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女王の迷宮  作者: 雉ヶ坂子子
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オモチャ配置

 そのぬいぐるみもどき?な布の固まりは自分の事を「ネコさん」と名乗った。

 けして「ネコ」ではなく、「ネコさん」と「さん」までが名前なのだと強調してくれた。

 そして俺達二人を自分が座っていたソファの上に座らせた。

 学校の応接室で見掛けるソファに見た目だけは似ているのに、ただ板の上に座っている硬い感触しかソファからは感じない。床に座っているのと感触は同じなのに高さがある分、足が楽にはなった。

 俺達の目の前ではネコさんが嬉しそうに体を動かすが、足の大きさも左右でまったく違うのですぐにバランスを崩して転ぶ。

 こんなナリをしていて俺の背に飛び乗った時の動きは素早かったので不思議だ。というより、やはりチグハグな布の固まりにしか見えない。

「全部デ5人来タけど、別々ニ来タミタい。

 ボク、ズット探シテタよーー」

「……5人?」

 ネコさんが両腕を大きく振りながら俺達に説明する。

「ソう。ココハ女王ノオ城よ。

 女王ハ遊ビ相手ヲ外カラ呼ブの」

「わたし、たち、が、呼ばれ、たの?」

 リオもネコさんが言う事に耳を傾け、カクンと首も傾ける。

 何か質問がある時に首を傾けるのはクセなのだろうか。

「ソう。皆、女王ガ呼ンダよ。

 デモ、アト3人ガマダ見付カラナイの」

 そう言ってネコさんが大きさの違う両手をグルグルと大きく動かす。

 足の長さ、太さも左右で違うのに、ずいぶん器用に動くものだ。尻尾なんかは体をぐるりと一周していて、尻尾というか体の外に浮いた謎の輪みたいだ。

 少なくとも、俺のそれなりの美意識がこれをぬいぐるみと呼ぶのを否定したがる。

「で、俺らを見付けて、お前はどうする気なんだ?」

 重要なのはそこだ。

 こいつは俺達を探していた、とは言ったが何の目的があって探していたのかは言っていない。つまり、女王とやらの元に俺らを差し出すために探していた、という可能性が十分に高い。俺らをここに誘拐してきた奴の手先、というのが一番の可能性だ。

 もっとも、これはロボットとかそういうのだろうが。

「ソレハ――」

「あー!! 人、人がいたっすよー、先輩ちゃんさん!!」

「うるさいわね。大声を出さないで頂戴」

「??? …………だ、れ?」

 俺達が開けてこの部屋に入ってきたはずのドアが開き、そこから新しく2人の男女が現れた。

 俺達が、いたはずの部屋から出てきた。さっきまでは俺とリオしか居なかった部屋から、だ。

「なん……」

「うおっ、ぶっさいくなぬいぐるみっ!!」

「…………。あなた達も、気付いたらここにいたのかしら?」

 男の方は、俺なら触る気すらしないネコさんを簡単に持ち上げ、その不恰好な体を逆さにしたり横にしたりなどしている。

 いささか軽薄な感じがする、まあ、チャラそうな奴だ。

 ピアス、いくつ開けてんだ?

 そして、ネコさんを一度見て目を逸らし、俺達に視線を向けたのは髪を短く切りそろえた眼鏡の女だった。制服らしき服をきっちりと着こなし、着崩すことは風紀に反する、とでも言いそうないかにも優等生風の女だ。

 目尻が垂れている目を細くし、眉を不機嫌に吊り上げる。

 とりあえず女の方とは話が出来そうで、俺は男を無視して、女の方に顔を向けた。

「ああ。俺達も気付いたらここにいて、それでこの変なのから今、説明を受けていたところだ」

「そう。それで、あなたの名前と学年は?」

「は? 学年? 名前なら分かるが、学年は必要か?」

「必要でしょう。あなたが年上か年下かという事が分からなければ、私はあなたへの接し方をどうすればいいかが分からないわ。

 それと、私の名前はさくら。高校3年よ」

 偉そうに眼鏡の女はそう言った。

 これは、厄介な相手だ。

 面倒だなぁ、と思っているとリオが先に名乗った。

「わたし、リオ。中学、2年」

「そうリオちゃんね。とりあえずは、よろしく、かしら。

 それで、あなたは?」

「あー、俺は比呂貴。高校2年……です」

「比呂貴くん、ね。わかったわ。

 それで、説明を受けていたと言ったわね。私にも聞かせてもらえるかしら?」

「ねー、先輩ちゃんさん。これ、めっちゃぶさいくじゃないっすかぁ?」

 ネコさん相手にケタケタと笑っているそいつの事は放っておいていいのか、放っておくべきなのか、と疑問に思ったが、男の方に目を向けようとしたら、思い切り女の方から睨まれた。

 構うな、と言いたいらしい。

 だが、

「えっと、一応、君も名前、教えてくれる……?」

「ああ。オレは雅臣くんでーす。雅臣くんでヨロシクね~」

 やはり軽い。

 こんな状況だというのに、よくもそんな軽いノリでいられるよな、と突っ込みたくなるが、突っ込むと負けの様な気がするのはなんでだろう……。

「彼は中学3年だそうよ。

 それよりも話を先にいいかしら?」

「あ、ああ……」

 高圧的な眼鏡先輩の態度に不快感と圧迫感を抱きながらも、「ネコさん」が話したばかりの内容を理解できた範囲で言葉にする。

 どこまで「ネコさん」の話が信用できるのか、もしくは全てが嘘という可能性は、高圧眼鏡先輩なら最初から考えているだろうと俺も推測した上で、理解のまま話す。 

「つまり、女王と名乗る誘拐犯が人をここに攫ってきて、攫った人間を始末しているってことなのね。

 そして私の現状としては攫われ、始末されるまでの間、ということね。

 この、……ネコもどきの言い分が正しいのなら」

 そう言い終えるとさくらは自分の上着の胸ポケットに手を入れた。

 そして、肩をすくめる。

「だから携帯もなくなっているという事だったのね」

「あ、だから俺のスマホも」

 イヤホンを差していたはずのスマホが消えていた原因を理解する。

 リオと雅臣もようやく気付いたみたいで自分の上着のポケットを探し始めた。リオのポケットからは飴がいくつか散らばる。同じ味の飴ばかりよくそんなに沢山ポケットに入れていたものだと呆れる。

「あんたも」

「さくらと名乗ったでしょう。他人のことを『あんた』なんて呼ばないで頂戴」

「……さくら、さん」

「何?」

「……さくらさんも、気付いたらここにいたって事、デスカ?」

「そうよ。何か文句でもあるかしら?」

 いかにも性格きつそうな見た目だと思ったが、本気できついらしい。

 同じ学校にも似たタイプの人間はいる。将来のビジョンが明確になっていて将来が確信されているという自信に満ち、将来が不確かな人間とは接しようとしない。

 俺と真逆なそいつらが俺に向ける顔はいつも同じ。

「いやいやいや、先輩ちゃん、その言い方はヤバイって。

 もちっと仲良くしよーよ」

 雅臣が仲を取り持つかのように俺と嫌味女との間に立った。

 チャラ男だがこっちの方が人間的にまだ話はしやすそうだ。それにネコさんの言っていた「5人」というのも気になる。

 ここにいるのは俺、リオ、さくら、雅臣の4人。

 ネコさんの話が本当ならあと1人、ここに連れてこられた人間がいるはずだが……。

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