表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
73/79

何かおかしい

 首の後ろから何かが抜け落ちた時、心の中にあった俺も存在を知らなかった隔壁が開き力が流れ込んできた。

 その力で、上層と下層に分かれていた俺の魂は隙間を広げられて一つになろうとする。

 だがその魂の膨張に上層部に加えられた闇の洗脳術による枷が抵抗する。

 そしていったん抑えられた力が一気に枷を破って爆発し俺の魂の大部分は意識ごと体の外に押し出された。

 意識は膨張し、帝都いっぱいに広がる。

 欲しい。

 欲しいっ。

 ほしいっ!

 そして見つけた。

 初めて学園生きた時に道を尋ねた人。

 意識してやろうとするとなかなか難しいことだが、俺はあの時無意識に、彼女の出している魔力の波動を分析し、記憶していた。

 だから見つけられる

 広域に広がったために薄まり、理性を無くした魂だけの俺が本能から湧き上がる欲望に促されて彼女のいる部屋に凝集する。

 違った。

 何と?

 違うと感じた時には魂の密度は通常状態に近くなっており理性が戻っていた。


 はて、俺はなぜ彼女のところに来て、何が、何と違うと思ったのだろう。

 ……。

 そうか、彼女は、夢に出てきた母さんに似ていたんだ。

 俺って母さんが欲しかったのか。

 俺ってまだガキだったんだな。

 よく考えれば母さんの復讐をすることばかり考えていた。

 初めて会ったとき、俺は彼女にかあさんを感じたんだ。

 しかし目ではなく、魂で直接触ってみて分かった。

 この人は見た目は良く似ているが俺や母さんとは全く違う別のもの……そう、恐ろしく強大な何か……。


 俺が部屋に入って行ったとき、簡素な事務机で書類にサインをしていた。

 彼女の魂に直接触れてしまったことによって、その力に酔ってぼんやりしている俺に、彼女は合うはずの無い眼を合わせた。


「珍しいお客様みたいね」


 どう応えたものか、思考が全く定まらない俺は何の反応も出来ずにぼんやりと宙に浮かんでいた。

 ただじっと浮かんでいるだけの幽霊。

 多分俺はそんな存在だった。

 そんな俺に対して、席を立って俺に近寄る彼女はまさに夜を象徴していた。

 限りなく深い黒、なんともいえぬやすらぎ。

 俺は彼女に抱かれて……安らかな深い眠りに落ちた。


「まったくあのバカ親父にも困ったもんだ。ルークとりあえず体に帰れ」


 そんな言葉を聞いたような気がする。


 俺自分の体の中にいた。

 自分の体のはずだが、かなり違和感がある。


「ルーク!」


 俺の横に突っ立っていたミルカは俺が意識を取り戻したことに気付いたらしい。

 だが、戻った体の中に異物があって体の中に戻りきれなかった

 まだ一部の魂を体の外に出していた俺は、俺の頭を膝に乗せ、すすり泣くミルカを知覚した。


「ルーク、ルーク、ルー……」


 こいつ、何泣いているんだろう?

 まさか俺のために泣いているんじゃないだろうな。


 俺の意識は再び闇の中に落ちる。


 目が覚めめたら、また石ころでも見るような目で俺を見下すミルカと目があった。


「早く支度しなさい。何としても試合に勝ってレイシアに近づくのです。目的は夜の宝珠。必ず手に入れなさい」


 こいつはさっきのミルカと同一人物なのだろうか?

 起き上がった俺の体はいつもどおりの俺だった。

 それよりも何か大切なことを忘れているような気がする。

 はて?

 誰かと別の所で会っていたような……。


 首を傾げる俺の額にミルカは針を突き立てた。


「暗示はしっかりかかっているようね」


 心の上層部を引っ掻き回されながら、俺は考える。

 何か忘れている。

 何かおかしい。



 ミルカはルークが出て行った扉を見つめていた。

 なぜ今ルークに針を打ったのだろう。

 信託も無いのに胸のペンダントが怪しい燐光を放っているのにミルカは気がつかなかった。

 同時にルークに打った針を通して何かがミルカに入ってきたのにも……







評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ