第1話・転校生 #05
気が付くと、何も無い、白一色の世界に立っていた。
ここはどこだろう? 何故あたしは、こんな所にいるのか? そういった疑問は、不思議と湧いてこない。ここには、以前来たことがある。ここに来ると、なんだか落ち着くような気がした。
玲奈は、以前ここに来た時と同じように、アテもなくとぼとぼと歩いた。
しばらく歩くと、目の前に人影が現れた。見覚えのあるポニーテールと、黒縁のメガネ。岡崎リオだ。
――あれ? でも。
現れたリオは、背がかなり低かった。たぶん、130cmほどしかないだろう。小学校高学年くらいだ。そういえば、着ている服も、胸に大きくハートのマークがプリントされたTシャツに赤と黒のチェックのプリーツスカートと、かなり子供っぽい。
……って、あれ?
何気なく自分の姿を見ると、玲奈の身長も、リオと同じくらいになっていた。着ている服も、小学校の時にお気に入りだった、胸に大きなリボンをあしらったピンクのワンピースだ。
そうか……ここは、小学校だ。
思い出した瞬間、白い世界は消え。
懐かしい、玲奈と、岡崎リオが通っていた小学校の、第3校舎が現れた――。
☆
「――リオちゃん!」
第3校舎の4階、新しい教室の前で、岡崎リオの姿を見つけ、玲奈は大声で呼び、手を振った。
「玲奈ちゃん」リオは玲奈を見て、優しくにっこりと微笑んだ。
玲奈は、全力で駆けて行って、リオの手を取った。「今年も同じクラスだよ! よろしくね、リオちゃん!」
「うん、こちらこそ、よろしく」リオは笑顔で言った。
春。小学5年生になった玲奈とリオ。リオとは5年3組で、今年も一緒のクラスだ。これで、幼稚園からずっと同じクラス。これって、スゴイよね? と、玲奈は思った。ああ、やっぱり、あたしとリオちゃんって、運命の赤い糸で結ばれてるんだなぁ。
「玲奈ちゃん? どうしたの?」リオは不思議そうな顔で玲奈を見る。
「ううん、なんでもない」笑顔で応える玲奈。「あたしたち、これからもずっと、同じクラスだね、きっと」
「うーん。ずっとかどうかは分からないけど、でも、そうなるといいね」
うん。きっと、そうなる。あたしとリオちゃんは、ずっと一緒。玲奈は、そう信じていた。
玲奈とリオは、手を繋いで5年3組の教室に入った。
「ところでリオちゃん」席に着き、玲奈はリオに言う。「リオちゃんって、高校はどこに行くの?」
「え? 高校?」リオは驚いて目を丸くする。「そんなの、まだ分かんないよ。だってあたしたち、小学5年だよ? まだ中学校にも行ってないのに。玲奈ちゃんは、もう決めてるの?」
「うん! あたし、小さいころからずっと、お母さんに、聖園高校に行きなさい、って言われてるの。だから、聖園高校を受ける予定」
「え? 聖園高って、すっごく難しい高校なんだよ? 玲奈ちゃん、スゴイね」
「えー? そんなことないよ」と、言いながらも、玲奈はまんざらでもない気分だった。
「そっか、玲奈ちゃん、聖園高校受けるんだ。じゃあ、いっぱい勉強しなくちゃね」
「うん。がんばる。リオちゃんも、一緒に頑張って、聖園高に行こうよ!」
「え!? あたしが聖園高!?」リオはまたまた目を丸くして驚く。「あたしじゃ、ムリだよ。絶対、落ちちゃう」
「そんなことないって! リオちゃん、4年生の時のテスト、100点いっぱいとってたじゃん!」
「あれは、全部マグレだよ。成績は玲奈ちゃんの方が良いし」
「大丈夫! リオちゃんなら、今からいっぱい勉強すれば、絶対聖園高に受かるから! あたし、リオちゃんと一緒の高校じゃなきゃ、絶対絶対、イヤだから!」
リオは、少し、困ったような顔になる。
しかし、すぐにいつもの笑顔になり。「――分かった。あたしも、聖園高、受けてみる。玲奈ちゃんと一緒の高校に行く」
「やったぁ! リオちゃん、約束だよ!!」
玲奈は小指を出し、リオの小指と絡ませた。
――ん。
――いちゃん。
「玲奈ちゃん」
☆
リオの、呼ぶ声で。
玲奈は、我に返った――。