海
ブファ! ペッ、ペッ、ペッ。
荒れた海の水が寝ていた私の顔を洗い跳ね起きる。
口の中に塩っ辛い海水が入り喉の渇きを引き立てた。
救命ボートに横たわっていた身体を起こし周りを見渡す。
目に入るのはギラギラと輝き熱射を叩きつける太陽と、島影1つ見えず遥か彼方で青い海と紺碧の空が交わり境界の区別がつかない大海原。
南太平洋の島々を巡る船旅に来て10日目深夜、甲高い警報音と人が慌ただしく走る音で目を覚ました私は何事だと通路に出る。
通路に出た私の耳に、船員の「船が沈むぞ! 退船を急げ!」と言う怒鳴り声が響く。
慌てて寝間着を脱ぎ捨て服を身に纏い甲板に急ぐ。
甲板では救命ボートに群がる乗客と次々と海に飛び込む船員の姿。
乗客が群がる救命ボートに乗るのを諦め、船員と共に海に飛び込む。
海に飛び込んだ私の前に無人の救命ボートが浮かんでいたのでその中に這いずり込んだ。
救命ボートの中にオールが見当たらなかったが、海流に流されて他の救命ボートと同じ方向に進んでいたので安心して眠ってしまう。
眩しい太陽光で目を覚ましたとき周りに他の救命ボートは見当たらず、私を乗せた救命ボートだけが大海原を漂っていた。
あの夜から2日経ったが状況は変わらない。
私は体力を温存する為に救命ボートの船底に身を横たえ、早く救助される事を祈りながら目を瞑った。