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決着をつけねばならない

 なんだろう?

 体全体が暖かい何かに包まれて心地よい。

 遠い昔にこれと同じ……


 !


 どうなったんだ!

 意識が急速に覚醒する。


 目を開けると視界は柔らかな手のひらでふさがれていた。

 気配は2つ。

 当てられていた手をはじきとばし、飛び起きて枕元にあった俺の剣を引っつかみ壁際まで下がり剣を構える。

 俺の治療をしてくれていたらしい女に見覚えは無いがもう1人はクリス・ティアカウント・ロンバルト。

 俺はこの女に言わねばならないことが有る。


「お前、自分の娘より体面のほうが大切なのか……」


 答えによっては、かなわないまでも即座に一太刀あびせるつもりだった。


「大切な娘に、殺さなければ解けない術を掛けた者がいましてね……」


 なんだと!


「あの子は会った事も無い許婚一筋だったのですが、誰かによこしまな精神支配の術を掛けられてましてね……済んでしまった事ですが……」

「なんだと! 誰が? いったい……」


 !


 俺はレイシアをミルカと引き合わしている。

 なぜ忘れていたんだろう。

 なぜ?


 くそっ、俺もやられたか。


「その様子では知らなかったみたいですね。試合は残る2人が棄権してあなたも反則負けになったために終了しました。ですから勝者の権限として試合そのものを無かったことにしました。いいですね」


 なんて答えればいいのだろう。

 よくよく考えてみれば、俺には何一つ口出しできる権利はない。

 彼女はロンバルト家の中だけで、全てが無かったことにすると言っているのだ。


「あなたを見ているだけで不愉快です。お金なり、品物なり出来ることはさせていただきますから、帝都から出て行ってください」


 何もいらない。

 何もいらない。

 俺はレイシアが欲しかった。

 だから何もいらない。


「夜の宝珠、魔族との大戦で勝利した一族にはその属性の名を冠する宝珠が有るはずだ。夜の一族の力の源、夜の宝珠が欲しい」


 間が、空いた。


「いいでしょう。危険な物です。あなたに使いこなせるとは思えませんがもって行きなさい」


 放り投げられた黒く小さな石のついた指輪を握り締めて俺は部屋を出た。

 泣けてきやがる。

 ”死なねば”、”解けない”のか……くそー!



「マリシア、どうだった?」

「やはりあれは精神性よというより、任務を完了せねば解けない契約魔法の一種でした。夜の宝珠を手渡さない限り解けないでしょう」

「そうですか。では予定通りに全員を配備に付けてください」


「お父様っ! ひどいですっ!!」


 一礼して部屋を出るマリシアと入れ違いに入ってきたのはレイリア、レイシアの母娘とジェシカ、ティナの4人。

 真っ二つになったのが戻ったばかりでもレイシアは元気、そしてジェシカは自分になついているレイシアに甘い。

 ちなみにジェシカが産んだ娘、ジュリエットは普段は他の娘たちとローグで暮らしていて帝都にはあまり出てこない。


「私、術なんか掛かっていません!私はず~とルーク様だけ……」

「はいはい、そうですね~」


 レイシアは大地に体が付いてさえいればダルカン同様切り刻まれても死ぬことは無い。

 他人は驚いてもロンバルト家ではあの試合よりも過酷な訓練をいつもしているのだ。

 さすがに縦に真っ二つはめったに無いことだけれど。

 レイシアは本当に死なねば解除できない術を掛けられていたのだけど、その大部分はしっかりとレジストしていたのだ。

 部分的にかかってしまったのは、ルーカスがルークだとジェシカが教えてしまったためにあえてそうしたのだった。

 もちろん本心からルークのことが知りたかったから。

 だからルークに自分より夜の宝珠を優先させた術者に本気で怒っていた。










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