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全ては森の中

場所

 ノルン王国デルビオス侯爵領、侯爵の別邸

  城壁に囲まれた安全な森の中に埋もれるように、侯爵の瀟洒な別邸があり公爵夫人のレイリア様が侍女たちと住んでいる。

挨拶に行くということで叔父さんに教えてもらったことによると、俺の親父と侯爵とは仲が良く、公爵夫人も死んだ俺の母や王妃ともが近くて女同士で仲が良かったらしい。

今侯爵は領地の本屋敷にいる愛妾との間に子供があり普段はそちらで生活している。

本妻であるレイリア様との間に子供は無く、余計な波風を立てないようにレイリア様はこの別邸に住んでいるとのことだ。

いろいろ聞き集めたことを推測すると、王妃が未熟児で生まれてすぐ死に掛けたリリエルを助けるために禁呪を使い、その禁呪の発動が不完全だったために王妃は命を落としたらしい。

リリエルと融合されたラシュエルっていったい誰なんだ。

ラシュエルはそれを知りたいために俺たちについてきた。


 侯爵領に有って気候が温暖な別邸が有るこのあたりは侯爵家の静養地であるとともに、祖先を祭る墓所も近くにある。

その別邸の入り口まで来ると意外な人物が馬を休めていた。

別の門から入って、今ここに着いたばかりらしい。


「親父、なんでここに」


 俺の親父と侯爵が、一人の従者にくつわを取らせて馬を止めていた。

その後ろに警護の兵が六騎ついている。


「クリス、なんでとは、なんだ。侯爵様に挨拶も無く無礼であろう。お前たちも姫のお供で亡くなられた王妃様の命日に来たのではないのか」


 俺とマリシアの挨拶を簡単に受けた侯爵はすぐリリエル姫に向き直った。

侯爵はちゃんとよく似た俺とリリエルの違いを認識できるらしい。


「姫様ご無沙汰しております、毎年招待状を送っているのですが、やっとおいでいただきました」

「伯父上お久しぶりです、ところで招待状とは、見たことが無いのですが」

「毎年ロイドに届けさせいるはずですが…どうなっておるのだ、ロイド」


 くつわを取って従っていたのがその手紙を出したロイドという従者らしい。


「先月たしかに姫へ手紙を届けよと…」


 侯爵が話し終わらないうちに、ロイドは口を開きかけ…。

その動きを見ていた俺は馬から飛び降りざまに、槍の石突きをロイドの口にねじ込み引き倒した。


「クリス!なにをするか!!」


大喝した親父に俺は言い返す。


「こいつ歯に何か仕込んでる。」


 侯爵の護衛は俺に槍を向けたが、侯爵は馬上からリリエルを突き飛ばして覆いかぶさり、親父も馬から飛び降りて、俺が槍で押さえ込んでいるロイドの口に手を突っ込んで奥歯の位置にあったものを取り出した。

非常の時用に奥歯に仕込んだそれを使う練習を俺も積んだのだ。

筋肉の動かし方で奥歯をかみ締めようととしたことがすぐに分かった。

おそらく自爆、侯爵もそう思ってリリエルをかばった。

大方徒歩では騎馬から逃げられないと覚悟したのだろうが、たかが手紙の出し忘れでそこまでせねばならない何があるというのだ。


「有った!自爆用の魔道具だ。クリス、よくわかったな。」

「信じられん、ロイドがまさか…」


俺がロイドの関節をあごを含めて全て外して動けなくしてから、闇魔法の大家である侯爵は自ら尋問を開始した。


「こやつ、ロイドではない!」

「なんと」

「こやつ名はミルファ」


 侯爵はためらいも無く懐から取り出した銀に輝く針をロイドの額に突き刺した。

精神を司る闇魔術による更に深い尋問が始まる。

彼は帝国を挟んで向こう側、ルターファの山地に住む少数民族ケルンの民。

神のお告げのままロイドの体を禁呪で乗っ取り、与えられた命令を実行していた。

現在受けている命令はリリエル姫をできるだけ長い間、この別邸に近づけないこと。

そのために姫への招待状を握りつぶしていた。

それが発覚した場合、…死ね…。

逃げ切れぬとわかって、自爆しようとしたらしい。


「叔父上、この男の目的はなんでしょうか?」

「すまぬが、これから起こる事は見無かった事にしてくれぬか」


 侯爵はリリエルが問いただしても、そこから後は黙り込んで何も教えてくれなくなった。

姫が来てしまった以上何かが起こる。


 ロイドはその場で首を落とされ、侯爵は血が滴り落ちる首をぶら下げて別邸の中へと入った。

古い石造りの立派な門を入いってすぐの広場で待っていた侯爵の夫人レイリア様たちがそれを見て青ざめる。


「おかえりなさいませあなた、それはいったい何事でしょうか?」

「ロイドいやミルファの心は読ませてもらった。ダルカン、レイリアをどうした?」

「つれないですわね、あなた。長年閨を共にしたと言うのに…なんてな。だが言っておくぞ、俺は始めからレイリアだ。ただ輿入れの前日にダルカンという男に合体させられて心と体を奪われたかわいそうなお姫さまさ。」

「リリエル姫に禁呪を使ったのもお前か」

「当たり前だ、監視の目が無かったので王妃に部下を合体させようとしたのだがな、さすがに妊婦に禁呪は厳しかったわ。親子ともどもしなせてしまうと俺たちに注目が集まるとやばいんでな、巫女様のしじどおり、死んだ王妃から産まれた未熟な子は双子ではなくて、ちょうど俺の腹の中にいた子を取り出して合体させてやったのさ。痛かったぞ、自分の腹を切り裂くのは。どうせ降ろすつもりで誰にも言っていなかったんで助かったよ。それで禁呪を使って死に掛けたわが子を助けた王妃様の物語の出来上がりさ」


 レイリアの侍女たちの服がミシッと音を立てて裂け、俺たちは武器を構えた男たちに取り囲まれていた。


「ラシュエルよ、かわいい我が息子。生まれながらにして完全体であるお前には魔王になる資格がある。こちらに来い」


 俺たちはリリエルの母を侯爵が世間から隠してしていると思っていた。

我が子の為とはいえ禁呪などを使用すると、姿も心も人から離れた化け物になってしまう事が多分にあるからだ。

魔族に堕ちてしまった彼女が生きているのではないのか。

その母に会ったリリエルも魔族に堕ちるのではないか。

魔族や禁呪についてどこまでのことを侯爵が知っているのか判らないが、世間体のためだけにでもリリエルを暗殺して全てをなかったことにしようとしているのではないか。

リリエルの母を捜すために、彼女が産まれた場所であり後に魔王の城が建つことになるこの地を目指して俺たちは来た。

事実は予想とかなり違う形で禁呪を使ったのは人から離れたダルカンだったが。


 動かないリリエルの手にマリシアが黙って自分の手を添える。

そしてリリエルは毅然として言い放った。


「それが事実ならばお前は二人の母の敵です」


 その言葉が終わりきらないうちに侍女だった男たちは飛びかかってきたが、マリシアの光の壁に阻まれて空中で動きを封じられ、護衛の兵士たちに槍で貫かれた。

同じく光の壁に包まれたレイリアは渇いた笑みを浮かべると、爆発した。


「レイリアたちはこの賊どもに襲われ死んだ。良いな」


 侯爵はそう言った後男たちの首を街道に晒すように命じ、護衛たちに他の指示も出した後、俺たちに向き直った。


「この件については何も見なかったことにしていただきたい。とりあえず、人も呼びましたので屋敷にお入りください」


 親父は俺のほうを見て何か言いかけたがそのまま侯爵に続いて屋敷に入った。

夜、リリエルは侯爵と親父に自分が王女であることを辞めようとしていることを伝え、それを認めさせようとして三人で部屋に閉じこもっている。

そして俺とマリシアは、若い男を尋問していた。

日が落ちて真っ暗になった地面から、こいつが這い出てきたのを拘束して連れてきたのだ。


「侯爵様やリリエルみたいに闇魔術が使えるといいんだけどね。その代わりの支配の魔術だけど、一度支配してしまうとこいつを殺しにくくなるんだよな」

「薬を使うほうがいいんじゃないかしら。廃人にはなるんだろうけど」


 そんな物騒なことを言いながら俺は男の背に短剣で魔方陣を刻み込んでいた。

魔人を従えるために開発された極悪非道の魔術が完成する。


「マリシア、終わったからこいつを治療してやってくれ。それからこいつの体を詳しく調べてくれないか」


 その男、ダルカンは自爆したと見せかけて地中に潜んだが、マリシアの張った結界による拘束からは逃れられなかったのだ。

ダルカンもレイリアも合体したときから老化は止まっている。

本来そういうことに使う術だったらしい。

女は化けるというが、若いままのレイリアを化粧だけで今までごまかしてきたのはたいしたものだ。

ダルカンも結局はハドゥールというマリシアも知らない神のお告げで動いていたことしか分からない。

すべてはハドゥール神の命ずるままとのことだった。


「ダルカン、ハドゥール神ってなんの神だ?」

「え?ハドゥール神は…」


 なぜか答えられないダルカンを去らせた後、マリシアが心配そうに聞いてきた。


「いいの?あんなのを従者にして」

「全て無かったことに、そう侯爵様がおっしゃったんだ。それにラシュエルは俺の双子の妹、ダルカンを従者にしてもその立場なら文句はつけられないさ。かわいそうだけど我慢してもらう。未来の俺を石化した魔将軍の力はどうしても必要なんだ」

「あのダルカンがそうだったの、もしかしてヤツも?」

「あれも何か分からないけど、縁というものを感じる。それよりも俺の男性化がなぜできないかわかったよ」

「できるの?」

「たぶん。ダルカンの術で分かった。俺は未来から来た俺に戻ろうとしていたから無理があったんだ。だからこのまま…」


 その夜、俺たちは本当の意味で夫婦になった。

ただマリシアがことが終わった後も調子に乗って…。

思い出したくない。

くそっ腹がまだ痛い。


 とにかくラシュエルに誰を仲間にしてももんくは言わないと約束させてから仲間に入れた。

リリエル姫あらためラシュエルは俺の妹になる。

親父たちもそれで納得した。

血の濃さで言えば、影武者のほうが王家の血が濃い。

それも理由になった。

ラシュエルははにかむマリシアを見て何があったかを察しても黙っていた。

そして先祖を祭り親父や侯爵と別れた後、地面から湧いて出たダルカンを見ても何か言いたそうにしたが黙っていた。


 王都につくとすぐにリリエル姫は回復して、俺たちは帝国へと出発した。


 

 


 

 


 


 


俺 クリス

 ロンバルト男爵家長女で嫡男


マリシア

 俺の嫁


リリエル姫

 ノルン王国第二王女


ラシュエル

 俺の双子の妹

 元リリエル姫の別人格


親父

 俺の親父


デルビオス侯爵

 リリエル姫の伯父


レイリア様

 デルビオス公爵夫人


ロイド

 デルビオス侯爵家執事

 ミルファと言う者に取り憑かれている。


ダルカン

 レイリアに融合し支配していた男


巫女 

 ハドゥール神の神託としてダルカンたちに一連のことを命令して実行させていた。

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