眠り姫のしでかしたこと
場所
ノルン王国王城内
俺とマリシアに与えられた部屋に女官達によってリリエル姫が運び込まれた。
倒れたリリエル姫のことを城の者たちはラシュエルと呼び、俺の妹扱いをする。
姫は俺に闇魔法で何か暗示をかけようとした。
リリエル姫の中にあの時の双頭の魔王を見た俺が抵抗し、無意識に反撃したので姫は気絶したのだが…
暫くしてマリシアが女官に案内されてきた。
「いったいどうなってるんだ、姫が俺の妹だって城のみんなが言う」
「リリエル様の術ですわ、城中に配ったマスクを通して自分の存在を身代わり役の影と入れ替え、ご自分はそっくりなクリスの双子の妹として城を出て留学しようとしたのです」
「なぜそんなことを」
「リリエル様が私の心を読もうとしたのですけど、逆に私が読んでしまって…」
「それで」
「帝国に行けばおそらくすぐに慣例どおりにリリエル様の婚約が決まるでしょう。リリエル様はそれが耐えられなかったのですわ」
「王族の姫とはそういうものだろう。国と国を繋ぐのが仕事だ」
「その…姫は普通の体ではないのです」
「おい、ちょっとそれは」
マリシアは寝ている姫の下着を脱がした。
「姫はおそらく禁呪に属する魔法を掛けられているのでしょう。男性、おそらくラシュエルと名乗る男性と幼い時から融合してしまっているのです」
「人を融合したりするのは確かに禁呪だな」
姫の体は男でも女でもなかった。
「私は心の状態異常の診断もできますが、姫には健康な心が二つあるのです。二つの心が全く同格に育っていますから、おそらく産まれてすぐに融合されているはずです」
「このようなことが公になれば大騒動になるな」
「それも有りますが、王家の血に何者かが紛れ込もうとしていると考えられます」
「もしかして未来で姫が暗殺されるのはそれが原因なのかも…」
「そうならば、なぜすぐばれるような禁呪を誰が何の目的で掛けてしまったかです」
「もしかしたら私の伯父のデルビオス侯爵が何か知っているかも…」
いつの間にかリリエル姫が起き上がっていた。
今のは女の方、リリエル姫だろう。
三人で相談して偽のリリエル姫に少し体調でも壊してもらってその間にデルビオス侯爵領に調べに行こうという結論になったのだが。
休む前にマリシアがリリエル姫に突っかかった。
「出て行ってください。ここはわたし達夫婦の部屋ですわ」
「そんなことを言っても俺はただの男爵家の娘なんだぞ。王宮で今から別の部屋なんて用意できるもんか」
俺のセリフのようだが言い返したのは男性人格のラシュエルである。
「どうせ女同士んだから俺が混じってもいいだろう。クリスは俺が一生面倒見てやるんだ」
「私は完全に変身できるんですもんね、ほ~ら、ほら」
ドカッドスッ
聖書さんごめんなさい。
でもあれは天罰という物でしょう。
頭を抑えている二人をそのままに俺は一人でベッドにもぐりこんだ。
翌日リリエル姫が病で倒れた。
ロビンが会ったというリリエル姫が自分と取り替えた影武者が、精神操作の負荷で倒れたのだ。
帝都までの日程には余裕がかなりあったので、俺たちの出発は一週間だけ延期された。
俺、マリシア、ラシュエルはその開いた時間を利用して、リリエル姫の名代として姫の伯父であり、俺たちとも縁戚のデルビオス侯爵夫妻に挨拶に行くことにした。
侯爵領はあの魔王城があった峠を境にしてロンバルト領の反対側にある。
そこにある侯爵の別邸に公爵夫人のレイリア様が住んでいる。
リリエルがあの場所で魔王になったというならば、そこに何かがあるはずだ。
人が心の奥に封じて有る魔を呼び出すにはそれなりの何か衝撃を受けねばならない。
俺、マリシア、そしてラシュエルの3人は、馬車で来た道を馬で駆け戻った。
ラシュエルは本気で王族から抜けて自由になりたいらしい。
俺 クリス
ロンバルト男爵家の長女で嫡男の留学生候補
マリシア
俺の嫁
リリエル姫
ノルン第2王女
現在は姫の影武者がラシュエルに洗脳されて姫として生活している。
ラシュエル
俺とそっくりな双子の妹ということになってしまったもとリリエル姫。
目じりが俺よりやや下がっている