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妹が出来たようだ

「お姉さまずるい」

「ずるくなんか無いわ課題を一人でしなくてはならないという決まりはありません。それにちゃんと副学園長先生の合格サインも入ってますもの」


 始めて学園に来てから2週間目の帰宅間近だった。

 2人でこなした課題を事務局に提出して、前回の提出物を返却してもらったとき、栗色の髪を長く伸ばした女の子がレイシアの前に立ちふさがった。

 ほとんど年の差は感じないが、姉妹だろう。

 よく似ている。

 ん?

 この子を見てもなんか感じたぞ。

 なんだろう。


「違う、えとそれも有るけど、違う」

「ティナは初めてだったわね、転入生のルーカスよ」

「俺、ルーカス・バル・ボーゲル。半年遅れの転入生です」

「ティナ・ティアカウント・ロンバルト。姉のレイシアがお世話になってます」


 ぺこりとお辞儀してまたレイシアに向き直って口を尖らせる。


「一人だけずる……」

「ごめんなさい、新作ケーキは出来が悪かったのでティナに黙って一人でいただきました。次は果物を使って作りますからティナも味を見てくださいね」

「え? うん。それでチー……」

「チーズケーキはまた今度ということで」


 ティナはニマッと笑った。


「二ついただけるのですね」

「……はい」

「ありがとうございます、お姉さま。楽しみにしています。ルーカス様、姉は料理も上手なんですのよ」


 では、来た時と違って機嫌よく去っていくティナを見送って、レイシアに目を戻す。


「ティナさんは何か言いたかったんじゃないの?」

「エッと、さあ」


 なぜか目を斜め下にそらされた。


「ルーカス、来月のダンスパーティーなんだけどね」

「そんなのあるみたいだね」

「ルーカスにエスコートしてほしいんだけど」

「俺? 踊ったことないし」

「食べて、おしゃべりしているだけでいいから。お願い」


 少しは踊れないことも、ない。


「それでよければ、だけど。行くよ」

「ありがとう、これ私のドレスの共布で作ったチーフなの。当日付けてきてね」

「わかった」


 何とかしなければと悩みながらレイシアと別れて借りている屋敷に帰る。

 俺たちは小さい屋敷を借りて、ミルカとこちらへきて雇ったマルタおばさんと住んでいる。

 マルタおばさんは40過ぎで、美人とは言えないが何となく愛嬌のあるぽっちゃりとしたおばさんだった。




 俺はミルカとマルタおばさんに事情を話してその青いポケットチーフを見せた。


「これは結構格式の高いダンスパーティーでございますね。若様も正装していただかねばなりません。少々気合を入れましょう」

「マルタさん、こんなのに詳しいの?」

「それは侍女歴が長うございますから。すぐに仕立て屋を呼ぶとして、それから若様、ミルカ様。ダンスはお出来になりますでしょうか」

「ふたりともできるとは言えないわねぇ」

「練習の必要があるな」

「ちょうどよろしゅうございます。この際ですからお二人まとめてお教えいたします」

「お願いしたいけど、できるの?」

「お任せくださいませ」


 その日から俺の日課に学校が終わってからのダンスの練習が入った。



 マルタは教えるのが上手で、相手がミルカでもダンスは楽しく、同じく上機嫌なミルカと踊り続けた。



「お姉さま、ずるいです。自分だけドレスの共布のチーフを作ってもらうなんて」

「ティナ、あなたは恋人がいないんですから我慢しなさい」

「まさか当日付けてこいなんていってらっしゃいませんわね。共布のチーフを胸に、なんてほとんど婚約者じゃないですか。ルーカス様はこの学園の決まりをご存じなんですよね」

「きちんと学生規則はお読みになっているはずです」

「またそうやって話を逸らさないでください。不文律のほうです。胸に付けた共布のチーフってこれは俺の女だって宣言してるんですよね」

「べつにいいじゃないの」

「よくありませんってば。普通は付けないで大切にしまっておくべき物なんです。誰にでも手が届く胸に付けるって欲しければ力ずくで奪えって挑戦ですよ、これ」

「大丈夫、ルーカスは勝つわよ」

「大丈夫じゃないですわ、先生方にもお姉さまを狙ってらっしゃる方はいらっしゃるのですから」









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