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運命の出会いは、無かった?

 座学の授業は一つしか申し込めなかった。

 出来るだけあちこちに顔を出して、ロンバルトの誰かと仲良くならないといけなかったのだが……。

 ふと思いついて先ほどの窓口に引き返す。


「実技の申し込みはこの2回の窓口ですよ」

「いえ、そうじゃなくて受講生の名簿とかありませんか。その、なんというか」


 窓口の人は分かった顔をしてうなずいて書類を見せてくれた。


「ほんと見せられないんですけどね。がんばってね」


 彼女の勘違いは半ば正しいのだが……100%正しかった。

 レイシア・ティアカウント・ロンバルト

 やる気出た!

 ティナ・ティアカウント・ロンバルト

 もう一人いるけどアタック先は一つに絞らないとね。

 これで堂々とミルカに報告が出来る。

 いい笑顔で送り出してくれた窓口のお姉さん、40過ぎか、に礼を言って2階の窓口まで階段を駆け上る。

 壁の一覧表を見て、これしかないな、窓口に行く。


「転入生です。実技の受講申し込みをしたいのですが、特別クラスをお願いします」


 ここの受付は無愛想な女の人だった。


「武術でしたら、学びたい武器を選んで中級に申し込んでください」

「剣には自信がありますから大丈夫ですよ」

「その特別クラスは実践基礎治癒術を終了しないと受講できません」


 怪我させたらすぐ治療しないとな、この際覚えても良いか。


「ではその治癒術受講したいんですが」


 受付の人は黙って壁を指差す。

 実践基礎治癒術・受講受付終了。


「じゃあ、実践中級治癒術集中講座でいいですか?」

「その講義は受講できますが、実践基礎治癒術を終了しないと特別クラスは無理です」

「なぜ?」

「存じません」

「なんで!」


 いかん、思わず殺気をばら撒いた。

 事務局の全員の視線が俺に突き刺さる。

 さすがというか、おびえた視線は無い、が、やっちまった。


「どうしました?」


 階段を上ってきた、美形が声をかけてきた。

 女みたいなやつだが、体は引き締まっていて腰に差した剣も様になっている。

 下にいたときから気配を感じていたのだが、そこそこ使えるようだが俺の敵ではない。


「マリス先生、この方は転入生なのですが、実技で特別クラスを受講したいとおっしゃってまして」

「受講資格についての説明はしました?」

「それで納得していただけないのです」

「それは困りましたね、いいでしょう。定員に余裕はありますから、一つテストしてみましょう。武器は好きなのをお使いください。私は長剣を使います。3本勝負のうち1本、いえ、剣が体にかすりでもしたら合格です」


 おいおい、余裕だな。

 あの程度の腕では俺の腕が判らないと見える。


 マリス先生の後についていくと、剣術上級実技室と書いた札が下がっている場所に来た。

 俺たちがドアから入るとぴたっと喧騒が収まる。


「シェリー、転入生のテストをしますので、少し場所を貸してください」

「全員注目! 治療班は待機しなくていい、皆と一緒によく見て学ぶように」


 ざわめきが聞こえる。


「おぃ、マリス先生の剣技が見られるぞ」

「ああ、今日出ててラッキーだったな」


 シェリーと呼ばれた先生が審判に立ち、俺たちは刃引きした練習用の剣を持って向かい合う。

 怪我をさせないようにしなければ。


「はじめっ!」


 真正面から飛び込み振り下ろす、これで終わり……?

 そのまま一歩出て右に跳ね上げ……?

 2撃目はあくまでも予備に放ったのだが、動いた様子のないマリス先生に剣が届かない、なぜ?

 少し侮りすぎたか、剣速を上げ……おかしい。

 俺は疾風となった。

 どうしてもあてることができず焦って体がわずかに伸びきった時、俺の剣が宙に舞った。

 どうしてだ??


「一本目、マリス!」


 俺ののど元に剣が向けられている。

 信じられない。


「二本目、用意!」


 又もとの位置で構える。

 今度は魔法でのフル強化。

 見る者が見れば俺の体から吹き上がる魔力の炎が見えるだろう。


「はじめ!」


 全力で戦った。

 大したことのない相手のはずだった。

 負けた。

 地面にあおむけに転がされて俺は動けなかった。

 涙が出てくる。

 喰いしばった歯がぎりぎりと音を鳴らす。


「三本目は不要ですね。転入生、せっかくだからそこで見ていなさい」


 そう言ってマリス先生はシェリー先生と向かい合う。

 始まったのは俺の知覚力を超える剣舞だった。

 次元が違う。

 悔しさは、悔しいけれどどこかに飛んで行った。


 なんと最後はマリス先生が剣を突き付けられて終わった。


「転入生、ここでシェリー先生に鍛えてもらいなさい」


 そういって立ち去るマリス先生が向かった先に……あの人だ。

 妹だろうか、よく似た黒髪の女性と並ぶあの人がいた。

 もしかしてマリス先生が、レイシアさんの……。

 同じ相手に改めて2度目の敗北を舐めさせらた気がする。


「今日は珍しくお嬢さんが来てたんだな」

「皇太子殿下の誕生日じゃないか、お祝いに行くんだろ」

「………」


 親子、か、よし! 元気出た!!


 その夜、一日の報告をさせられた後、ミルカにかなり激しくされたが、俺は耐えることができた。


 俺はまだ根本的な勘違いに気が付いていなかった。




ルーク、どこまでも可哀そうなやつ。

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