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火龍の子  作者: 安倍たのすけ
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王都編

「ここが王都か…!賑わってんなぁ!」


ヴァンサン王国の首都、王都セレスティアは、王宮を中心として栄えた大陸最大の城下町だった。

セドリックはセレスティアに来ていた。

街は城を中心として放射状に広がっており、セドリックが歩いているのは街の入り口付近、露店が並ぶ賑やかなところだった。


「来てみたはいいが、どうすりゃいいんだ…?とりあえず宿…か?」


行く当てのないセドリックは道ゆく人に宿の場所を尋ね、いくつかあると言う宿のうち、平均的な費用で泊まれる宿に決めた。

王都の入り口と王宮のちょうど間ぐらいの場所に位置しており、いろいろなところへのアクセスが良さそうな場所だった。


しばらくは生活できる程度の資金はあるにせよ、そう呑気にしているわけにはいかない。

と、さっそく職を探さなければならなかったが、セドリックは既に王国軍に入隊しようと決めていた。


「入隊するったって…やり方も何もかもわからねぇからなぁ。とりあえずまた聞き込みといくか」


宿の主人に聞いたが、詳しいことは知らないらしい。

しかし、この宿に滞在している軍人がいるので、帰りを待って聞いてみてはどうかと勧められた。




帰りを待つ間、セドリックは玄関広間のテーブルに腰掛けていた。


「セドリックの記憶には、入隊する方法が全くねぇ…ホントに目指してたのか怪しいよなぁ!情けねーやつ…」



待つこと数刻、うとうとしているところを宿の主人に起こされ、軍人の帰宅を告げられた。

そこにいたのは平均的な体格と、短く刈り込んだ金髪が爽やかな、こざっぱりした風貌の青年だった。

身につけている鎧はあまり使い込まれておらず、まだ経歴が浅いことを物語っていた。


「ぼくに聞きたいことがあるっていうのは君かい?」


「おお、あんたが軍人のやつか?そうだぜ、ちょっと聞きてえことがあるんだが、いいか?」


「人に聞く態度とは思えないんだけど…。まぁいいよ、それで何が聞きたいんだい?」


青年は、セドリックの育った村ではあまり聞くことのない丁寧な言葉遣いで、育ちの良さが伺えた。


「軍に入隊してぇんだ。どうやるのか教えて欲しい」


「えっ、そんなことを聞く人は初めてだ…。どこか田舎から来たのかい?」


「そうだ。腕には自信があるぜ?」


「腕に自信があるからって入れるわけじゃないんだよ。そうだな、まず軍の仕組みから説明しようか」




王国軍はいくつかの部隊から編成されている。

魔術を用いて戦う魔術部隊。

回復魔法を用いるヒーラー小隊。

攻撃以外の魔術を用いる、特殊魔術小隊。

魔術を使用できない者は騎兵部隊、歩兵部隊に編成される。


「魔術は使える人が限られているんだ。遺伝なんだよ。だから入隊とかじゃなく、生まれた時から決まってる…。僕みたいな一般人が軍人になるには、軍学校を卒業しなきゃならない。それだって、なれるのは歩兵や騎兵…魔術部隊は一騎当千の強者ばかりだから、軍は魔術部隊を主力として編成されている。だから、僕らの扱いはあまりよくないんだよ」


魔術なんてものが存在しているのは知らなかった。

だからアブネルは人間を侮るなと言っていたのか…。


「入隊したいんだったら、まずは軍学校に入ることをお勧めするよ。推薦状が必要なんだけど、僕が用意するから」


「ちょっと待て。俺、ちっとばかし魔術が使えるんだが…」


「えっ!?そうなの!?……君、もしかしてどこか名家の出身かい!?」


「い、いや…違うんだが…育った村で火龍を崇めていて…なんかその…加護が、うちの家で伝わってたらしい…んだ…」


(苦し紛れすぎるか…!こんな嘘が通用するわけねぇ!)


「竜の加護…!噂にはきいた事があるけど、本当に存在するんだね……わかった、上司に相談してみよう!もしかしたらいけるかもしれないよ!」


「お、おう…!よろしく頼むぜ!俺はセドリックだ」


「僕はローラン!よろしくね!」


セドリックは冷や汗をかきながらも、安堵の胸をなでおろした。



その後、魔術を使えることが事実であることを証明するために、手のひらに乗せた紙を燃やしてみせると、ローランは心底感心したようにじっと見つめていた。

それほどまでに、魔術というのは限られた人間にしか使えないものらしい。


「魔術は遺伝するって言ってたよな?使えるやつってのは少ねぇのか?」


「そうだね。この王国だと聖七家って言われる七つの家系だけが使えるんだ。家系ごとに使える魔術の種類は違っているんだよ」


「へぇ、そうなのか。ちなみに炎の魔術を使う家系もあるのか?」


「もちろん!マリス家って言えば知らない人はいないさ。代々有名な人たちを多く輩出している家系で、今の魔術部隊隊長もマリス家の人だよ」


「お手並みを見せてもらいたいもんだねぇ」


「ちょっと、あまり物騒なこと考えないでよね。紹介した僕に被害が及んだら嫌だよ!」


「心配すんな!大人しくしてるからよ!それともう一つ気になったんだが、龍の加護ってのをもってるのは俺以外にもいるのか?」


「うーん、僕も詳しくは知らないんだけど、国王陛下は聖龍の加護を持つって噂で聞いたことがあるなぁ。それで六百年も生きているらしいよ。そんな話、本当かどうかはわからないけどね」


「そうなのか、随分長生きしてんだなぁ」




何日か経ち、落ち着かない気持ちで過ごしていたセドリックの部屋を、ローランが訪れた。


「どうだっ!?」


「オッケーだったよ、セドリック!」


ローランは得意げに笑いながらそう言った。


「…よしッ!」


「ただ、入隊の前に試験があるみたいなんだ。実技試験らしいんだけど、そこで実力を測るんだってさ」


終始笑顔のローランは、試験のことなどまるで心配していない様子だった。

自分の役目を終えたことに、満足しているようだった。

ここから先は、セドリック自身の役目を果たさなければならない。


「実技試験か…全力で…だとまずいだろうな。殺したらシャレにならねぇ」



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



指定された日時に、城の敷地内、模擬戦場において、セドリックの実技試験は行われた。


試験の内容はとてもシンプルで、試験官一人との模擬試合を行う。

模擬戦場には試合相手の若い男と、顔に深い皺が刻まれた魔術部隊長の大男、ヒーラー小隊の隊員の女と見習いらしき少女の、計四名が集まっていた。

試合相手はトルエノと名乗った。キザな感じでいけすかない。



「魔術部隊長のグランだ。試験では魔術の使用を許可する。ヒーラーも用意しているが、限度を超えないよう加減を考えて臨んでくれ。勝ち負けではなく、あくまで能力の確認だということを忘れないように行いなさい」


「つっても加減ってのがよくわからねぇ…殺さない程度に…だな」


「火竜の加護持ち…か。聖七家出身ではない者の実力がどの程度か、たかが知れているが楽しませてもらおうか。炎の魔術ということは中〜遠距離だろうなぁ、一気に懐に入って勝負を決めてやるよ…!」


「殺さない程度、殺さない程度…よっし!」


二人は互いに戦法を固め、あとは試合開始の合図を待つのみだった。

両者とも武器は手に持っていない。

故に、セドリックには相手の出方が全く予測できなかった。

もっとも、はなから予測するつもりもなかった。





「それでは、はじめっ!」


合図と同時に、セドリックは思い切り地面を蹴り、相手の懐へ潜り込んだ。


「なっ…!?」


その疾さはトルエノの想像を軽く超えていたために、反応する間をまるで与えなかった。

そのままの勢いで前に構えたトルエノの両腕を掴むと、一気に温度を上げて炎を起こす。


「ぬがあぁぁーーーッ!!」


セドリックは当然加減を考えてやったつもりだったが、トルエノの両腕は肩まで炎に包まれ、辺りには肉の焼ける匂いが漂い始めていた。


「おらっ!終わりだ!」


すでに勝負はついた。

そう思ったセドリックの耳に、パンッ、パンパンッ!という破裂音が響いた。

それと同時に全身の筋肉が硬直し、呼吸が止まった。


「かッーーーーーハッ」


(なんだ!?なにが起こった…!?)


「そこまで!終わりだ!両者とも離れなさい!」


終わりの合図も、二人の耳には届かない。


「ええいっ、試合前にあれだけ言ったというのに…!」


グランは苦渋の色を顔に浮かべながら駆け寄り、セドリックを殴り飛ばした。


「ヒーラー!トルエノを優先しろ!」


トルエノは泣き叫びながらヒーラーの治療を受けている。





「いってぇ…」


セドリックは飛ばされた場所で座り込んだまま、殴られた頭を摩りながらその様子を見ていた。

そこへグランが歩み寄ってきた。


「セドリックと言ったな。お前の能力はよく見させてもらった。実力は申し分ないが、魔力の制御がまったくなっていない!お前が加減をできていないせいで、トルエノの腕は完全には治りきらないだろう。だから明日から俺がお前に魔法の使い方の稽古をつけてやる。遅れないように来ることだ」


「…お、おうっ!」


問題がなかったとは言いがたいが、一応成功と言ってもいい結果に、セドリックの頬は少し緩んだ。


「こわそうなおっさんだけど、意外といい奴かもしんねぇ!」


そして明日から始まるという訓練に、胸を膨らませるのだった。





トルエノはと言うと、応急処置を終えてヒーラーの一人に連れて行かれた。

この後一晩かけて集中治療を行なったが、グランの言ったように完全に回復はできず、火傷痕と、瘢痕拘縮による手指の可動制限が残ってしまったらしい。

あわや両腕切断というほどの大火傷だったそうだが、そうならなかっただけ幸運だった。






「お怪我はありませんでしたか?」


軽症のセドリックのもとには、応急処置を終えたヒーラーの少女が駆け寄ってきた。

少女といってもセドリックよりも少し若いくらい。

金髪を短く切ったショートヘアで、あどけなさの残る顔をしていた。


「アストレア家のフィリアと申します。お怪我の治療をさせていただきます」


「いや、大丈夫だ。殴られたところがちっと痛むぐらいで、あとはなんともねぇ…」


「嘘はいけませんっ!トルエノさまの電撃を三回も受けているんです!火傷があるはずですよっ!」


「本当に大丈夫だって!ほら、見てみろ!」


セドリックは上着を脱ぎ、無傷であることを確認させた。


「本当に無傷…驚きました……丈夫なんですねっ!」


「身体の丈夫さには自信ありだッ!しかし、あれは電撃の魔術だったのか…くらったときはビビったぜ…」


ビビッときてな…という言葉は咄嗟に飲み込んだ。

気付かれずに流されて、一人で恥ずかしくなりそうだったからだ。


「そうです。トルエノさまのロック家では代々、雷魔法が受け継がれているんです。普通だったら一回受けただけで気を失うんですよ!」


「そうかい。それを三回って、殺しにきてねぇか…?」


「お怪我がないのですから、結果オーライですっ!」


そう言うとフィリアは無邪気な笑みを浮かべた。


「しかしあんなのがごろごろいるとなると、魔術部隊ってのはやべぇやつらの集まりだな…」


あんな実力者が大軍で押し寄せてきたらと思うと、いくらセドリックでも生き抜ける自信がなかった。

それにまだまだ未知の魔術がある。


「そんなことはありませんよ。トルエノさまは次期当主との呼び声が高いほどのお方です。まだお若いのに、魔術部隊の中でもかなりの実力者なんですよ!」


「そ、そうか…」


その言葉に、セドリックはそっと胸を撫で下ろした。

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