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1st.ドキドキは恋




学年首位を保つ為に私はいつも放課後一人教室に残る。




家に帰るとはかどらないし教科書を持って帰るとバックが重くて大変だ。




なので私はギリギリまで教室に残る。




高校に入って半年だが私はほかの女子と違って化粧などしてない。




興味がないわけじゃないけど自分はたぶん似合わないから。




ノートと教科書に目を向けるとノートに影が映った。




「偉いね、勉強?」




いかにも“軽い”という感じの声が聞こえて顔を上げる。




「…笠間君」




ワックスで固めた赤みがかった髪に着崩した制服。




笠間君は隣のクラスの顔立ちが良く、女の子にモテモテで有名な、私とは無縁の人。




だから私は特に気にせず教科書に再び目を向ける。




視界に笠間君が私の前の人の椅子に逆向きに座っているのが見えた。




「矢沢さんって真面目だよね」




背もたれに頬杖をつきながら彼が言う。




私が、真面目?




「真面目じゃないよ。


好きだからやってるの」




だってじゃないと好きなのに出来ない人になっちゃうじゃん。




「うちの学年トップって矢沢さんでしょ?


好きなことに懸命になるのっていいね」




彼は笑って言った。




そう考えると、そうなのかな。




笠間君が何で私にそう言ったのかは分からないけど素直に受け取った。





その後彼は勉強している私に気遣ってくれたのか、私が帰るまで黙って見ていた。




「一緒に帰ろうよ」




私が帰る支度をしていると黙っていた彼が口を開いた。




「何で?」




誰かに誘われて帰るなんて久しぶりだ。




ましてや男の子に免疫のない私の心臓はその言葉に加速し始める。




「ホントは前から誘いたかったんだけどね。


女の子の夜道は危険だし」




彼は私からバックを奪うと自分のと一緒に肩にしょった。




「笠間君だって誰かを待ってたんでしょ?


彼女もいるって聞いたし悪いよ」




じゃなかったらこんな遅くまで学校に残っている意味がない。




それに彼女がいるって噂で聞いたし。




「彼女なんかいないよ」




キョトンとする彼に私は呆気。




「だって噂が…」




「噂と俺、どっちを信じるの?」




信じるも何も笠間君とは話したのだって今日が初めてだし。




でも笠間君は嘘を言ってないように見える。




「…笠間君」




恥ずかしくてうつ向いていると髪を彼の大きな手で撫でられた。




「待ってた人がいたのは事実」




撫でていた手が止まる。




「じゃあ…」




「矢沢さん、待ってた」




屈託のない笑顔に心が揺れる。




なんか、彼がモテる理由が分かる気がする。




良い噂は聞かないけど、悪い人じゃないって思ったんだ。




歩き出す彼の隣を歩いていいのか悩んだけど勇気を出して一歩前に出る。




彼と同じ歩幅で歩いてみたいと思った。




地味な私が男の子と一緒に歩くなんて、今日が最初で最後だと思ったから。




「隣のクラスなのによく私の事知ってたね」




クラスに一人はいる地味な私。




女子とは交流があるけど男子とは疎遠の存在。




「何でだと思う?」




意地悪な顔をして彼は笑った。




ドキドキと鳴らす私の心臓。




「まだ、教えない」




柔らかく笑う彼のすがは茜色の空に照らされて綺麗だった。




鳴らす足音は同じ。




それが嬉しい。




今日知ったばかりの人にこんな感情を抱くなんて変だ、自分。




しかも相手は学校でも有名なモテモテ王子の笠間君。




想ったって、意味ない。




なら今日だけの感情に浸ろう。




「家まで送ってくれてありがとう」




家の前で、家まで送ってくれた彼に言った。




暗いからと言って結局来てくれたのだ。




「じゃあまた明日ね」




肩にかけていた私のバックを渡すと彼は手を振って帰っていった。




見上げると、夜空は珍しく藍色を背に星が瞬いていた。




一日だけの思い出。




───だと思ってたのに。




今日も彼は放課後私の教室に来た。




昨日と同じように私の方を見ながら黙って頬杖をついている。




「笠間君今日は誰を待ってるの?」




視線に堪えきれず教科書やノートを閉じて言った。




彼は黙って私を見る。




お願い、見ないで…。




彼の行動一つ一つに反応してしまう。




彼の手が伸びて、私の頬に触れた。




───ドクン。




波が来てドキドキが私を襲う。




「ほっぺたに消しクズついてたから…イヤだった?」




気兼ねする彼に私は答えられない。




触れられた、頬が熱い。




顔が、熱い。




優しすぎる彼が、いたい。




「ごめん私もう帰るね!」




気づいたらバック片手に走り出していた。




「教室に、筆箱置いてきちゃった…」




小さく呟いた言葉は、




誰もいない路上に響いた。




笠間君。




君の優しさがツラいです。





彼が誰にでも優しいのは分かってる。




でもそれが、私にはいたいです。




電柱に背を預けて




冷たい風を避けながら




まだ雲がかっている夜空を見上げた。




「…っ」




───カーンカーンカーンカーン




ザァァ───




電車の音が私を包んだ時、声を殺して泣いてみた。




笠間君が…好きです。





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