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第5話・生徒会長 #08

 ☆




「――ありがとうございましたー」


 バニラアイスをチョコクリームでコーティングしたアイスクリームを女子中学生に渡し、梨花は笑顔で見送った。女子中学生は笑顔で友達の待つテーブルに駆けていく。ふう、やっと終わったか。梨花はそのテーブルを見つめ、大きく息を吐き出した。10人ほどの男女が、今、梨花が手渡したばかりのアイスを食べながら、楽しそうにおしゃべりをしている。このショッピングモールは、平日、お客はあまり多くない。そもそもの人口が少ない街なのでそれも当然なのだが、梨花が働いているアイスクリームショップは、テレビやネットで話題になっているということもあり、ときどき、学校帰りの中学生や高校生が団体で訪れることがある。突然忙しくなるので、梨花がまだ新人だった頃はパニックに陥って、よく失敗もした。しかしあれから早9ヶ月。今は仕事にもすっかり慣れ、梨花1人で10人の客を回すこともできるほど成長していた。


 ようやく落ち着いたので、少々散らかったカウンターを整理しようとしたら、新たなお客さんが2人やってきた。梨花は、学校では絶対に見せない笑顔で迎える。


「いらっしゃいませー……って、なんだ。あなたたちか」


 笑顔から一転、ちょっとイヤそうな顔になる梨花。現れたのは、隣のクラスの田宮一華と白石彩美だった。


「なんだってことはないでしょ。客に向かって」一華は唇を尖らせた。


「また、誰か勧誘でもするの? うちの商品を買ってくれるのはいいけど、あんまりフロアで騒がないでよ? 周りの人に迷惑だから」梨花は、先日のボクシング部員勧誘のことを思い出しながら言った。


「今日は違うよ。期末テストが終わったから、たまには岡崎さんに息抜きさせないと、って思って、来たの」


 梨花はフロアを見回した。その岡崎リオの姿が見えない。


 一華がその様子を察した。「さっきそこで、久しぶりに中学時代の友達に会ったみたいで、話をしてるみたい。もうすぐ来ると思うけど」


「そう。なら良かったわ。監督者がいないと、なにをやるか分かったもんじゃないからね」


「さっきから、ちょいちょい失礼なことを言うわね、客に向かって。どういう教育してるのかしら。ヒドイ店だわ。ツブヤイターで『アイスの中にゴキブリが入ってた』ってつぶやいて、炎上させてやろうかしら」


「今はどこの企業もそういうのに敏感だから、徹底的に調査されるわよ? ウソだって分かったら、損害賠償は、何千万って額になるでしょうね」


「ちぇ、口の減らない店員だこと。おごってくれると思って、わざわざ来たのに」


「あなたにおごるいわれはないわね。注文しないなら、営業の邪魔よ」


「はいはい。注文すればいいんでしょ、注文すれば」


 途端に笑顔になる梨花。「いらっしゃいませー。新商品のストロベリーマリアージュ、とーってもオススメですよー? ストロベリーのアイスとシャーベットの運命の出会いを、ストロベリーチョコが包み込む姿は、まるでチャペルウェディング! ただいまお客様だけの特別キャンペーンで、30%オンの価格で販売してまーす」


「やっぱ帰るわ」


「冗談よ。なんでも好きな物、注文しなさい」


 途端に笑顔になる一華。「おごってくれるの?」


「おごりません。でも、特別に30%オフにしてあげるわ」


「ホント? まあ、それで手を打つか。さて、何にしようかなー?」メニュー表を見る一華。


「気を付けた方がいいよ、一華」と、後ろの彩美が言う。「30%オフって、値段じゃなくて、アイスの量かもしれないよ」


 チッ、と、舌打ちをする梨花。勘の鋭いヤツだ。


「……あくどい店ね。やっぱり、炎上させてやる」一華が睨む。


「分かったわよ。ホントに30%引きの値段にしてあげるから、何でも好きなもの、注文しなさい」


「え? いいの?」


「ええ。社員さんに言えば、身内や知り合いは、その価格で販売できるから」


「やった、ラッキー。ネバってみるもんだね、彩美」


 一華と彩美はそれぞれアイスを注文し、梨花は30%引きの値段で販売してあげた。2人はテーブルの方に向かう。やっとうるさいのがいなくなったか。梨花は、改めてカウンターを整理しようとした。


 すると。


「――いや! 放してください! あたし、ホントにネックレスなんて盗ってません!」


 フロアに女の娘の声が響いた。何事か、と、お客の視線が一斉に声のした方を向く。梨花もそちらを見たが、残念ながらカウンターの中からは見えなかった。


「ねぇ? 何の騒ぎ?」梨花は少し離れたテーブルに座っている一華たちに訊いた。


「さあ? ネックレスを盗ったとかなんとか言ってるから、万引きじゃない?」一華は興味無さそうに答える。


 またか、と、梨花は内心呆れた。ここでアルバイトをし始めてから分かったことだが、このショッピングモールでは、万引きは日常的に発生している。この店が警備員室へ向かう通路に近いこともあり、万引き犯が毎日のように連れて行かれるのだ。中学生高校生が多いが、意外と、主婦やサラリーマンぽい人も少なくは無い。中には、かなり高齢の人もいる。万引きなんてお金のない子供のやることだと思っていた梨花にはちょっと衝撃だった。そういう人には、もしかしたらやむにやまれぬ事情があるのかもしれない。しかし梨花は、どんな事情があろうともかわいそうだとは思わなかった。万引をする人の気持ちなど理解できない。あんなものは、お金が無い底辺の人間がやることだ。そう思っていたのだ。決して素行が良いとは言えない梨花だったが、今まで万引きをしたことは無かった。好きなものを何でも買ってもらえた小学生時代や親のクレジットカードを自由に使えた中学生時代は万引きなんてする必要は無かったし、親が離婚してお金が無くなっても、プライドだけは消えなかった。お金が無ければ、こうして働けばいいのだ。


 だから、万引き犯と聞いても、梨花は特に何も思わず、仕事を続けていた。このショッピングモールでは日常的だし、万引き犯に同情する余地は無いのだから。


 しかし。


「――え?」フロアのテーブルに座っていた彩美が、急に席を立った。万引き騒ぎの方を、じっと見つめている。「一華、あれ、岡崎さんじゃない?」


「何言ってるの。岡崎さんが万引きなんてするわけ――」一華も騒ぎの方を見て、あんぐりと口を開けた。「ちょっと、マジじゃん!」


 梨花も顔を上げる。岡崎さんが万引き!? そんなバカな!


 一華と彩美は驚きのあまりアイスを落としてしまったが、そんなことはお構いなしに、リオの方へ走って行った。梨花も気が気ではなった。とても仕事が手に付きそうにない。社員の人に言って早めの休憩を貰い、素早く制服を脱いでフロアに出た。


「――だから、岡崎さんが万引きなんてするはずないです。何かの間違いですってば」


「ふん。君も四木高の生徒なんだろ? そんなこと、信じられないね」


 騒ぎの現場に駆けつけると、一華と、30歳くらいの男性店員が言い合いになっていた。男性店員は万引き犯が逃げないよう、しっかりとウデを掴んでいる。間違いなく、岡崎リオだった。


「――どうなってるの?」そばにいた彩美に訊いた。


 彩美は、フードコートの向こうにある、ファッションショップが並ぶフロアを指さした。「あそこのファンシーショップの店頭にあった、エリーカウントのネックレスが無くなったんだって」


 エリーカウントは、今、女子中高生に大人気のブランドだ。そのネックレスなら、良い物なら数万円はするだろう。無くなったのなら、店は大損害だ。


「でも、なんでそれが、岡崎さんが万引きしたことになったの?」さらに訊く梨花。


「あたしも詳しくは分からないけど、たまたま、その店に岡崎さんがいて、四木高の生徒だからってのが、理由みたい」


「何それ? ヒドくない?」


「ええ。ヒドイ話だよ」


 正直に言うと、このショッピングモールで捕まる万引き犯の中には、四木高の生徒も少なくはなかった。しかし、岡崎リオに関してはあり得ない。リオがエリーカウントの服やアクセサリーを身に付けている所など見たことないし、興味があるとも聞いたことが無い。万引き犯の中には、別に商品が欲しくて盗ったのではないという人もいるらしいが、リオがそんなタイプとは到底思えない。リオは、自転車の2人乗りすら注意するほどの正義感の持ち主なのである。


 一華はずっと男性店員と言い合っている。一華がどんなにリオを弁護しても、店員は聞く耳を持たなかった。まあ、それも当然だろう。さっきから一華は、「岡崎さんはアクマイト光線も効かないほど純粋な心の持ち主なんです!」と、いつもの意味不明な理論になっている。あれでは話を聞いてくれるはずもない。梨花はそばに行き、一華に下がるように言った。


「……何だね、君は?」不審そうな目を向ける男性店員。


「そこのフードコートで働いている者です」


 梨花は従業員証を見せた。ショッピングモールで働いている人は、社員アルバイトを問わず、みんな持っている物である。


 梨花を不審そうな目で見ていた男性店員の表情が、少し弱まった。「何でも無い。騒ぎでそちらの店に迷惑をかけたのなら、後で謝罪に行くよ」


「それは大丈夫です。ただ、その娘はあたしの知り合いです。万引きをしたとの話ですが、とても信じられません。ちゃんとした根拠があるんでしょうか?」


「知り合いということは、君も四木高なのかね?」


「ええ、そうです」キッパリと、そう言った。


 再び不審そうな目になる男性店員。「悪いが、口ではなんとでも言える。そんなんで、『それは申し訳ありませんでした』なんて、解放できるわけないだろう?」


「それは分かります。ですから、その娘を疑う根拠は何かと訊いているのです」


「フン。店頭にあった商品が無くなって、そこに四木高の生徒がいれば、誰だって疑うだろ?」


「そんなことが根拠になるとは思えませんが」


 梨花は堂々とした態度で言った。相手が年上だろうがこのショッピングモールの社員だろうが関係ない。この人が言っていることは、全く理屈が通っていない。


 男性店員は、忌々しそうに表情を歪める。「ガキがごちゃごちゃとうるせぇンだよ! 引っ込んでろ!」


 梨花は、心の中でため息をついた。理屈で太刀打ちできないから大声を出して威嚇か。つまらない男ね。もちろん、そんな威嚇に動じるような性格でもなかった。


 梨花は、ポケットからスマートフォンを取り出した。「会話は録音してますよ?」


 ハッタリだったが、効果はてきめんだった。とたんに、態度を改める男性店員。「……とにかく、うちの店の商品が無くなって、その時近くにこの娘がいたのは間違いない。この娘が盗ったんじゃないと言うのなら、調べられても問題ないはずだろう? それを拒否しているんだから、怪しいと言わざるを得ないな」


「ですから、そもそもその娘が盗ったという根拠が無いのなら、調べられるいわれも無いじゃないですか」


「――やめて、梨花さん」それまで黙っていたリオが、梨花を止めた。「あたし、大丈夫だから」


「大丈夫って、全然大丈夫じゃないでしょう?」


「いいの。本当に、大丈夫だから」リオは、いつもの悪意のない笑顔で梨花を見て、そして、意思の強い視線を店員に向けた。「取り乱してすみませんでした。万引きをしたなんて疑われたの、初めてだったので。店員さんのおっしゃる通りです。あたしは、万引きなんてしていないので、調べてもらっても大丈夫です。防犯カメラもあるでしょうから、チェックしてもらえれば、あたしが犯人じゃないって、分かってもらえると思います」


 リオの堂々とした態度に少しひるむ男性店員。「……フン。素直に商品を返して謝罪すれば、警察を呼ぶのは勘弁してやってもいいんだぞ?」


「盗ってない物は返しようがありませんし、謝罪する必要もありません。さあ、行きましょう」


 リオは、自ら警備員室へ向かう。男性店員は、慌てて後を追いかけた。


「……ああぁぁぁ!! 腹立つわねぇ、あの店員!!」血が出るのではないかと思うほど奥歯をギリギリと噛む一華。「絶対炎上させてやる! 非難殺到で謝罪会見して土下座することになったら、その姿を動画サイトにアップしてやるから!」


「それじゃ、炎上するのは一華の方だろうけどね」彩美が落ち着いた口調で言う。


「彩美、ずいぶんと余裕なのね。悔しくないの? 腹立たないの? 動画サイトで小銭稼ぎたいと思わないの?」


「別に怒ったってしょうがないでしょ。岡崎さんの言う通り、やってないんだから、堂々としてればいいよ」


「だからって、痛くもない腹を探られるのは気分悪いでしょうが。しかも、その理由が四木高の生徒だから、ってだけだよ? ああ! 腹立つわねぇ!! やっぱり、一刻も早く四木高を変える必要があるわ。ボクシング部員を勧誘して全国制覇、なんて、悠長なことを言っていられない。クーデターよ! 武力衝突よ! 今の校長を倒して、あたしが新たな校長になってやる!!」


 憤慨する一華を苦笑いで見つめる彩美。その視線を、梨花に向けた。「でも、意外だったよ。梨花が、岡崎さんのことをあんな風にかばうなんて」


「何よ? 当然でしょ? クラスメイトだし、あの娘には借りがあるしね」


「でも、入学したころは、他人(ひと)に四木高だって知られるのを、極端に嫌ってたじゃないか。暑いのにコート着こんで登下校してたし。なのに、『四木高なのか?』って訊かれて、ためらうことなく『そうです』と答えてた。梨花、変ったね。勤労は、人を丸くするのかな? できれば、そういう優しさを、小学校の頃から持っててほしかったけどね」


「うるさいわね。そんなこと、今はどうでもいいでしょうが」梨花は髪をかき上げ、顔を背けた。


 梨花と彩美は小学校時代の同級生だ。4年生になるまでは仲が良かったが、転校してきた牧野里琴の喋り方の件でケンカをしてしまい、それが原因で、彩美はクラスメイトからいじめられるようになってしまった。梨花がそうしろと言ったわけではないが、見て見ぬふりをしていたのも事実だ。今の梨花なら、いじめなんてくだらないことはしなかっただろう。


 3人は、その場で待つしかなかった。同じショッピングモールの従業員とは言え、万引き被害に遭ったファンシーショップとは何の関係もない梨花に、警備員室に入ることはできない。30分ほど過ぎ、ようやく、リオと男性店員が出てきた。梨花たちはすぐに駆け寄る。


 リオは、寂しそうな笑顔を浮かべた。「みんな、心配かけてごめんね。もう、大丈夫だから」


 リオの話によると、警備員立会いの元、身体検査をされたが、当然のことながらエリーカウントのネックレスなど出てこず、警察を呼ばれることはなかったらしい。


「身体検査って、まさか、服脱がされたの!?」一華が声を上げる。


「大丈夫だよ。女性の警備員さんだから」


「だからって、そんなヒドイ話、無いじゃない」


「いいの。それで、疑いは晴れたんだから。」


 梨花は、男性店員を睨みつけた。「だから言ったでしょう? この娘は、万引きなんてしないって」


「フン。どうせ、お前たちが連携して、うまく商品を隠したんだろ」店員は、悪びれた様子もない。


「なんですって? だったら、あたしたちも調べてください」


「そんなことしてもムダだろう。商品は、とっくに隠してるだろうから」


「だったら防犯カメラはどうなんですか? 岡崎さんが商品を盗る姿、映ってたんですか?」


「残念ながら、あのネックレスが置いてあった場所は、カメラの死角になってて、映ってなかったよ。まあ、それが分かってたから、万引きしたんだろうけどな」


「よくもそんなことを……これはれっきとした名誉棄損です。謝罪してください」


「ケッ、ガキが、何を偉そうに」店員は、吐き捨てるように言った。


「ガキかどうかなんて関係ないでしょう!」


 つかみ掛かりそうな勢いになってしまった梨花を、リオが止めた。「やめて、梨花さん。本当に、もう大丈夫だから」


 男性店員は、梨花たちを睨みつけた。「お前ら四木高の連中には、いつも迷惑してるんだ。万引きもそうだが、最近、このショッピングモールの駐車場でたむろしている暴走族の中にも、お前らの仲間がいるだろ?」


「あ……あたしたちは、あの人たちとは関係ありません!」梨花が言ったが、無駄だった。


「フン、どうだか。とにかく、証拠が無いから今日の所は見逃してやるが、もう、お前ら四木高の連中は出入り禁止だ。2度と来るな」


 そう言うと、店員は自分の店に戻って行った。


「ぬがあああぁぁぁぁ!! 何あの態度!! キレた。もうキレたわ。ネットの炎上なんて生ぬるい。ホントに火をつけてやる」物騒なことを言い出す一華。


「よせよ。こっちが捕まるぞ」彩美も口調は落ち着いているが、内心激怒しているのは表情を見て分かった。「どうする、岡崎さん。万引きの疑いをかけておいて謝罪のひとつもないなんて、到底納得できないよ。逆に、こっちが警察呼んだ方がいいんじゃない?」


「警察呼んだって何もしてくれないわよ」梨花は言った。「ショッピングモールにクレーム入れる方がいいと思うわ。あのバカ店員、権力に弱そうだし」


「大丈夫。本当に、大丈夫だから」リオは、寂しい笑顔を浮かべたまま言った。


 そんなリオの姿を見ていると、梨花たちは、何も言えなくなってしまった。気まずい沈黙が流れた。


「……でも、この店の駐車場、暴走族がたむろしてるの?」沈黙を破るように、一華が梨花に訊いた。


「そうね。夕方ぐらいからチラホラ集まって、夜には大集会よ。お店の方にも、近隣の住民からかなりクレームが入ってるみたい」


「それって、忍先輩だよね? 3年の、ヤバイ先輩の」


「ええ。何度か姿を見かけたわ」


 一華は、大袈裟にため息をついた。「……あの人たちを放っておくと、どんどん四木高のイメージが悪くなるわね。やっぱり、早いうちに殲滅しておくべきね」


「そういうこと、言わないの」リオが言った。「みんな、今日は、本当にありがとう。かばってくれて、うれしかったよ」


「当然でしょ? あたしたちは、志を同じにした仲間なんだから」一華は胸の前で拳を握った。


「いや、あたしを一緒にしないでくれる」梨花は、迷惑そうな口調でう。


「何言ってるの。あなたはもう、うちの立派な広報部長よ。バカ店員の横暴な態度に一歩も引かず、減らず口で相手を打ち負かした姿、立派だったわ」


「減らず口とは失礼ね。バカ店員が、ぐうの音も出なくなるほどの正論だったでしょうが」


「どちらでもいいわよ。そうだ! 梨花さん、あなたのその減らず口を活かして、弁論大会に出ましょう! 日本一になって、我が四木高の汚名挽回よ!!」


「汚名を挽回しちゃダメでしょ」リオがツッコミを入れる。「汚名返上、もしくは、名誉挽回、だよ」


 彩美が笑った。「まあ、梨花の減らず口で日本一になったら、それは汚名挽回で間違いないかもね」


「減らず口じゃないってば!」


 梨花は、頬を膨らませ、プイッと横を向いた。こんな可愛らしく拗ねるポーズをするのは生まれて初めてだった。なぜかその時、自然に出てしまったのだ。


 その姿がおかしかったのだろう。彩美がプッと拭き出し、一華が笑った。つられて、梨花も笑う。リオも笑っていた。




 しかし、リオのその笑顔は、やはりどこか寂しげだった。




 ☆







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