断罪
俺はその男、カースンが貴族でないことを確認して現行犯で逮捕し科刑した。
晒し者にしたのは斬るまでもないと思ったからだが、その処置に対して異を唱える者が出た。
見張りに付けてあった部下が俺の執務室に駆け込んできた。
「伯爵様っ、晒してあった男ですがサイティーン男爵が縄を解きました」
「それで?」
「今はドブーン伯爵の屋敷です」
「わかりました、私が行きましょう」
カースンをさらした広場のすぐ横にドブーン伯爵の屋敷はある。
門は堂々と大きく開け放たれ、中の様子がよく見える。
重武装した兵士たちが、前庭を埋めている。
何事かと、ただでさえ多い通行人が足を留めてそれを見ていた。
オッホン。
俺を目ざとく見つけた門番がわざとらしく咳払いなどをする。
「警務長官のクリス・ティアカウント・ロンバルトだ。広場に晒してあった犯罪者がそちらに逃げ込んだ。引き渡してもらえればありがたい」
「この屋敷には犯罪者などおりません。お帰り下さい」
俺は貴族に対して何の権限もなく、その開いた門の中へも立ち入ることができない。
表の騒ぎを聞きつけてか、あらかじめ待っていてか、ドブーン伯爵が出てきた。
「やぁ、ロンバルト殿。お役目ご苦労様ですなあ。当家にはそのような者は入り込んでおりません。お引き取り下さい。ロンバルト殿には後程貴族局の警務部から話があると思いますが」
「そう、それでは」
俺は矛の石突で地面に円を描いた。
何事かといぶかる伯爵の前で魔方陣がきらめき、閃光がひらめいた後、杯を持った男がソファーにでも腰かけているような格好で現れた。
支える物がなくしりもちをつくカースンに俺の矛がひらめく。
そしてこちらを見ている伯爵に謝罪した。
「申し訳ない、こちらにいたようです。お騒がせした」
「ロンバルト殿、取次役のご子息ですぞ。何の罪があって」
「官僚であっても平民であれば我が管轄です。私が斬るのに理由は必要ありませんが」
どんなに権力が有ろうと、皇帝の取次役は平民の官僚であり貴族ではない。
俺は広場の台の上にカースンの首を晒した。
”銅貨一枚盗んでも斬る”
一夜明けて、ドブーン伯爵が言った通り、貴族局の警務部から呼び出しがあった。
「ロンバルト伯、役職を解く。謹慎しておれ」
「私の役職を解くには勅命が必要ですが」
「そんなものはすぐに出る、早く行け」
その時書記官が新たに出た勅命を持ってきた。
俺も警務長官もともに頭を下げる。
「クリス・ティアカウント・ロンバルトの警務長官の任を解き」
頭を下げたまま警務長官があざ笑う。
「貴族局警務長官に任ずる。現長官は速やかに任を離れ引き継ぐように」
笑ったままの顔が蒼くなる。
「そういえば昨夜のうちに、陛下への取次役が交代しました。前任者はいろいろと犯罪にかかわっておりましてね」
後任には女官として宮殿に入っていたシータがなった。
取次役を始末して彼がしていたように、自我のない皇帝に勅を出させただけだ。
帝国の実権を握る皇后は、そんな些細なことなど今まで通りに気にもしなかった。
「では引継ぎをお願いできますでしょうか」
ドブーン伯爵からはすぐに引退願いが出て、流れが変わったのに鈍感なサイティーン男爵は病死の届けが出た。
マリーが速やかに処理していたが、暗殺者にしょっちゅう屋敷をうかがわれるのはうっとうしかった。
おびえる者は多かったがおとなしくしていれば俺は動かない。




