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第1話・転校生 #09

 4人は1度屋上に上がり、校庭や学校の周囲を確認する。警報により、集まったゾンビはお昼休みの時の10倍以上はいるように見えた。しかし、ほとんどが先ほど警報が鳴った南校舎の玄関付近に集中しており、その反対側、職員や来客用の駐車場がある付近は、比較的少なかった。


「では、作戦を発表します」ノートに書いた簡単な学校の地図を指さしながら、ツインテールの美青が言う。「今、岡崎先輩は駐車場入口、いわゆる裏門付近に隠れてもらってます。茉優先輩と宮沢先輩は、北校舎の裏口から出撃。ゾンビを倒しつつ駐車場を抜け、裏門を開けて岡崎先輩と合流してください。ここまでで、何か質問は?」


 玲奈は少し考えたが、質問することは特になかった。駐車場のゾンビの数はそれほど多くない。ボクシング部員の茉優と一緒ならば、危険は少ないだろう。


 その茉優が手を挙げた。「裏門開けるのって、結構危なくない?」


「そうですね。かなり危ないと思います」美青が答える。


「えっと……裏門を開けるのが、どうして危険なんですか?」玲奈は恐る恐る訊いた。


「うちの裏門、すごく古いの」モデル顔の架純が笑顔で答える。「開閉すると、スゴイ音がするのよ。さっきの警報にも負けないくらいの、それはそれは大きな音が」


 ……何だよそれ。油くらい差しとけよ。心の中で文句を言う玲奈。


 美青が作戦の説明を続ける。「恐らく南校舎玄関付近のゾンビが一斉に駐車場に押し寄せて来ると思いますので、岡崎先輩と合流後は、すみやかに校舎に帰還してください」


「……他人事だと思って、ムチャな作戦立てやがって」茉優は大きくため息をついた。


「大丈夫です。この作戦は、完璧です。茉優先輩と玲奈先輩なら、必ず遂行できます」根拠に乏しいことを言う美青。「それでは実行に移りましょう。これより本作戦を、『岡崎先輩救出作戦』と命名します」


 そのまんまじゃないか、というツッコミは飲み込んだ。


 その後、簡単に武装した玲奈と茉優の2人は、架純と美青に笑顔で送られ、北校舎の裏口から外に出た。


 北校舎の外はゾンビが比較的少ないとはいえ、それでもかなりの数のゾンビで溢れていた。玲奈たちに気付いたゾンビが、両手を前に出し、襲い掛かってくる。

 茉優は、4本の指にはめて握りこむ金属製の武器を右手に付けていた。映画やドラマなどで不良がケンカをする時によくつけている、ナックルダスターとかメリケンサックとか呼ばれている武器である。ボクシング部員の茉優が持てばかなりの破壊力となるだろう。茉優は襲い掛かってくるゾンビの額にパンチを叩き込んだ。


「……ったく。なんであたしがこんなことを。あたしケガ人なのに」ブツブツと文句を言いながらも、襲い掛かってくるゾンビたちを次々と倒して行く茉優。


「ゴメンなさい。あたしのせいで、こんなことになって」謝る玲奈。「左手、大丈夫ですか?」


「ん? まあ、大したことはないんだけどさ」心配させないようにか、左手を振る茉優。


「そのケガ、どうしたんですか?」ずっと気になっていたことを訊いてみた。


「うーん、ボクシングの練習中に、ちょっと、ね」なんとなくごまかすような口調。「それよりあんた、ゾンビの倒し方、分かる?」


 玲奈は、首を横に振った。


「ゾンビは、痛みを感じず、恐怖心もない。腕を斬られようが、内臓ぶちまけようが、動き続ける。倒す方法は1つ――」


 茉優は、襲い掛かって来たゾンビの頭部に、右フックを叩き込んだ。勢いよく倒れるゾンビ。


「頭を潰す!」


 倒れたゾンビの頭部に、さらに一撃加えた。思わず目を閉じる玲奈。ぐしゃり。イヤな音がした。見てない。あたしは、何も見てない。


「どう? 簡単でしょ?」


 何をどうすれば今のを簡単だなんて言えるのか。玲奈には到底マネできそうになかった。そもそも、玲奈が持っている武器は、調理実習室にあったフライパンだ。役に立つかどうかはいまいち疑問だが、何も持たずにいるよりははるかにマシだろう。包丁の方が良かったかもしれないが、ゾンビ相手とはいえ刃物を振るうのは、ちょっと遠慮したい。


「それと――」と、茉優は続ける。「ゾンビは基本的に、まっすぐ向かってきて、掴んで、咬みつこうとする。ワンパターンだから、要は捕まらないようにすればOK。そんなに怖がるほどの相手じゃないよ。注意しないといけないのは牙。ゾンビに咬まれたら、その人も、ゾンビになってしまう。これは、知ってるよね?」


 コクン、と頷く玲奈。


 茉優はゾンビのボディにアッパーを打ち込んだ。「――だから、むやみにゾンビの顔面は殴らない方がいい。素人が素手で殴ると、ゾンビの歯で拳を傷つけてしまうことがあるからね。あたしや、さっきテコンドーでゾンビを倒してた里琴は、戦いに慣れてるから、頭を攻撃する時は上手く歯を避けるようにしてるけど、あんたらはマネしない方がいいよ?」


 まあ、言われなくても、生まれて1度も殴り合いのケンカなどしたことが無い玲奈は、そんなことをする気は全く無かった。


 玲奈は疑問に思ったことを訊いた。「えっと、牙に気を付けるってことは、爪は大丈夫なんですか? ゾンビに引っかかれた人も、ゾンビになるんじゃ?」


「今の所、ゾンビに引っかかれてゾンビになった人はいないね。だから、爪は大丈夫だと思うよ? ゾンビになる条件は2つ。ゾンビに咬まれることと、死んでしまうこと」


 そうなんだ、と、玲奈は感心する。さっきの「ゾンビは人間以外襲わない」という件といい、玲奈の知らないことばかりだ。


「ゾンビのこと、詳しいんですね」


「まあ、全部受け売りだけどね。2年生に1人、バケモノみたいに頭の良い娘がいてね。さっき架純が言ってた、アンテナ改造してケータイを繋がるようにした娘なんだけど、その娘が、ゾンビの研究をしてるの。たぶん、あんたら聖園高の生徒より、頭良いと思うよ」


 確かに、アンテナ改造してケータイを繋がるようにできるような生徒は聖園高校にはいないだろうな、と、玲奈は思った。しかし、なんでそんな娘がこの四木高校にいるのだろう? 分からなかったが、今は考えている場合ではなかった。


 茉優の言う通り、ゾンビと戦うのは思ったほど困難ではなかった。相手は非常に動きが遅く、まっすぐ向かって来るしかできない。1体ずつ倒して行けば、決して恐ろしい相手ではないようだ。とは言え、所詮、玲奈はか弱い女の子。襲い掛かってくるゾンビはほとんど茉優に任せ、玲奈はとにかく、ゾンビに捕まらないように逃げ回った。


「ところでさ――」襲い掛かって来たゾンビの側頭部を殴りながら、茉優が言う。「あんた、岡崎さんとは友達?」


「え……あ……いや……」


「ちがうの? お昼休みに屋上で話してた時、なんか、そんな感じに見えたけど?」


 ……やっぱり見られてたか。玲奈は、小さな声で言う。「幼馴染……かな。幼稚園の頃から」


「そう――」ぐしゃり、と、ゾンビの頭を潰す茉優。「なら、なんで最初に言わなかったの?」


「それは……その……」


「エリート校の聖園高の生徒が、落ちこぼれの四木高の生徒と友達だなんてことが知られたら、友達から白い目で見られるから?」ゾンビを倒した茉優は、玲奈の方を見る。「多いんだよね、そういう娘。中学までは仲良かったのに、高校が別になると、急に他人のフリをするの。街で会って、声をかけても、完全無視」


「いや……そんなことは……」思わず目を逸らす玲奈。


「別にいいよ。あたしらが落ちこぼれなのは確かだし。あたしらだって、聖園高の生徒と友達だ、なんてバレたら、ハブされることもあったし」


「…………」


「ま、こんな世界になっても、四木高だ聖園高だなんてくだらない事言ってるのは、梨花くらいだろうけどね」茉優は、左から襲い掛かって来たゾンビの抱き着き攻撃をしゃがんでかわすと、ゾンビの顎に拳を叩き込んだ。


 梨花。あの、ギャル系グループのリーダーの少女だ。朝、教室で、玲奈がこの学校に残ることに反対した少女。確かに彼女は、完全に玲奈のことを敵視していた。玲奈が聖園高の生徒だという理由で。くだらない事。茉優はそう言った。正直、玲奈もそう思う。


 ……でも、もし立場が逆なら、あたしも梨花さんと同じことを言ったかもしれない。


 玲奈は思う。


 あたしに、梨花さんを非難することはできない。


 あたしには、そんな資格は、無い――。






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