美味しいケーキは無敵です
なんだかんだで、俺とレイシアをよけて500人近い挑戦者が現われた。
ティナもレイシアが拝み倒して人数に入っている。
500人もいれば、それぞれの肩書きは分校の栄養学講師などという強さに疑問符がつく者から騎士団の武術師範まで幅広い。
学園の関係者、元関係者ならば誰でも参加が出来るのだ。
多少痛い思いをしても我慢ができるならばだが。
取り敢えずダンス会場を3人で抜け出し、食堂で軽く夜食を食べながら作戦会議をする。
「あっ、シェリー先生も入ってる!」
「どうして?」
「そりゃ、あの先生は戦える場所があれば出てくるわ」
まったく困った人だ。
ただ相手が明らかに格下のレイシアだと勝ちを譲ってくれる可能性が高い。
「この数の多さは、かえってラッキーだったかもしれないわね」
「どうして?」
「人数が多すぎるからまともにトーナメント戦をすると一日で終わらないでしょ。だから予選を組んで厄介な人たちをまとめて最初にふるい落としてしまえるわ。まとめて生き残り戦をしていっきに9人ぐらいに絞るの。相当できる人でもそれで消耗するからすぐに決勝トーナメントを始めてと……レイシアとルーカスは予選にでる必要が無いけど私は予選スタートね。出来るだけ楽に予選を抜けれるようにと……」
「おいティナ、俺とティナがトーナメントで当たった時とか八百長も有りなのか」
「出来るだけ最後のほうで当たるように試合を組むけど勝ち残ればいずれ当たるじゃない。その場合はルーカスがチャッチャと負けてくれればいいじゃない。私のほうが強いんだから」
「俺も有る程度強いつもりですけど」
「ずっと負け続けてるんでしょ」
「ハイソノトオリデゴザイマス」
「とにかくケーキ一個分はがんばってあげるから安心してていいよ」
「ティナはケーキ一つ分なのか」
「ショートケーキ想像してるでしょ、違うわ。丸いのをそのままよ。悪い?」
「イイエワルクアリマセン」
「冗談は置いといて、やっぱりマリス先生が混ざってるわね。いつもレイシアにお嫁においでって言ってたから。しかしローグの人たちが多いわねなぜかしら」
「ローグには遊べるところが無いから、独身男ばかりで帝都にハメをはずしに来てたんだってさ。お嬢様を嫁にする~って大真面目にさわいでたよ。それよりこんなところで作戦会議をしてるとみんなが聞いちゃうぞ」
いつの間にか後ろにいたシェリー先生が笑いながら鳥の丸焼きの乗ったトレーを持って向こうの席に行こうとする。
「シェリー先生は譲ってくださいますよね」
「わるいねぇ、ドバルカに息子の代理で出てくれってケーキ1月分で頼まれたの。殺さない程度にしか手加減できないからよろしく~」
ケーキの買占めをしといたほうがよかったな。
とにかく、えらいことになった。
俺が屋敷に帰ると、ミルカへの報告という名の尋問が始まる。
「そうなの。ローグから人が来てるのね……。シェリークラスが本気で参戦してくる……」
ミルカの顔を知っているジェシカとレイリアがローグからこちらに出てきているとミルカは動けない。
ジェシカはミルカの妹だがレイリアと同じく混沌の神のことは何も知らず今は敵でしかない。
ロンバルト家の長女を嫁に出来るというのは、夜の宝珠を狙う、最善の足がかりになる。
それをルークの力不足でみすみす逃すことなど出来ない。
実はルークの強化は封印を解けばいいだけなので簡単なのだが、問題点も有る。
まず、封印はルークがミルカが制御出来ないほどの精神力を持たせないためにつけてあるので、ルークの精神制御が解除される可能性が有ること。
もう一つは能力の半分を封印することによって、完全な融合体になっていないのだが、長く途中で止めた融合がいきなり進むことによってルークが壊れるかもしれない。
ルークが融合したのは1才に満たないときで、相手の黒竜もまだ13才。
完全に融合すると成長が止るので、途中で止める必要があるし、人と魔王の融合であるのでルークが消滅する危険性があった。
ミルカは決心して、裸にしたルークの後ろに回り首筋から頭の方に差してあった細く長い針を抜いた。
「ぅおおおおおおぉぉぉ」
ルークが吠えた。
皮膚が真っ黒になり硬質化する。
瞳も金色に光り歯が三角にとがる。
「ゥオオオオオオォォォ」
筋肉が盛り上がり体が一回り大きくなる。
「ぅおおおおおおぉぉぉ」
体が小さくなっていく。
うろこが浮き出していた肌は白く柔らかな肌に。
分厚く筋肉の塊だった胸も、柔らかな双球を残しきゃしゃになる
「ぅおおおおおおぉぉぉ」
美しい女になったルークは限りない憎しみをこめた眼でミルカをにらみ、とびかかる。
そしてそこに張ってあった結界にぶち当たって落ちた。
「明日までに、元に戻ればいいけど」
仰向けに気絶したルークは少しずつ筋肉が付きつつあった。




