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初めての夜に

怪しさ100% R15ぎりぎりでございます。

 強欲だとか人でなしとかろくな噂がない男爵が治めるボ-ゲル領の館に母から来た手紙で呼びつけられ、

 何も聞かされないままに俺は姉ミルカの結婚式に参列している。

 俺は、よれよれのじじいボーゲル男爵と壇の上で愛を誓ってキスしている美少女の唯一の身内だとされている。   


 少し前まで俺の母を名乗っていたあいつが姉だというのは嘘っぱちだし俺が皆に紹介された名前、ルーカスというのも嘘だ。

 俺の本名は、ルーク・バル・ロンバルト。

 式の始まる前のわずかな時間に、ミルカに明日からお前はボーゲル男爵の養子として迎えられルーカス・バル・ボーゲルを名乗ることになるといきなり言われた。


 ここ式場に集った人々を眺めるとかなりその表情が不自然で固い。

 身元不明の俺が誰にも反対されずにここの養子になるのはあいつがボーゲル男爵を始め家族、屋敷の使用人、領地の主だった者達の頭に針を打ち込み闇の魔術で繰り人形にしてしまったからなのだろう。

 人間臭い気配をさせていて、この結婚披露の場であいつに支配されていないと言い切れるのは、式を取り仕切る帝都から来た司教と同じく帝都から来た貴族局の立会人だけだ。

 自分自身を例外にしなかったのは、その~つまり定期的にあいつは俺の頭にも針を突き刺して思考を制御いるからだ。

 俺は俺として自意識が有るのだが、非常に情けないことに、あいつに従って動かされている。

 そもそもあいつは清楚なお嬢様面をして居やがるが正体はロンバルト男爵などという男で正式には俺の祖父にあたる。

 こいついったい何才なんだ?

 しかも俺の母さん、ラシュエルを殺した敵だ。

 よほど母さんが伝えたかったのだろうか、過去に起きた母の最期を夢で見た。

 もともとノルン王家に伝わった夜の魔術で母ラシュエルは俺に夢として見せたのだ。

 針を打たれつつもこのように自由に考えることができるのは、幸いというか、不幸というか、俺は生まれてすぐに魔王である黒竜と融合させられて魂が二つ有り、片方は全く自由な状態にあるからだ。

 上層の魂を支配されているので、俺の体はあいつに黙って従っているが俺本来の魂は何とかしようとあがき続けている。

 もちろんあいつはそれを承知で俺の魂をもてあそぶ。


 つい先日までの俺は雪の降りしきる山奥で修行させられていた。

 聖戦士さまや聖女さまがしたという修行はそれはそれはきつかった。

 黒竜の半身を持つことを除いても、剣技でミルカつまりロンバルト男爵を上回る自信は有る。

 精神力でもだれにも負けない自信はある。

 しかしそれでも逆らえない。

 無防備なあまりにも幼いころから思考制御の針を打たれていたからだ。


 先日、修行している俺にミルカから届いた手紙には今日の式に間に合うように来いとだけあった。

 来てすぐに弟のルーカスだと紹介されて今に至る。

 どの道ろくなことにならないのだろうが.


 式が終わって人が立ち去る中一人取り残される俺に老執事が近づいてきた。


「奥様がお呼びです」


 奥様だってよと思わず鼻で笑いそうになったが、俺の体は優雅に礼を言って案内する老執事についていった。


 俺はは屋敷の本館から出る渡り廊下まで案内された。


「ここからは専属の者が案内します」


 そこからはどう見ても若い娘に見える魔動人形に案内されて長く続いている渡り廊下を奥へ進むと小さな別邸があった。

 その横には専属の使用人のものだろうか小さな小屋が2軒ほどならんでいる。

 人形が呼び鈴を鳴らし、中から許可が下りて瀟洒な扉が開く。

 わざわざ新婚用にしつらえた別邸のようだ。

 いかにもそれらしい飾り付けがしてある。


 別邸の居間ではガウンを羽織ったミルカが一人で酒の入ったグラスを傾けていた。

 俺の口からはは意思に関係なくいかに先ほどの式が素晴らしかったか、姉が美しかったかをほめたたえる言葉があふれだした。

 ミルカはそれを聞きながら指を鳴らす。


 そして俺は俺自身になった。


「ミルカ、何の用だ?」

「あら、つれないわね。決まってるでしょ。仕事があるの。それともうひとつ」


 今度は誰を殺すんだ。

 それはおいといて、気になることがある。


「あの爺さんは?」

「隣に小屋があったでしょ、あそこにいるわ」


 やれやれ、あの爺さんも可哀そうに。

 しかしもっとかわいそうなのは俺かもな。


 グラスを置きゆっくり立ち上がって昼間清楚だった女は怪しい色香を漂わせて俺の前に立つ。

 手を伸ばして俺の筋肉の付き具合を確かめて……


「いい体になってきたじゃないの……」


 衣擦れの音がして……


 次の朝は俺は別邸で目覚めた。





 隣の男が俺に低い声で言う。


「昨夜命令したとおりに明日出発しろ」

「はい」


 もう一晩あれが続くのか。

 俺は屈辱に震えながら高い澄んだ声で答えて、きゃしゃな体をベッドから起こした。




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