皆で遊ぼう
「なによ、これ……」
さくらが呆然と呟く。
光源がどこにも見当たらない白い部屋の中、俺達のやけに薄い影が急に黒みを増して四辺の壁それぞれに伸びていき、壁の中で人の形を取った。
さくらの影は壁の中で大人の女性の形になり知らない声で長々と早口で淡々と言葉をつらつらと、いやベラベラとまくしたてた。
雅臣の影は別の壁に同じように伸び、二人の大人と二人の子供の形になって雅臣に優しく話しかける。
二人の影は確かに何かを話しているのにその言葉を聞いているはずの俺には初めて聞く知らないどこかの外国の言葉みたいにうまく聞き取れず、意味もまったく分からない。
俺に分かるのはそれぞれの影がさくらと雅臣のそれぞれに何かを話している、という状況だけだ。
さくらは影の言葉に後退り、雅臣ははじめて見せる陽気な感情が消えた無表情で自分の影を見ている。
「なんだ、これは」
何が起きているのか俺には分からないが俺はハッとして自分の影を見下ろした。
俺の影は薄いままで動かない。
ネコさんがとことこと俺の足元まで歩いてきた。
消えた綿をどこからか補充しながら縫い目の糸を自分で引っ張って避けた箇所を閉じている。引っ張った分だけ布がまた変な形に歪んだ。
「だ、め」
ネコさんは俺を不気味に見上げる。
「自分ノ影ハ自分ダけ。
誰モ他人ハ見エナい。
ダカラ分カラナい。
ダカラ知ラナい。
ダカラ見ナい」
ネコさんが不気味に言う。
「ダカラ皆ハ遊ブの。皆デ楽シク遊ンデ見ナイハ見ナい。
女王ト遊ブの。
皆デ仲良ク遊ブの!」
ネコさんは俺にそう言い聞かせ、次はさくらと雅臣のところに不格好な歩き方で近付いていく。
俺達にはここで「遊ぶ」という選択肢しかないと。