離縁するから戻ってこい
月日が経つのは早いもので俺はもうすぐ20才になる。
マリシアたちの修行が一区切りついたということなので、戻ってこいと手紙を出した。
「もう少し長く、そうそう、そこは締めて」
「伯爵様は色が…」
うちの女性陣には裁縫が出来るものも居るのだが、宮中で着れる物となると、う~んとうなるしかない。
そこで、もと公爵夫人のレイリアと伯爵夫人のジェシカにみてもらいながら裁縫師を呼んでドレスの仮縫いなどしていたりする。
鏡に映る娘の体は、健康的だがどう見ても矛を振り回すのにはふさわしくない優美な曲線を描いている。
なぜにこんなたおやかな腕があんな重量を持ち上げるれるのか。
なぜにこんな細い腰であれを振り回せるのか。
実際のところ、筋力を魔力で強化しているだけなのだ。
きめ細かく弾力のある肌も、よほどの業物を達人が振るわないと斬れないとは誰も思わないだろう。
ふっ、人間やめてるな。
その化け物なのだが、このようにドレスを着けて鏡に姿を映してポーズを決めているのではなく、戦場で血に染まっていたり、矛を振り回しているほうが美しく見えるようだ。
それであの決闘以来皇后に気に入られて、近々離宮に入ることになる。
つまり公には皇帝の側室になる。
ほかの側室たちや皇太子たちだけが知っているように実際は皇后と夜を共にするのだ。
ただ、皇族たちには信じられないことだろうが、俺が、そう俺が抱くのだ。
皇后の体はマリシアとほとんど変わらない。
知り尽くした者とそうでない者とが争って、主導権を俺が奪われるはずがないだろう、はっはっは。
それで多分近いうちに皇后陛下ご懐妊の報が発せられることになる
もう仕込み済みだから。
離宮に上がる俺の供をするのは、まず高級女官としてレイリア。
次に中級女官としてジェシカ、下級女官はメグ。
下働きの侍女はマリーが魔動人形たちを統率して務める。
もうすでに俺とジェシカの間にも娘マーシャができているが、レイシアや他の子ども達と一緒にローグに居る。
俺が側室に上がるのでティアを含めた嫁たちは離縁された形でローグで子育てすることになる。
これはあくまでも形式だけのことなんだ。
最後の衣装を合わせていたらノックもせずにドアが開けられた。
「クリスっ、側室になるって何! 離縁するってどういうこと!! とにかくすぐ帰って来たんだけど」
「お帰りマリシア、そんなに怒鳴らないで。しかしまた思い切ったんだね」
「私の髪なんてどうでもいいじゃない! それよりなんで側室…」
「ちょっとその話はあと」
手紙での説明が少し足りなかったらしい。
それにしてもマリシアたちはなんというか、男前になって戻ってきた。
すぐに口を閉じたマリシアは長かった髪の毛をバッサリと切ってショートにし、長剣を一本腰に差した武芸者姿で荒々しい気に包まれていた。
そこら辺の山賊たちなら気合いだけで真っ二つにされそうだ。
シェリーとシャロン、それにレナは遠慮して部屋に入ってこずにドアの外にいる。
衣装の仮縫いを最後まで終わらせて、俺は4人を私室に招いた。
挨拶もそこそこに簡潔にしてもらいたいことを述べる。
「シェリー帝国伯は明日から貴族局警務長官、シャロンは民政局の警務長官。レナはまたマリーと一緒に下働きね」
「私は?」
「マリシアは俺の護衛官」
「なぜ?」
「護衛官だけ私とずっと一緒にいられるから」
マリシアの殺気がしぼむ。
よかった、どうやら俺はまだ長生きできるようだ。
「後で詳細を説明するけど、シータを加えたこのメンバーで帝国を裏から支配するわ」
不敵にうなづいた4人だけど、レナだけまったく変わってないね、無理しなくていいよ。




