宴の終わり
大抵の宗教には祭祀というものを信者が集まって行う。
その時、教祖の聖誕祭にを祝うために地下の大神殿に集まっていた信者達は突然響いた轟音に戸惑うことになる。
千年以上昔から天井の岩盤を支えてきたアーチが崩れ落ち非常用の脱出口からも水が吹き出てくる。
逃げようとした信者達は鉄砲水によって神殿の底に集められ押しつぶされた。
俺は宙に浮かぶ戦闘艦から森が陥没していくのを眺めていた。
ローグ砦の転移門が時々通行不能になる現象を応用した結界で,ここから視界に入るすべての森が転移疎外地域に入っている。
大神殿には転移装置はあるが、そこから逃げることは不可能になっている。
ローグの地下要塞の転移門は空間と空間とを別の次元で繋ぐものでまったく方式が異なるためこの妨害を受けない。
俺は輸送艦で、その転移門を持ち込み大神殿と深海とを繋いだ。
深海の高い水圧によって吹き出る海水が固い岩盤を切り裂き、すべてのものを巻き込みながら地底へと流れ込む。
海水は面白いように岩の柱を削りとるがその水圧のために天井が崩壊しても水の通り道は最奥まで突き進んでいく。
やがて窪んだ大地から海水が湧き出し広い塩湖が出来上がった。
そのまま一週間誰も這い上がってくるものが無いことを確認してから撤収した。
「クリス、凶信者の大神殿を叩き潰したんだって?」
「ん?」
最近あまり見かけなかったロビンが相変らずプレートメイルをガチャガチャさせながら俺の執務室にやってきた。
「混沌神の祭事があったからね。これでかなり数を減らせたはずよ」
「どこでそんな情報を?」
「信者から聞き出してるだけよ」
「へ~」
「薬とか針とか使ってるけどね。今回もかなり捕まえたからローグの地下牢がもう一杯」
「ローグにそんなのあるんだ」
「新しく建てた教会の下」
「ふ~ん、そんなところで大丈夫?」
「警備には自信があるわ。ところで何の用?」
「いやぁ、戦闘艦まで出したって聞いてね。母さんの仇だし気になってね。今度やるときは連れてってもらおうと思ってさ」
「やるときは連絡するから」
「頼むよ」
大神殿から帰って2週間後、ローグの西で魔獣たちの大発生があった。
「司祭様、狼どもは西へ行きました。教会の見張りは10人だけです」
「殺せ」
「…」
二人一組で巡回する兵士は結界で包みこまれ警報を発せられなくされて殺された。
「全員の処理終わりましたが12人やられました。相当な手練れたちです」
「仕方あるまい、相手はローグ兵だ。先遣隊突入せよ」
黒い影たちが村はずれの教会に入っていく。
そして中で何かが起きた。
「入り口に罠がありました。排除終わりましたが7名やられました。警報は出されないよう封鎖に成功」
「あの者たちが罠にかかるのか…しかたない。力押しになるが全員で行くぞ」
「はっ」
協会の地下は悪魔のような迷路だった。
悪辣な罠に魔獣。
入った時には100人を数えた信者たちだが残るは2名。
そしてふたりは最後だと思われる扉を開ける。
中は何もない広間。
「どういうことだ?」
いや、床の真ん中に穴が開いている
さらに下に行く通路があるのか。
覗き込んだ司祭の首が落ち、残る一人の体が裂けた。
俺はその部屋に入り、真ん中の浅い穴から首を取り出した。
「ルタ、ご苦労様でした」
最後に残った信者の体から這い出したルタに声をかける。
ルタはその信者に寄生してたのだ。
これであの祭事にも参加していなかった教団の実動部隊は滅んだ。
後に残るは巫女と教主のみ。




