ニルヴァーナ
この小さな箱の中にこの世の全てが詰まってる。
その事に気付いた時から、僕の世界は広がる事を止めてしまった。
いや、僕が世界を広げる事を止めてしまったと言った方が正しいのか。
どちらにしても、今まで僕の中で無限に広がっていた世界に枠が出来てしまった。
そして一度生まれてしまったその枠はどんどん世界を閉じ込める。
僕の世界はどんどん小さくなっていく。
だが、それがなんだ。
この箱さえあれば生きていける。
学校でも教えてくれないような知識をこの箱は教えてくれる。
行った事のない国の事も、見た事のない生き物の事も、この箱は瞬時に僕に教えてくれる。
実際に行って見る必要なんて無い。ただ僕が知りたいと思えば全て教えてくれる。
友達だって作ってくれる。
顔も知らない、本当の名前も分からない人達と、24時間いつでも繋がる事が出来る。
顔を合わせて会話する必要なんて無い。ただ僕が寂しいと思えば話し相手を作ってくれる。
諦める事も教えてくれる。
夢を追いかけて失敗する事なんて有り得ない。
才能のない僕達が無謀な夢を追いかけてしまわないように、暗い現実を沢山教えてくれる。
絶望する必要なんて無い。無難に生きる方法ならいくらでも教えてくれる。
恋に破れて傷付く事もない。恋愛なんて必要ないと教えてくれたから。
大人の言う事は聞かなくていい。大人はみんな嘘つきだと教えてくれたから。
指先の命令でどんな願いも叶えてくれる魔法の箱。
僕達はこの箱の中で万能だ。
そしてこの箱の外で独りぼっちだ。