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第5話・生徒会長 #12

 愛の言う通り、30分ほどで校舎の電気は回復し、みんな、手を叩いて喜んだ。太陽光発電への切り替えに成功したのだ。これで、明かりだけでなく、ある程度の電化製品も使える。太陽光発電だから、曇りや雨の日は心配だが、それでも、今までのように発電機の燃料の心配をしなくていいのは大きなメリットだった。


 架純たちが湧かしたお風呂をありがたくいただいた玲奈。架純との約束を思い出し、言われた通り、発電機のある地下室へ1人で向かった。


「架純ちゃーん? いる?」恐る恐る入る玲奈。電気は点いているが、地下室というのは、なんとなく恐ろしい雰囲気である。


「玲奈ちゃん? こっちこっち」


 声のした方へ行く。発電機のそばに、架純と愛がいた。愛は、発電機をいじっている。


「ちょっと待ってね、玲奈ちゃん」架純が言った。「もうすぐ終わるみたいだから」


 と、言うことなので、しばらく架純と愛の作業を見ていたら。

 ばるるん! と、発電機が動き始めた。


「え? すごい」手を叩いて喜ぶ玲奈。「愛ちゃん、発電機、直ったんだね」


「はぁい」愛は、額の汗をぬぐった。「今日回った家を調べたら、蓄電器の中に使えそうな部品があったので、それを利用しました」


 ナルホド。太陽光発電は、電気を溜めておくための蓄電器が備え付けられてある。それを利用するなんて、さすが愛である。


「――と、いう風に、みんなには言っておいてね」架純が言った。


「――え?」意味が分からず、架純を見る玲奈。


 架純は、いつものすました笑顔を向けている。


「実はですね、玲奈さん」愛が手の埃を払いながら言う。「発電機は、壊れたんじゃないんですよ。あたしが、ワザと止めたんです」


「――――」


 ますます意味が分からない。発電機は故障していない? ワザと止めた? いったい、なぜそんなことを?


「あ、でも、安心してください」愛が笑いながら言う。「太陽光発電に切り替えたのは本当です。やっぱり、燃料は節約しないといけませんからね。これからしばらくは、太陽光と燃料発電のハイブリッドで行きますから」


「いや、でも……」玲奈は、ひとつひとつ言葉を選ぶように言う。「なんで、発電機を止めたの? 太陽光発電にするなら、最初からそう言えばいいのに」


「はい。問題は、そこなんですよ」愛、何やらもったいぶった口調。


「玲奈ちゃん」架純の顔から笑顔が消えた。「これから話すことは、あたしと、愛と、岡崎さんしか知らないことなの」


「え? リオ?」


「そう。だから、絶対に、誰にも話さないでね。茉優にも、梨花にも、もちろん、美青にも」


 なんだか分からないが、ただならぬ雰囲気を感じる玲奈。返事をしていいものか迷っていたが、沈黙を肯定と受け止めたのか、架純は、愛に向かって大きく頷いた。


 愛は、ゆっくりと話し始めた。「玲奈さん、この学校の防犯設備って、ものすごーく厳重だと思いませんか?」


 防犯設備? 何の話かよく分からないが、確かにそれは思っていた。全ての出入口と窓にアラームが設置され、窓はすべて強化ガラス。監視カメラの数も多い。気にはなったが、女子高だからそんなものなのかもしれない、と、納得していた。


 愛は言葉を継いだ。「あたし、アウトブレイクが起こった後、防犯カメラを止めようと思ったんです。ゾンビの侵入対策なら、強化ガラスとアラームだけで十分ですし、ゾンビ相手にカメラなんか回しても、あんまり意味は無いですからね」


 確かに、それは言える。カメラの消費電力なんてたかが知れているが、数が多ければ決してバカにできない。アウトブレイク後は電気の供給が止まっている。自家発電では、少しの電気も無駄にはできない。カメラを停止させれば、かなりの電力節約になるだろう。


「でもですねぇ――」愛は、少し間をおいて言った。「カメラの電源が、どうやっても切れないんですよ」


 ――カメラの電源が、切れない? どういうことだろう? 話が見えてこない。


 愛はさらに話を続ける。「カメラを管理しているのは警備員室です。その警備員室を徹底的に調べたんですが、カメラを停止するボタンや、電源を切るスイッチが無いんです。さらに、発電機が燃料切れやメンテナンスで止まった時も、カメラは、ずっと動いてるんですよ」


「え、でも――」玲奈は、少し考えて言った。「それって、防犯上は当然なんじゃない? だって、簡単に電源を落とせるようじゃ、泥棒とかに止められちゃうし。停電でも動くように、カメラの中にバッテリーが入ってるんじゃない? 予備電源として」


「さすが玲奈さん。その通りです」愛は、満足そうな表情で言った。「あたしもそう考えました。だから、もう思い切って、カメラのコードを切断しようと思ったんです。電源コードさえ切れば、いくらバッテリー内臓でも、いずれは止まるでしょうからね。でも、今度はコードが見つからないんです」


「――――」


「防犯カメラって、普通は、天井裏や床下にコードが通っていると思うんです。撮った映像を、警備員室に送る必要がありますから。ですが、どういうわけか、コード類は全部、壁や柱の中に埋め込まれているんです。普通はあり得ないですよね? 修理の時とか、機材を移動するときとか、ものすごく不便です」


 玲奈は、何と言っていいか分からず、ただ黙って話を聞いている。


「それで、さすがにこれはおかしいと思ったんで、今回、思い切って、発電機を長時間止めてみたんです。発電機を止めれば、いずれカメラも止まるはずなんです。予備電源も、そう長くはもたないでしょうからね」


「それでね――」と、今度は架純が話し始めた。「玲奈ちゃんたちが外で作業している間、あたし、学校内のカメラを、全部、チェックしてたの。残念ながら、全部動いてた。玲奈ちゃんたちが帰って来るまで、ずーっと、ね」


「発電機が止まってから20時間以上経ったのに、止まらないんですよ」再び愛が話し始める。「いくら予備電源があったとしても、さすがに20時間以上は持たないと思うんですよねぇ」


「でもね」と、架純。「警備員室にある録画機は停まってるの。映像をチェックしたら、発電機が停止してから、1時間くらいの映像しか残ってなかった」


 再び愛が話し始める。「カメラと録画機の電源が別だとすれば、それは当然なんです。でも、録画機が止まってるのに、カメラを動かしていても意味が無いと思うんですよ。だから、電気が止まっている間も、どこか別の場所で録画されていると考えた方が、自然だと思うんです」


 玲奈は、2人の話を頭の中で必死に整理した。「――つまり、この学校の防犯カメラの電源は学校の外にあって、録画も、そこでされている、ということ?」


「そういうことになりますね」愛は、また満足げに頷いた。


「警備会社ってことは、無いよね?」


「そうですね。映像が警備会社に送られているというのはあり得ますが、カメラの電源が警備会社から送られているというのは、さすがにおかしな話です。万が一、そういうシステムだったとしても、この街の電気の供給は、とっくに止まっていますから」


 ゴクリと息を飲む玲奈。愛と架純の話は理解したつもりだが、結局それが何を意味するのか、全く理解できない。ただ、愛の言葉を待つ。


「それで、これらの話を全部まとめて、あたしが出した結論がですね――」愛は、いつものおっとりした口調で言った。「どこかでぇ、誰かがぁ、なんらかの目的でぇ、この学校の様子を監視してるんじゃないかなー? と、思うんです」


 ――――。


 言葉を失う玲奈。


 愛も、架純も、誰も喋らない。薄暗い地下室を、沈黙だけが支配する。


 どこかで、誰かが、何らかの目的で、この学校の様子を監視している?

 この学校の様子を、誰かが見ている。

 と、すれば、今も? 玲奈は、辺りを見回した。


「安心してください」と、愛。「カメラは発電機の向こう側です。死角になってますからここは映りません。映像のみ録画するタイプなので、会話も大丈夫です」


 そう言われても、安心することなどできるはずもない。


「でも、どこで、誰が、何の目的で、そんなことをしてるの……?」我ながらバカな質問だと思ったが、訊かずにはいられなかった。


「分かりませんけどぉ、まあ、どこかの変態がピチピチ女子高生の学園ライフを盗撮して喜んでるってレベルの話じゃあないと思いますよ?」愛は冗談ぽく答えた。


「更衣室やトイレには、カメラは無いしね」架純がいつものすました笑顔で付け足した。


 2人の喋り方や笑顔がいつも通りなのが救いだった。玲奈は、それで少し落ち着くことができた。

 だが、愛が言いたいのは、要するに、ほとんど何も分からないということだ。


「――と、まあ、そんなの所ですね」愛が言った。「別にこの件で、今すぐ玲奈さんに何かしてもらおうというワケではないんですよ。カメラについては、引き続き、あたしが調べます。何か分かったら、すぐにお知らせしますから」


「このことは、他の娘には絶対言っちゃダメだよ?」架純が念を押す。「まだ何も分からない段階だから、言っても、無駄に混乱させるだけだと思うし」


「うん。分かった」玲奈は頷いた。「でも、なんであたしに、そんな話をしたの?」


 愛が話す。「実はこれ、以前から疑問に思ってて、岡崎さんと架純さんに協力してもらって、3人で調べてたんです。でも、岡崎さんがあんなことになって。新しい協力者を見つけなきゃって、ずっと思ってました」


「それが、なんであたしなの?」


「だって、当然じゃない」架純が、すました笑顔のまま言う。「今の四木高で新しい生徒会長を選ぶなら、玲奈ちゃんしかいないと思うけど?」


「――――」


 またまた言葉を失う玲奈。


 ――あたしが、四木高の生徒会長?


 そんなこと、考えたことも無かった。


 2人の顔を見る。笑顔だが、冗談を言ってるような感じではない。


「――いや、ムリムリ」玲奈は両手を振った。「生徒会長ということは、みんなをまとめないといけないんでしょ? そんなの、あたしには無理だって」


「そんなことないよ」架純は、自信たっぷりの口調で言う。「この前、高速道路の工事現場でヘルメット付きゾンビに囲まれた時、みんながパニックになってる中、玲奈ちゃんだけが、冷静に脱出する手段を考えてた。そして、ロードローラーを動かすって作戦で、みんなのピンチを救ったじゃない」


「いや、アレは、みんなパニックになってたのかな? むしろみんな余裕たっぷりで、あたしだけが危機感を感じてただけのような」


「それに、今日だって、梨花と万美を仲直りさせてた。これ、すごく重要だと思うの。今の四木高で、仲間割れって、けっこう致命的なんだ。玲奈ちゃんが早めに解決してくれて、ホント、助かった」


「それも、あたしは特に何もしてなくて、ただあの2人が自然に仲直りしただけだよ」


「だとしても、きっかけを作ったのは玲奈ちゃんなんだから、やっぱり、それってスゴイと思うの」


「いや、でも、どうかなぁ? やっぱり、あたしに生徒会長なんてムリだと思うよ? 架純ちゃんとか、茉優とかの方がいいんじゃないかな? 梨花さんも、意外とリーダーシップがあると思うし」


「そうかもしれないね。でもね、玲奈ちゃん。あたし、思うの」


 架純は、まっすぐな目で玲奈を見て、そして、言った。


「岡崎さんの遺志を継ぐのは、玲奈ちゃんしかいないって」


 ――――。


 あたしが、リオの遺志を継ぐ――?


 架純は言葉を継いだ。「みんなから話を聞いたと思うけど、アウトブレイクの前、岡崎さんは、四木高を変えるために、すごく頑張ってたんだ」


 玲奈もそう思う。リオがこの学校で生徒会長をしていると初めて知った時、単に成績がいいからという理由だけでみんなから選ばれたのでは? と思った。頼まれたらイヤとは言えないリオの性格を、みんなに利用されただけなのだと。しかし、今日のみんなの話を聞いて、それは間違いだと気付いた。リオは確かに、この学校の生徒会長として、みんなに認められていたのだと知った。


 架純が話を続ける。「アウトブレイクが起こってから、先生はほとんど逃げ出しちゃうし、学校に残ってくれた大野先生は、申し訳ないけど、ちょっと頼りにならないし、みんな、すごく不安だったんだ。それを、岡崎さんが救ってくれたんだよ。生き残るために何をすべきか考え、食料や水を確保し、ゾンビに対応する校則を作った。みんなをゾンビから守るために、毎日毎日、すごく考えて、行動して、時にはつらい決断をして、みんなを導いてきたの。岡崎さんがいなかったら、この学校の生徒は、とっくに全滅してたはずだよ。でも、あんな事になっちゃって――」


 架純は、そこで言葉を切った。


 玲奈が四木高に転校してきた日、岡崎リオはゾンビとなり、処分された。


「岡崎さん、悔しかったと思うんだ」再び話し始める架純。「みんなを最後まで護ることができなくて、すごく、悔しかったと思う。もし、今も岡崎さんの魂がこの学校をさまよってるとしたら、絶対、玲奈ちゃんに、みんなを護ってほしいと思ってるはずだよ」


 リオが、あたしに?

 あたしが、リオに代わって、みんなを護る?

 そんなことが、できるだろうか?

 分からない。


 自分で言うのも何だが、あたしは、みんなよりは勉強ができる方だろう。なんと言っても、あの超エリート校・聖園高校に合格したくらいだから。


 しかしそれは、ただテストで良い点数を取るが得意というだけの話だ。そんなのは、このゾンビだらけの世界では何の役にも立たない。それなのに生徒会長――みんなのリーダーになんて、なれるわけがない。もっとふさわしい人が、いくらでもいるだろう。


 でも、架純の言う通り、もし本当に、リオが、あたしに生徒会長をやってほしいと願っているのなら。


 あたしは、やってみたい。


 リオの遺志を継げるのなら、やるべきだ。


 あたしは、聖園高校の合格発表の日、リオを傷つけた。

 あたしは、ショッピングモールでリオが万引きの濡れ衣を着せられたとき、見捨てた。

 あたしは、リオに謝らなければいけないことがたくさんあったのに、謝ることができなかった。


 罪滅ぼし、などと言うつもりはない。そんなことであたしの罪が消えるとは思わないけれど。


 あたしは、リオの遺志を継ぎたい。


 リオが最後までやり遂げることができなかったことを、みんなを護ることを。

 あたしは、命を懸けて、やり遂げなければいけない。


 リオの遺志を継ぐために――。


 ――――。


「…………」


「…………」


「……いや、やっぱムリじゃないかなぁ、あたしには」ポロリと、本音を漏らす玲奈。


「大丈夫だって」架純は、いつもの笑顔に戻った。「玲奈ちゃん1人に全部任せたりはしない。あたしたちも、全力でサポートするから、ね?」


「うん。できるかどうか分からないけど、頑張ってみるよ」玲奈も、笑顔で応えた。不安はあるが、架純の言う通り、みんながサポートしてくれれば、頑張れる気がした。


 架純が、ぱん、と、手を叩いた。「じゃ、そういうことなので、新生徒会長の件は、明日、あたしからみんなに話すから、玲奈ちゃんは、就任の挨拶、考えておいてね。またアイドル・ヴァルキリーズの歌を歌うのもいいけど、できれば、ちゃんとした演説みたいなのも、お願い」


「えー? せっかく新しい歌の振り付け、覚えようと思ったのに」


 玲奈がそう言うと、架純と愛は笑った。つられて、玲奈も笑う。みんなで、しばらく笑い合った。


「ゴメンね、玲奈ちゃん」架純が笑顔のまま言う。「ゾンビと戦って疲れてるのに、こんな話しちゃって」


「ううん。大丈夫。すごく大事な話だし」


「カメラの件は、あんまり気にしないで。一応話しておいた方がいいと思ったから話したけど、それは、愛に任せておけばいいから。玲奈ちゃんは、生徒会長の件を、お願いします」


「うん。がんばってみる」


「じゃあ、先に戻って、休んでて。あたしたちは、もうちょっと作業があるから」


 ということなので、架純と愛を残し、玲奈は、地下室を出た。


 ――しかし、あたしが生徒会長か。


 そんなことは、考えてもみなかった。しかし、リオのために、やらなければいけない。どこまでできるか分からないけど、やってみよう。そう、決意する。


「――玲奈ちゃん」


 階段を上り、地下室から1階に戻ってきたところで、背後から声をかけられた。この学校で玲奈のことをちゃん付けで呼ぶのは架純しかいない。


「なに? 架純ちゃ――」


 振り返って。


 ――――。


 玲奈は、言葉を失った。


 ドクン、と、心臓が大きくなる。全身が粟立つ。周囲の気温が、一気に下がったような気がする。


 そこに立っていたのは、黒縁の大きなメガネで、背中まで伸びた長い黒髪を首の後ろで1つに束ねた、いかにも優等生という雰囲気の少女。


 ――え? 何?


 わけが分からなかった。彼女は死んだはずだ。ゾンビになって処分された。玲奈の目の前で。


 しかし、目の前に立っているのは、どう見ても。


 岡崎リオだった。


「――玲奈ちゃん。やっとあたしの声、届いたみたいだね」


 岡崎リオは、懐かしい、あの悪意のない笑顔を玲奈に向けた。

 それは確かに、幼馴染の、岡崎リオだった。


 だが、信じられない。

 なぜ、彼女がそこにいるのか、理解できない。


「――玲奈ちゃん? どうかした?」不思議そうに首を傾げるリオ。


「いや、どうかした? じゃなくて」何と言っていいか分からない玲奈は、とんちんかんなことを口にしてしまう。「リオ、なんで居るの?」


「あたしは、居るよ?」当然のように言うリオ。「玲奈ちゃんのそばに、ずーっと、居るよ?」


「いや、でもさ――」言っていいものかどうか迷ったが、思い切って言ってみることにした。「リオ、死んだじゃん」


「うん。そうだね」意外とあっさり認めるリオ。


「じゃあ、なんで居るの?」


「死んだら、居ちゃいけない?」


「いや、そんなことはないけどさ。ただ、死んだ人が目の前にいるのが、信じられなくて」


「なんで?」


「だって、それって、幽霊ってことじゃん」


「幽霊は、信じられない?」


「まあ、そうかな。あたし、霊感なんて無いから」


「でも、ゾンビは信じてるんだよね?」


「そりゃそうでしょ。ゾンビは、現実に目の前にいるんだから」


「だったら、幽霊も信じなきゃ。ゾンビも幽霊も、どっちも同じ死人なんだし。現実に、あたしは玲奈ちゃんの目の前にいるんだし。ね?」


「確かに、理屈で言えばそうかもしれないけど」


「それともあたし、居ない方がいい?」


「いや、そんなことはないよ」


「じゃあ、いいじゃん」


「何なのよ、それ」


 玲奈は、おかしくてつい笑ってしまう。リオも笑う。懐かしい、幼馴染との、たわいのない会話。この、ちょっと噛み合わない感じの会話。もう、2度と無いと思っていた、岡崎リオとの会話。


 ふいに。


 涙が、込み上げてきた。


「玲奈ちゃん?」


 驚いた顔のリオ。


 こらえきれず、玲奈は、泣いた。

 声を上げて、泣いた。


 目の前に、リオがいる。

 死んだはずの、リオがいる。

 もう会えないと思っていたリオがいる。


「ちょっと玲奈ちゃん? どうしたの? 何で泣くの?」オロオロとするリオ。


 泣きながら、玲奈は一気にしゃべる。「だって、あたし、リオに会いたかったんだもん。ずっとリオに謝りたかったんだもん。合格発表の日のこと。ショッピングモールの万引きのこと。ずっと謝りたくて、でもゾンビになって死んじゃって、謝りたくても謝れなくて、リオ、絶対怒ってるって思って――」


「大丈夫、大丈夫だから。あたしが玲奈ちゃんのこと、怒るわけないよ。だから、泣かないで、ね?」


 そう言われても、その言葉が嬉しくて。


 玲奈はまた泣く。しばらくずっと、泣き続けた。






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