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ひそかな革命

 最初はドミノが倒れていくように、たった一人の小役人が処刑でしかないことだが、貴族たちは大粛清が行われるかと恐怖した。

だが実際のところは数人の貴族が引退しただけで。



 帝都にあった取次ぎ役の大きな屋敷が、ある朝気がついたときには全く別の屋敷になっていた。

以前の年代の重みと豪華さは感じるがどこか下品な屋敷ではなく、新しく機能美に満ちた屋敷が不思議と帝都の歴史有る風景に溶け込んでいる。

帝都の貴族はそのことでそこに住むことになるはずの下級官僚の実力を推し量った。

建物を即席で建てること自体は別に不可能ではない。

土属性の魔術士を中心とした魔術士集団がいればよい。

しかしこれだけの大きさのものを、だれにも気づかせないままにごくわずかの時間で仕上げる。

どれだけ多くの魔術士を集めたのだろうか。

しかも建物全体が均一で調和がとれている。

どれだけ優秀な者が指揮を執ったのだろうか。

そのような配下を持つ主はとんでもない力を持つに違いない。

近所の貴族たちは好奇心と恐怖の両方でシータという取次役からの引っ越しの宴の招待状を待った。


 その新しい屋敷の中庭にはシータと上半身裸の一人の男、いや盛り上がった筋肉質の体ではあるが、胸には豊かな二つの半球を持つ女が仁王立ちしていた。

ダルカン、いやレイリアが土魔法で前の屋敷を一瞬にしてこの屋敷に変えたのだ。

そのとき男性化しようとした体の膨張した筋肉でドレスが破れてしまったのだが


「いやあ、どうも子供を産むと勝手が違っていけねぇな。男にもどりきらねぇ。」

「おつかれさまです。しかしいつまでそうしてるの?」

「はっはっは、女にも戻りきらねぇ、いやぁ困った」

「困ったようには見えないんだけど」

「ん~レイリアの人格を表に出したら恥ずかしくって死にそうだからなぁ、ほんと、困った。これじゃあレイシアが怖がって泣きそうだ。マジ困った」


 こりゃ、クリス様に抱いてもらうしかねぇかな、などと楽しそうに言いながらダルカンは帰って行った。

頑張ってねと見送ったシータは表情を引き締める。

ここからしばらくはロンバルト家と関係なく自分だけでやっていかねばならない。

帝国の貴族どもには新しい勢力が二つできたと思わせたほうがいいのだ。

だからシータは昔の仲間、革命軍の穏健派に連絡を取った。


 もともとシータは貴族社会を終わらせて、全ての人々が平等に暮らす社会を理想とする革命軍の志士だった。

革命を成功させるために人々を導く、その力を得るためにシータは自ら望んであの店で改造されたのだ…が奴隷紋を付けられてしまった。

平和裏に革命を成功させようとする穏健派に属していたシータがじゃまな武力闘争を訴える急進派に売られたのだ。


 帝都に来てシータが目立つ舞台に立つと、すぐに急進派が襲撃を仕掛けてきて、穏健派も接触してきた。

理想に燃えた急進的な革命家などという者たちは、裏切者と決めつけたシータを執拗に狙い、返り討ちにされて数を減らしていった。

実のところ凝り固まった先入観とむやみに高いプライドによる凶暴な思想は、向ける対象があれば何でもよかったのだ。

とにかく急進派を排除したシータは穏健派を説得した。

武器を取れば血が流れる。

せっかく皇帝の力を掠め盗ることができたのだから利用すればいいじゃないか。

貴族どもにばれないように緩やかに。


 帝国は誰にも知られないうちに、少しずつ変わり始めた。






 





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