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【連載版】私はもう必要ないらしいので、国を護る秘術を解くことにした〜気づいた頃には、もう遅いですよ?〜  作者: 玖遠紅音


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29話

「リシア。お前は着いてくるな」


 翌朝。開口一番にヴィリス殿下がそう告げてきた。

 どうやら殿下はディグランスの兵と共に早速邪神とやらがいるであろう場所へ向かうつもりらしい。

 私としては長年我が一族が封印し続けてきた邪神とやらがどんなものなのかを目にしておきたかったところではある。

 しかしどうやらあちらは私の命を欲しがっているようなので、ヴィリス殿下としても連れていくわけにはいかないのだろう。


「……これは決してお前を侮っている訳じゃねえ。お前が自分の身くらい守れる奴だってのは分かってる。だが……相手は自称とは言え神の名を冠すバケモンだ。万が一があったらオレは――」


「いえ、私が足手まといになるのは分かっています。それに私も行っておきたい場所があるので、どちらにせよ今日は同行できません」


「足手まといだなんて思っちゃいねえが、用事があるならそっちを優先してくれ。一応は見に行くだけだ。万が一のことがなければ戦う気はないしな」


 実はヴィリス殿下の訓練に付き合ったあの日から、私もいざと言うときにちゃんと戦えるように鍛えている。

 もちろん実戦経験はまだないけれど、殿下からはセンスがある、とは言われた。

 だからと言ってそれに自惚(うぬぼ)れて私も邪神と戦いますだなんていうことは無いけれどね。


 今は――まだ。


 私はヴィリス殿下を見送り、ある場所(・・・・)へと向かって移動を始めた。

 旧ランドロール公爵邸――私が生まれ育った場所。

 初代巫女(わたし)のルーツを探るならばそこへ行く以外に手掛かりなどないだろう。


 待っててね。

 今度は必ず――間に合わせるから。


 ♢♢♢


「――随分荒れたものね」


 本館と別館、そして巨大な中庭からなる旧ランドロール公爵邸だが、先の大地震の影響で激しく損傷したらしく、その面影はだいぶ薄れている。

 ランドロールの一族はディグランス王国を離れたけれど、この土地の所有権を手放したわけではない。

 いずれは更地にして売却する予定だったらしいけれど、これじゃあ屋敷の撤去費用が相当掛かってしまいそうだな。

 そんなことを思いながら、誰もいない敷地内へと足を踏み入れる。


 こうして歩いていると、かつての記憶が蘇ってくる。

 公爵令嬢としての日々――要の巫女として生きてきた18年間が、走馬灯のように思い起こされる。


 幼い頃の私は、お母様に本を読んでもらうことが大好きだった。

 秘術の影響で病弱だったお母様は、巫女としての仕事をこなすとき以外は基本的に自室で過ごしていた。

 私はお母様の仕事が終わるのを見計らって部屋に押しかけ、今日はこの本を読んで欲しいとせがんだものだ。

 お母様はきっと疲れていたのだろうけれど、私がお願いするといつも笑顔で受け入れてくれた。


 優しくて、美人で、私の憧れだった人。

 でも、お母様は死んだ。

 短命なことで知られる要の巫女の中でも特に若く、私が10歳の誕生日を迎える前に逝ってしまった。


 多分私は自室に引きこもって一日中泣いていた――と思う。

 そのころの記憶はちょっと曖昧だ。

 何故ならその時から初代巫女(かのじょ)の記憶が入り混じるようになったからだ。


 何がきっかけだったのかは分からないけど、ある日突然知らないヒトの記憶が呼び起こされて、私は転生者であることを自覚させられた。

 その時の私は自分が何者なのかが分からなくなって、何にも例え難い気持ち悪さを覚えて嘔吐を繰り返していた――らしい。

 お母さまが亡くなって悲しいのはお父様も同じなのに、同時期に娘が異常な体調不良に陥ったのだから相当心配をかけてしまった事だろう。


 だが、私に与えられた情報は少なかった。


 自分はかつてランドロール家の初代要の巫女を名乗り、その死の間際に何らかの目的を持って転生を選んだということ。

 自分が国を護る秘術をかけ続けていること。

 そしてその秘術の解除方法。


 それだけだ。


 自分が転生者であるという自覚だけは何故か絶対の自信があったので、どうにかして彼女の記憶を呼び起こせないか、あらゆる方法を試したけれどダメだった。

 誰かに相談しようと考えたこともあったけれど、それは適切な行動ではないと自分の中で結論付けてしまったので、私が転生者であることは私以外誰も知らない。

 お父様だって知らないのだ。


 だけどそれも今日で終わり。

 全てを思い出す日が来たのだ。


「――やっぱり、ここなのね」


 別館の地下2階。

 上の階層には多数の部屋があるけれど、ここだけはただ一つの扉しか存在しない。

 通称“開かずの間”。

 いかなる人間もここへ立ち入ってはならない、と言うのがランドロール家の掟だったが、そもそもこの扉を開けることが出来る人間が存在しなかったので誰も中身を知らない。


 かつて私もここを訪れたことがある

 初代巫女の転生者たる自分ならここを開けることが出来ると思って中に入ろうと試みた。

 しかし扉が私に反応することはなかった。


 今なら分かる。

 幼い私には時期尚早だったのだ。

 あの頃の私では彼女の全てを受け入れる器が育っていなかった。

 だけど今の私なら――


 ディグランス王国に帰ってきてから、彼女の声は一度も聞いていない。

 だけど私は導かれるようにここに来た。

 もう、境界線が薄れて来ているのかもしれないな。

 リシア・ランドロールと××××の境界が。


 だけど敢えてその名を名乗ろう。

 かつて私に与えられた最初の(・・・)称号と共に。

 さようなら。リシア・ランドロール。

 私の名前は――


聖女(・・)アメリア」


 扉は開かれた。

 もう、引き返せない。



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