33話
「キ、サマ……見つけたぞ。憎き巫女の末裔――アメリアァァァッッ!!!」
「うるさい。耳障りよ」
歪なる黒き球体、邪神エメシュヴェレスから、無数の漆黒の弾丸が発生し、それらが一斉に私たちめがけて襲い掛かってきた。
私は冷静により強固な障壁を生み出して、後ろの二人を含めて攻撃から身を護る。
攻撃が通らない事がひどく不快なのか、球体は荒々しく輝きを強め、吹雪の如く弾幕を押し付けてきた。
だけど、私たちには一切届かない。
「リシア。その力は……?」
「ヴィリス殿下。これは――とある聖女に借りたものです。ここからは、私も戦います」
「……まだ状況は理解できてねえ。だけど、このままコイツを野放しにするわけにもいかねえ。だから頼む、力を貸してくれ」
「はい!」
私がここへ来た理由は、ヴィリス殿下の力になるためだ。
それ以上でもそれ以下でもない。
そのためだったら、この忌々しい力だって有効活用して見せる。
私は結界に強力な斥力を与え、一気に黒き弾幕を弾き飛ばした。
「ヴィリス殿下!」
「分かった!」
私が切り開いた道を、星剣を構えたヴィリス殿下が突き進む。
エメシュヴェレスは、周囲に散った弾丸を集積、変形させ、無数の剣を創りだした。
それらを一斉にヴィリス殿下めがけて解き放つ。
全方位からの攻撃、このままではまず間違いなく殿下は死ぬ。
だけど私は敢えて叫んだ。
「そのまままっすぐ進んでください!」
「――ッ、ああ!!」
私の声に従って、殿下は敢えて横方向、後ろ方向への警戒を捨て、前方のみに集中した。
そしてヴィリス殿下に自らの光を分け与える。
眩く輝きだしたヴィリス殿下の体。それに触れた黒剣は、その形を維持できずボロボロと崩れていく。
彼の体に突き刺さった剣はただの一振りもなかった。
「喰らえ! おおぉぉぉぉっっ!!」
「なッ――ぐおおおおおおっ!!?」
さらに私はエメシュヴェレスの周囲に発生させた8本の光の槍を異なる方向から撃ち出し、彼の体を強引に拘束する。
そして無防備になったエメシュヴェレスの本体に、ヴィリス殿下の星剣が突き刺さった。
やった。星剣の一撃は、この星の重みそのものと言われるほど強力なもの。
いくら邪神と言えど、無事では済まないだろう。
ならばこの勢いのまま追撃を――
「リシア!! 危ないっっ!!」
「――え?」
何かが突き刺さる音が聞こえた。
何かが私の体に飛び散った。
それが剣が体に刺さる音であり、アストラの血であることに気づくのには時間がかかった。
「あなたは、誰……?」
「くく、ようやく忌々しい殻が取れた。女神め、聖女の封印に合わせてこのような形で我が体を封じおって」
「まさか――」
底に立っていたのは、まるで悪魔の如き形相の男。
鋭い爪が生えた漆黒の翼、後ろ向きの二本の角、そして鎖のような尻尾。
邪神エメシュヴェレスの真の姿。
彼の刃が突き刺したのは、アストラの胸だ。
私を庇うようにして立ちふさがった彼は、刃が抜かれると共に崩れ落ちた。
「アストラ、なんで私を……?」
疑問は尽きない。
だけど、このままでは私は死ぬ。
分かっているはずなのに、私の体は何故か全く動かなかった。
――これが、私にできる、唯一の贖罪……リシア、どうか……