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第5話・生徒会長 #03

「――あの時一華と彩美が通りかからなかったら、あたしら、どうなっていたことか。ホント、岡崎さんって、ムチャなことする娘だったよね」茉優は、やれやれという感じで首を振った。


 茉優の話を聞きながら、玲奈は、その時の様子を自分なりに思い描いてみた。不良たちを怖がる気持ちより、クラスメイトを助けなきゃという気持ちが上回り、後先考えず行動してしまった結果、逆に茉優たちを危険な目に遭わせてしまう――そんなリオの姿は容易に想像でき、思わず笑みを浮かべてしまう。


「そう言えば、一華先輩たちって、元気でやってますかね?」美青が言った。今、玲奈たちのクラスには、一華と彩美という娘はいない。


「さあ、どうだろうね?」茉優は首をかしげた。「無事だといいんだけど」


「えっと、その一華さんと彩美さんって人は、どうしたの?」玲奈は訊いてみた。


「うーん。2人とも、アウトブレイク後、しばらくは学校にいて、救助を待ってたんだけどね。1ヶ月くらい経っても、誰も助けに来なくて。で、その頃、このまま学校に留まって救助を待つか、救助を待たず学校を出て行くかで、結構もめたんだよね。いろいろ話し合いとかしたけど意見はまとまらず、結局、それぞれ正しいと思う行動をすることになったんだ。それで、学校に残るクラスと、学校を出て行くクラスに別れた。一華と彩美は、学校を出て行くクラスを選んだんだよ」


 そんなことがあったのか。玲奈は腕組みして考える。学校に留まるか、出て行くか。難しい問題だ。どちらが正しいかなんて、分かるはずもない。今の所この学校は比較的安全が保たれているが、それでも週1回くらいのペースで大量のゾンビと戦うことになるし、リオや、2年の寺田美寿々など、ゾンビになってしまった娘もいる。さっき学活で話し合ったように、食糧問題も深刻だ。救助が来る望みも、まだない。この学校に残ったことが、必ずしも正しい選択だったとは言えないだろう。もちろん、出て行くことが正しかったとも言えない。その一華という人たちが無事救助されていればいいが、その可能性は低いだろう。救助されたなら、まだこの学校に人が残っていることが伝わり、学校にも救助が来るはずだ。恐らく一華さんたちはまだ救助されていない。しかし、救助されていなくても、どこか新たな避難場所を見つけられていたら、まだいいだろう。最悪の場合、ゾンビに襲われて全滅したということも考えられる。


 もし仮に、この先このクラスで、同じように学校に留まるか学校を出るかの議論になった場合、どうすればいいだろう? 玲奈は考えた。答えは、分かるはずもなかった。


「……どうしたの、玲奈? 急に、真剣な顔で考え込んじゃって」茉優が、玲奈の顔を覗き込んでいた。


「あ、ううん。なんでもない」両手を振る玲奈。「それより、その、彩美さんと、一華さん、だっけ? どんな娘だったの?」


「彩美は、なんとかっていう古武術の使い手でね。百段ってのは一華のウソだけど、スゴイ達人だったのは確かだよ。なんか、小学生の頃はクラスのみんなからイジメられてたけど、中学に入って古武術を習ってから、イジメられなくなったって、言ってた」


 小学生でイジメか。ヒドイことをする子がいるな、と玲奈が思った瞬間、教室の向こう側にいた青山梨花がくしゃみをした。


 茉優が話を続ける。「一華は、一言で言うと、とにかく変なヤツだったね。『この学校を変える! イノベーションを巻き起こす!!』とかなんとか、口癖のように言ってたよ」


「ふーん。それはまた、壮大な野望だね」


「うん。でも、意外と口だけってわけじゃなかったんだ。岡崎さんと一緒に、いろいろやってたみたいだよ」


「へぇ? 例えば、どんな?」


「えーっと、その辺は、架純の方が詳しいかな」茉優は、架純の方を見た。「話してあげたら?」


「うーん、そうだねぇ」架純は、記憶を探るように天井を見上げた。「あれは、不良たちともめた次の日のことなんだけど――」


 と、架純が話し始めた時。


 急に、辺りが真っ暗になった。みんなの短い悲鳴が上がる。どうやら、電気が消えたらしい。


 玲奈はスマホを取り出し、フラッシュライトアプリを起動した。カメラのフラッシュ機能を懐中電灯代わりに使うことができるアプリで、アウトブレイク前に、防災のためにインストールしておいたものだ。ライトがぼんやりと周囲を照らす。クラスの他の娘の数名も、同じようにライト機能を使っている。


「停電、かな?」


 玲奈がスマホで天井の電気を照らした。この街の電気の供給はすでに止まっており、学校の電気は、地下の自家発電装置で賄われている。その燃料が切れたのかもしれない。自家発電装置を管理している2年の北原愛の方を見た。


「お昼に補充したので、燃料切れじゃないと思います。随分長い間酷使してますから、故障したのかもしれませんねぇ。あたし、ちょっと見て来ます」


 そう言うと、愛は、教室に備え付けてある大型の懐中電灯を取り、発電機のある地下室へ向かった。玲奈も、茉優と架純と美青の4人で後を追った。


 地下室は玲奈たちのクラスがある南校舎にある。コンクリートに囲まれた、教室の半分ほどの広さの部屋に、コンテナのような、大きな箱型の自家発電装置があった。動作している気配はなく、部屋は静かなものである。


「目標、完全に沈黙、ですね」美青が言った。


「まいったなぁ。愛、直せるの?」茉優が訊く。


「まあ、ガンバってみまぁす」愛はロッカーから工具箱を取りだし、発電機をいじり始めた。


 何か手伝えることがあるかも、と思い、愛についてきた玲奈たちだったが、当然、発電機メンテナンスの知識などあるはずもなく、修理は愛に任せることになった。だからと言って、愛を1人にしておくのも悪いので、作業を邪魔しないよう、入口付近で待つことにした。


「――それで、さっきの話の続きなんだけど」架純が言った。


「えーっと、不良さんに絡まれていた茉優先輩たちを、一華先輩と彩美先輩が助けて、そして、ともに学校を変えよう! って話になった続きですね」丁寧に解説する美青。


「そうね。あれは、不良たちともめた次の日のことなんだけど――」


 架純は、ゆっくりとした口調で話し始めた。






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