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ふたつの初恋

 服従の検査だとかぬかしやがって奴は俺の半身をなぶった。

 俺と融合している半身は人でいるときに男が近寄ると抑えきれない恐怖で逃げ出そうとする。

 奴はそれを知っていて人の姿の半身を蹂躙した。

 俺の心の半分は恐怖で泣き叫び、残り半分の俺は怒りで…怒りで……どうにもならぬっ。

 心の中でミルカは必ず素手で八つ裂きにしてやると誓いつつ、体はうやうやしくこうべを垂れて命令を受け取った。

 くそったれ。

 

 ”帝都にいるクリス・ティアカウント・ロンバルトから夜の宝珠を盗み出せ。”


 黒い小さな宝玉で、夜の一族の末席、ローバー家に伝えられていたものだったらしい。

 代々長男が奥歯に隠し持っていて、最後はロビン・バル・ローバーの奥歯に仕込まれていたはずが、行方不明になっていた。

 それがどうやらクリスの元にあるとミルカに混沌の神からお告げがあったらしい。

 自爆用の爆発物として伝わっていたらしいが、そんなものをなぜ欲しがるのか、俺は全く理解できない。


 いま、帝都へ行く馬車の中で読まされている資料によると、クリス帝国伯はとんでもない相手だ。

 そんな相手からどうやって宝珠を盗み出すのかだが、ミルカはクリスの娘を篭絡せよという。

 あきれたことに、何人もいるから誰でも良いからいい仲になれといわれた。

 術を使えばすぐにばれるので、洗脳するのは禁止だという。

 難しいことだ。

 俺はこれまで剣の修行しかしたことが無い。

 ふぅ。


 ミルカは隣に座る好青年に育ったルークを見て満足していた。

 全て予定通りだ。

 ミルカもルークの侍女として帝都に向かう。


 夜の一族の中で混沌の巫女として育てられたミルカは、神のお告げどおりに同じく信者だったロンバルト男爵とかりそめの婚礼を行い、その夜融合して一人になった。

 その日から誰にもばれぬように巧みに一人で二役をこなした。

 公にはすぐに娘が授かった事になっているが、実はクりスは神のお告げどおりに祭壇の上でかごに入れられて泣いていた赤子を連れて帰っただけである。

 やはり二役には無理が有るので、ミルカは死んだことにしてクリスを父親として育て上げた。

 実のところ、ミルカはクリスが怖い。

 混沌の神からはクリスを魔王に育て上げろと命じられていたが、特に帝都に向かわせてからはとんでもない魔王以上の化け物に育ってしまった。

 ノルン王が変化した黒竜を一突きで倒すなどと誰が信じるのだ。


 ミルカはクリスを嫌って、正確には恐れていたがクリスからは好かれていた。

 反対にルークをかわいいと思うのだがルークは自分を敵だと思っている。

 そしてついにどれだけ支配が機能してるかなんて、調べなくてもいいことを理由に変身させて抱いてしまった。

 自分が抱かれてやればいいのだが、巫女であるためには男に抱かれるわけにはいかないのだ。

 ミルカは神に命じられた夜の宝珠の奪取よりもルークとのことが気になっていたが顔にも言葉にも出せない。



 ミルカと二人でおしこめられた気まずい馬車の旅は3日間続き、ようやく帝都の門をくぐることになった。

 俺は男爵家のたった一人の養子として、貴族しか通えないフェリシア中央学園の入学許可を取ってある。

 その許可書を見せればすべての門は簡単な検査だけで通り抜けることができた。

 ミルカは俺が住むことになっている寮へ向かい、俺の部屋と付属している使用人部屋をかたずけねばならないのでそちらへ向かった。


 俺は、転入生として事務局で手続きせねばならないのだが、それにしてもこの学園は広い。

 誰か道を……。


「すいません、事務局へ行きたいのですが道を……」


 最後まで言えなかった。

 前を歩く人に声を掛けたのだが……。

 つややかな黒髪が白い肌に映える。

 少しきつめの目は知性をたたえていて……。

 そのぅ、彼女の描写がきちんとできない。

 俺の心臓は飛び跳ねた。


 ぽかんと口を開けたままの俺に彼女は「このまままっすぐ行けば看板がありますよ」とにっこり笑って去って行った。

 …………。

 ……。

 礼も言ってないぞ。

 当然名前も聞いていない。

 思い出せ、俺。

 そうだ”魔法理論入門”なんて本を持っていた。

 入門の授業なら俺にもちょうどいい。

 選択しなければならない科目のうち一つはこれで決まりだ。

 事務局へは、走って行って窓口で転入手続きもそこそこに魔法理論入門の受講を申し込む。


「本当に魔法理論入門を受講するんですか。ものすごくハードですからほとんどの受講生がすぐに音を上げてやめますし、これを受講したら他に座学の授業は受けられませんよ」


 え? 入門だろ? と思ったが、やめておこうか、いやその前に一つ確かめねば。

「今、黒髪の俺と同い年くらいの女の子が受講してますよね」

「レイシアさんね、わかるわぁ、あなたの気持ち」


 窓口の女性の口調がいきなり崩れた。


「それで受講の手続きをしたいんですけど……」

「彼女許婚がいるらしいからちょっとむりだと……それでも受講する?」

「はい」


 許婚か何か知らないが、敵は倒せが身上だ。


 ……受講辞退届の用紙までくれなくてもいいのに。














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