32話
大地を裂くほどの大地震が引き起こされたのは、リシアが地上に出てすぐのことだった。
それにより、まるで役目を終えたかのようにランドロール公爵邸の建物が大きく崩れていく。
「……行かなきゃ」
物悲しさを覚えつつも、あちらで良くない出来事が起きているのは間違いないと断定し、私はすぐさま彼らの下へ向かうことを決めた。
軽く息を吐く。
イメージするのは、アメリアの記憶の中での出来事。
体の力を抜き、この身を縛る重さをゆっくりと取り除いていく。
するとだんだんと私は重力の縛りから解放され、緩やかに浮かび上がった。
今ならまるで鳥のように自在に空を飛ぶ事ができる。
これまでの自分にできなかった芸当だ。私はより上空へ舞い上がり、ヴィリス殿下たちが向かったという場所へと急行した。
♢♢♢
「ええい、鬱陶しい! 去ね、疾く去ね! 忌まわしき女神の代行者め!」
「くそっ……厄介だな……」
「ヴィリス殿……」
その時、ヴィリス達は邪神エメシュヴェレスを名乗る黒き球体と戦闘を行っていた。
最初は遠目からその存在を確認するにとどめる予定だったのだが、星剣士たるヴィリスの存在を感知したのか、エメシュヴェレス側から攻撃を仕掛けてきたのだ。
歪なオーラを纏う球体。それは邪神が本来の姿を取り戻せていない何よりの証拠であったが、神を名乗るだけあってその力は強大だった。
彼は大地を揺らし、地割れを引き起こし、時には岩を浮かせて自在に操った。そして特筆すべきは、球体を中心に発生する巨大な斥力――衝撃波の存在だ。
これのせいでヴィリス達はエメシュヴェレスに近づくことすら困難な状況に陥っている。
「ヴィリス殿。ここは一度退きましょう。これ以上は危険です!」
「しかし奴さんは俺を逃す気はなさそうだぜ。逃げようとして背中を刺されるくらいなら真正面から立ち向かったほうがマシだと俺は思うんだが……」
どうやらエメシュヴェレスにとってウィリス殿下の存在は非常に不快であるらしく、彼に対して集中的に攻撃を仕掛けていた。
去ねとは言っているが生きて返すつもりはないらしく、この場でこの世から消し去ろうとしているようだ。
ちなみにアストラが連れてきたディグランス兵は最初の攻撃で半壊した挙句、その後の追撃により一人、また一人と倒れていき、今は誰も立つ事ができていない。
「――ここで奴を仕留める。それがこの星が俺に与えた使命なんだろう」
「しかしヴィリス殿――」
「アンタは一度戻って応援を呼んできてくれ。それまでは俺が奴の相手をする」
「あ、ヴィリス殿っ!」
それだけ言い残して、ヴィリス殿下は邪神に立ち向かう。
星剣を片手に果敢に斬りかかるも、またも強烈な衝撃波によって弾かれてしまう。
しかしヴィリスは即座に体勢を立て直し、何度も何度も執拗に攻め続け、星剣の力も相まって少しずつ刃が球体へと近づいていった。
そしてついに決定的な一撃が入ろうとしたところで、
「――調子に乗るなッ!」
「ぐおあっ!?」
まるで電撃が走ったかのような強烈な圧がヴィリスを襲う。
実際に球体を巻くように紫の稲妻が走り、それは彼の体を段々と侵していった。
「こ、のっ……!」
ヴィリスは即座に星剣の刃を挟み込み、自身とエメシュヴェレスを繋いでいた紫の稲妻を叩き斬った。
しかし切り離された節から再度ヴィリスを捕まえようと襲いかかってきたので、彼は慌ててその場から離れる。
しかし猛烈なスピードで変幻自在に襲いくる稲妻から逃げ切ることは叶わず、ついに追いつかれてしまう。
「くそっ……ヤバい――」
死を覚悟しながらもなんとか星剣で防ごうと構えるが、稲妻がヴィリスに届くことはついに無かった。
「リシア……?」
「お待たせしました。ヴィリス殿下」
淡い青色に光る透明な障壁を生み出して、稲妻の進行を妨害した者がいたからだ。
ヴィリスが改めて顔を上げると、そこには長い黒髪を靡かせ、吹っ切れた表情でにこやかに語りかけるリシアの姿があった。
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