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2nd.ドキドキは傷




初めて知った。




恋はしようと思ってするんじゃない。




恋は“落ちる”ものだ。




ある一定の条件がないと成立しない。




だからこの恋は神様がくれた私へのプレゼント。




でもこのプレゼントの扱い方が私には分からないんだ。




だから彼を傷つけてしまう。




彼を好きになればなるほど、




私の“好き”の気持ちが彼の笑顔を壊してしまう。




それは、イヤだ。




私のせいで彼に悲しい思いをさせたくない。




だから、さよなら。




もう、君には会わない。




日付が変わって朝になって、学校の教室に向かう。




何も変わらない教室を見てホッとした。




同じクラスじゃなくて、良かった。




どんな顔して見ればいいか分からないもん。




椅子に腰をおろすと授業の準備をする。




あっ!




そういえば昨日教室に筆箱忘れたんだった。




机の周りを模索するがそれらしきものはない。




確か机の上に置いてたはずなのに…。




ほかの人の机の上を見渡したが黒い私の筆箱はない。




もしやと思い机の中を見るが紙しか入ってなかった。




…紙?




いつも教科書しか入れてない私の机の中に紙があるはずない。




プリントなどは教科ごと分けてファイリングしてある。




取り出すと真っ白な紙に黒い字で何か書かれていた。




“筆箱を返して欲しかったら


朝裏庭に来て”




簡潔に書かれたその字に見覚えはない。




一体誰が…。




ふと私は下がったままの前の席の椅子を見た。




…もしかして。




そう思った時には私は教室をでていた。




ありえない、ありえないけどもしかして




これを書いたのが彼だったら…。




ズキンと痛む胸を押さえて走った。




彼がこれを書いた意味は分からないけれど、




書いたのが君なら───。




避けたい。




避けたいよ、君のこと。




だけど無理なんだ。




この体は私の君への想いを知っているから。




すれ違う人は驚いた顔をして見た。




そうだろう。




朝っぱらから紙を片手に走っているのだから。




こんなに必死に走っているのは、世界中探したって私ぐらいだろう。




地味な私が勉強以外に興味を持つなんて。




思わず笑みがこぼれる。




一日で変わったな、自分。




初めて人を好きになった。



恋に落ちたきっかけはドキドキ。




君が…好き。




「涼也好きな人いるらしいよ」




走る中、廊下で話している女子のそんな言葉が耳に入った。




“涼也”…。




笠間君の下の名前だ。




“好きな人いるらしいよ”




彼女の言った言葉が刺さる。




「えー?嘘じゃないのぉ」




“冗談でしょ?”とでも言う声。




「だってさっき一組の子が告ってそう言われたって」




私はうつ向いて足を止めた。




裏庭に続く階段を、下りずに上った。




もう、行く必要はない。




一段一段上る度にさっきまでの勢いをなくした。




期待なんかして、バカみたい。




“付き合ってる人”はいなくても、




“好きな人”はいたんだね。




一番上まで上って、その上へ通じるドアを押したがあいにく開かなくて。




気付いたらそのままうずくまってた。




堅いドアと向き合って、しゃがんで膝に涙を落とす。




“好きな人いるらしいよ”




その言葉は私の体に刺さってドキドキと鳴らす心に傷をつける。




行き場のない想いが私に涙を降らす。




恋はしたいと思ってするんじゃない。




恋は落ちるもの。




だからこそ私には分からない。




どうすればやめられるのか。




どうすれば止めることができるのか。




神様。




できればこんなプレゼント、欲しくなかったよ…。




笠間君。




君の笑顔は、




誰に向けて放ったものですか?




ただ、好きなだけなのに。




想いが滲んで、うまく言葉にできないよ。




この気持ちは、どんな参考書にものってないから




私には分からないよ。




好きなっちゃいけないって



そんなの、分かってたよ最初から───。




いたい、いたいよ。




心が悲鳴をあげる。




でもその対処法がわからなくて、




傷はどんどん深くなる。




君の好きな人は誰ですか?




できるならその人に私はなりたい。




“笠間君はかっこいいから多分大丈夫だよ”




今度会ったらそう言えるように、




君の幸せを願えるように。




今は一人にして。




思いっきり泣かせて。




窓から吹き出した風は秋の風なのか、冬の風なのか私には分からないけれど、涙に小さな波紋をつくった。




“好き”って伝える前に失恋しちゃった…。




手紙の呼び出しも、すっぽかしちゃった。




駄目だね、私。




一回の失恋でこんなに悲しくなるなんて。




二日前まで恋愛とは無縁の人生だったのに。




たった一日一緒に帰っただけで恋に落ちて、




相手はかっこいいので有名な笠間君で、




彼が好きって気付いたら失恋して。




これで、いいんだ。




タイムリミットだったんだ。




「好き…」




恋しくて、愛しくて。




好き。




好きです。




好きでした…───。





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