが奴を見ていなければいけないので、悔しいが一度二人から目を離した。
だが、声は聞こえてくる。
「私は王子として――いや、人として最低だった。君を拒絶し、ランドロールの一族に背負わせた重荷からも目をそらし続けてきた……」
「…………」
「元は全て我が祖先――我ら王族が犯した罪。愚かさが故――決して君が、悪いわけではなかった……」
「そんなこと、今更言われたって、もう……」
「あぁ、分かっている……もうすべてが、遅かった。でも、そうだとしても――」
私はきっと、死ぬ前に君に償いかったのかもしれない。
かすれた声でそんな言葉が聞こえてくる。
リシアは何も言葉を発さなかった。否、発せなかった。
「ヴィリス殿――他国の、あなたに、こんなことを願うのは――それでも、どうか、この国の過ちを、正してください。そしてどうか、リシ、ア、を……」
邪神から目を離してはいけないはずなのに、オレは思わず振り返ってしまった。
そこにはリシアの腕の中で生を終えたアストラ殿の姿があった。
彼女の体は震えていた。今、リシアの中にある感情を、オレは推し量ることなどできなかった。
怒り、恨み、憎しみ。様々なものをぶつけるべき相手が、自分を護って死んだのだ。
バカなおれなんかには、かけるべき言葉も見つからねえ。
だけど、オレは敢えて言った。
「アストラ殿。せめてこいつはオレの手で討つ。だから、安心して眠るといい」
「ヴィリス、殿下」
「――リシア。今のお前にこんなことを言うべきではないのかもしれないが、言わせてくれ」
「……はい」
「頼む、俺にもう一度、力を貸してくれ。オレだけじゃあ、アイツを倒せない」
星を護る星剣士として、なんて情けない言葉だろうか。
だけど、俺は今、それを言うべきだと魂が告げていた。
なんでだろうな。こんな状況なのにオレは、リシアと共に戦いたいと思っている。
――ああ、アメリア。今度こそは、二人で――
魂が震えるのを感じる。
腹の奥底が燃えるような、不思議な感覚だ。
気づけば俺の星剣は、今までにないほど眩く輝いていた。
「ヴィリス様。今度こそは、最後まで共に」
「ああ」
気づけば、リシアはオレの隣で杖を構えていた。
その頬には雫が伝っていたが、それはなんの涙なのか問いはしない。
オレたちは、互いが成すべきことを理解していた。
それはまるで、長年共に戦い続けてきたパートナーと連携をとるかのように。
「来い、星剣士。そして聖女よ」
今ならば、誰にだって負ける気がしねえ。
それがたとえ、星を喰らう邪神であろうと、だ。