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24話

 翌日、私はいつも通り食事を済ませ、今日は何をしようかと考えながら昨日読み終えたばかりの本をペラペラとめくっていた。

 ちなみにこの屋敷では私、マルファさん、そしてヴィリス殿下の三人が揃って食事を行うことになっている。

 本来主と使用人が同じ食卓を囲むことは滅多にないのだが、ヴィリス殿下曰く、


「一人で食うよりみんなで食ったほうが楽しいだろ」


 と言う事らしい。

 まあ確かに食事の時間は大事な交流の場でもあるので、私としても二人との距離をより詰めることのできる良い機会だと思っている。

 人と話すことは嫌いではないし、ヴィリス殿下もマルファさんも話していて楽しい人達なのでこのような環境に身を置けたことは幸運だなと改めて思う。


 さて、この後だけど……

 そう言えばヴィリス殿下は食後の運動をしてくると仰っていたな。

 せっかくだしちょっと見に行ってみようかな。

 私も最近運動不足気味なので、お邪魔にならなそうであれば私も多少体を動かしたほうが良いかもしれない。


 そんなことを考えながら裏庭へと向かうと、そこにはとても重そうな剣で素振りをするヴィリス殿下がいた。

 深く集中しているのか、私に気づく様子はない。

 邪魔をするのは悪いので、一区切りつくまで座ってみていよう。


「198……199……200……よし、素振りはこんなもんか――って、リシア? お前いつかそこに?」


「少し前からです。ヴィリス殿下が食後の運動をと仰っていたので、どんなことをされているのか気になって。あ、これよろしければ」


「ん、水か。ありがとな」


 持ってきておいたコップをヴィリス殿下に差し出すと、殿下はそれを一気に飲み干し息をついた。

 相当ハードなことをしたのか、殿下は全身汗だくだ

 しかし改めてみると、細身ながら凄い筋肉だ。

 これはちょっとやそっとの事でつくようなものではないだろう。


「もしかしてヴィリス殿下は毎日こうして鍛えておられるのですか?」


「まあな。これでも星剣士(せいけんし)として生まれた男だ。もし万が一のことがあった時にすぐに戦えないんじゃ話にならないだろ?」


「なるほど……」


「それにオレはアガレス王国の王子でもある。オレは父上や兄上たちと違って賢くないから政治ってのはよく分からないが、幸運なことに俺は戦える力を持って生まれた。だから星剣士云々を抜きにしてもいざって時にはオレはこの剣で国を護れる人間でありたいってワケだ」


「素晴らしいお考えだと思います」


 どこぞの国の王族貴族にも聞かせてあげたい言葉だ。

 あの国では戦など平民の仕事であり、武器など高貴な人間が持つべきではないといった考えが広く根付いている。

 すべてが間違っているとまでは言わないけれど、少なくとも自らが最前線に立って国を護ろうなんて言葉はあの国のお偉いさん達から聞けることは無いと思う。


「ところでリシア。お前攻撃魔法は使えるか?」


「攻撃魔法ですか。一応使えないことはありませんが……」


「じゃあちょっとオレの訓練に付き合ってくれないか? なに、そんなに難しいことをやれってわけじゃない。ちょっと対魔法使いの訓練をしたいだけだ」


 魔法。

 それは己の体内で生成される魔力に自らの意思を乗せて精霊に渡し、要求した超常現象を引き起こさせる奇跡の力だ。

 魔法を使えば何もない所から火が発生し、水が流れ、風を引き起こすなんて芸当も簡単にできてしまう。

 魔力を持ち、そのやり方を知っている人間であれば誰でも扱える力であるため、基本的に素質のある人間は学校で基礎教養と同時にその扱い方とルールを学ぶ事が義務となっている。

 当然私も魔法使いとなる素質があったのでいろいろと学んだものだ。


「分かりました。ご期待に添えるか分かりませんが、お手伝いさせていただきます」


 数年前の学校での訓練以外で人に向かって攻撃魔法を撃った経験がないので正直ちょっと不安なところではあるが、今でもちゃんとそれが扱えるのかを確かめる意味でもやってみようと思った。


 そして私と殿下は場所を移動し、魔法を扱っても良い訓練場へと入った。


「よし、じゃあいつでも初めていいぞ。オレを倒すべき敵だと思って遠慮せずにバンバン攻撃魔法を打ってきてくれ。まあ本当にヤバいときはすぐに止めてくれると助かるが」


「分かりました。やってみます」


 私は大きく深呼吸をし、一度目を閉じて深く集中する。

 そしてゆっくりと手を前に出し、ターゲットであるヴィリス殿下にしっかりと狙いを定める。

 最初にイメージするのは火属性の魔法。

 遠慮することは無いと仰っていたが、まずは様子見からがいいだろう。


「――行きます」


「おう――って! いきなり足下からか!」


 殿下の大きな火柱が上がる。

 しかし殿下はごうごうと燃えるそれから瞬時に逃げ出しており、火傷一つ追っている様子はない。

 とは言え当然これくらいは予想済みなので、殿下が逃げた先に向けて小さな火球を10個ほど放つ。

 勢いよく射出されたそれらは目的の座標に付くと次々と小爆発を引き起こす。


「――っぶねえ! 当然のように無詠唱だな!」


 だが殿下はどうやったのか、空を蹴り上げて方向転換しこれを強引に回避。

 さらにもう一度蹴り込むと、こちらに向かって剣を構えながら一気に加速してきた。

 私はとっさに水属性の魔法をイメージし、殿下の真上から滝のような水が降り注ぐ。

 しかし今度は一度地面に手をついてから転がるようにそれを回避。

 ならばと地面に満ちた水を凍らせてその動きを止めようとしたが、それも間に合わない!


「ひっ――!」


 殿下が猛スピードで私に突撃してきたので、私はとっさに風属性の魔法で正面に向かって突風を引き起こす。

 そして半ばパニックになった私はさらに火属性の魔法を上乗せすると、それは火炎竜巻となり殿下へと襲い掛かる。


「はああああああっ!!」


 しかし殿下はその火炎竜巻を剣で強引に切り裂き、そのまままっすぐ向かってくるではないか。

 身の危険を感じ取った私は今すぐに打てる魔法をこれでもかと正面へ撃ち続け、必死に距離を離そうとするも――


「ここまでだ。もういいぞリシア」


「――っ!?」


 気が付くと殿下は私のすぐ後ろに立っていて、肩をポンと叩かれた。

 それにより冷静さを失っていた私は正気に戻り、そして目の前の光景に唖然とした。


「リシア。お前前戦えないとか言ってなかったか? その割には随分とエグい魔法を使うんだな」


「えっとこれは……その、すみません」


「正直ちょっとマジになっちまったぞ。適当にやってたら結構危なかったな」


 穴だらけの地面は一面凍り付いており、火柱と竜巻が至る所から噴きあがっている。

 私の正面には光る壁が出来ており、手のひらの上には次に飛ばす予定だった闇色の球体が乗っていた。

 他にも様々な魔法がやけくそに展開されていて、流石に自分でもヤバいと思える光景に仕上がっていた。


「お前、実は鍛えれば相当強いんじゃないのか? もし良かったらオレと一緒に訓練しないか?」


「ええとその、考えておきます……」


 確かに私は学校でも魔法関連の成績はとても良かった。

 私はもともと戦う人ではないからこんな才能いらないと思って今まで全然鍛えてこなかったけれど、他にやることもないし少しは戦闘訓練を積んでおいたほうが良いのかな……?

 私が鍛えたところで初代には遠く及ばないとは思うけれど、いざと言うときに自分自身と周りの大切な人を護れるくらいの力はあってもいいのかもしれない。

 もう少し自分の才能を活かす道を模索するべきなのかもね。


 ……おかしいな。私ってこんなこと考えるタイプの人間だったっけ。

 この国に来るまでの私は常に秘術の影響で体が怠かったから積極的に何かに向けて行動しようとすることもなかったし、もっとネガティブだった気がする。


 これはあらゆる縛りから解放されて私の気持ちが変わったからなのか、それとも初代の記憶に侵食され始めているだけなのか。

 それは今の私には分からない。

 でも、これはきっといい変化だ。そう思うことにしよう。





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