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悪魔の裁き

 帝国の南西辺境区、のどかな牧畜地帯で山賊たちが略奪の限りを尽くしていた。

襲った村は追撃の辺境騎士団を食い止めるためにわざと村人たちを殺さない程度に傷つけて逃げていく。

村人を治癒する間に山の中に逃げ込むのだ。

山賊どもは顔を隠すこともしていないため、ほぼ全員の似顔絵が手配されているのだが、まったく行方を追うことができない。



「神よわれらをグホッ」

「あ、悪魔めぇ~」

「俺がくいとめ…ぐあぁ」



 山間の小さな村の教会は血に染まっていた。

祈りを捧げていた30人ほどの村人たちは誰一人逃げることが出来なかった。

幼い少女が心臓を矛で一突きにされて教会の壁に磔にされている。 


ふぅ。

終わったか。

悪魔と呼ばれて少女を一突きにしたのは俺だ。

この村は混沌神を信仰する山賊どもに取って代わられていた。

俺がくいとめ…ぐあぁ、と野太いバリトンを発したのがこの少女で、死んでなお両手に毒を塗った短剣を握り締めているのだ。

先に切り落とした少女の母親らしき女の首も髭だらけのそれに変わっている。

いったいだれが悪魔なんだ。

それにしても混沌の信者どもも悪魔と対立しているのか、ふむ。

知らなかった。


 教会の外へ出た俺は槍から進化した矛を地面に突き立てた。

地面が裂け崩れ落ちた教会を飲み込みうねったあと何も無い空き地になった。

すぐに木が生え草が伸びる。

律儀に全員集まって礼拝していた信者達は全滅し、邪神の教会は消え去り廃村だけが残った。


 今まで混沌の信者どもにやりたい放題されていた俺だが逆襲に転じることにした。

奴らのアジトをランダムに叩き潰している。

計画的につぶさないのはもちろん対策を取らせないためもあるが、主に恐怖を与えるため。

あんな女の子まで融合素材に使いやがって。

俺は正確に奴らをあぶりだして一人でひそかに処理していった。

隠れて後ろから襲いかかるのが得意なやつらだが、襲われる側になるのには慣れてないらしい。

なまじ年を取らなくなったため命を狙われることに特に恐怖を感じるようだ。

情報収集に部下を使っているが、襲撃に関しては俺は全く部下たちを動かしていない。

だから、ローグで行商人を装って俺の部下たちを見張っている信者どもは全く異常を感知しておらず、ある日突然仲間が消え去るのが俺の仕業だとは全く気付かれてはいない。

マリシアが修行に出てから約3ヶ月、俺は守るべきもの達のために攻勢に出ることにした。



 俺が守らねばならない者たちはローグにいる。

ローグはノルンよりはるかに春が早い。

暖かい早春の窓辺で赤ちゃんを抱いている人影を中心に何人かの影が寄り添っている。

その窓を中庭の反対に見る部屋に俺は入った。

こちらの部屋でも産まれたばかりの赤子が母に抱かれて眠っている。



「ラシュエル、遅くなったがマリシアを害しようとしたことで、罰を言い渡す。子供を連れて出ていけ」

「はい、ありがとうございます。ルークは一人で育てます」


 お姫様育ちのラシュエルがここを出て一人で赤子を育てられるわけがない。

だからこれは最高刑だといえる。

もともとラシュエルが産んだ子は俺の子では無い。

マリシアの体を使ったリリエルの子なのだ。

それに事情はどうであれマリシアの心を消そうとした。

本来ならば斬り捨ててもよいのだが、一つ問題点がある。

反対者がいるのだ。


 玄関が騒がしい、ちょうどその問題点が到着した様だ。

すぐにこの部屋のドアが激しくノックされ返事も待たずに開かれる。

驚き泣き出すルークに、両手にいっぱいの箱をかかえた乱入者があたふたする。


「す、すまぬ。これがルーク・バル・ロンバルトか、元気が有ってよろしい。お~よしよし」

「馬鹿親父、赤ちゃんがいるんだ、静かに入ってこい」


 事情を全部知ったうえで俺の親父のロンバルト男爵はルークにロンバルト家を継がすことにしたのだ。

ラシュエルが主筋の姫だということもあるし、いろいろ理由はあるのだが、とにかく親父は自分が存分に鍛えることのできる男の子が欲しかったのだ。


「もう一度繰り返す。北のノルンが暖かくなったら、出ていけ。」


そう言い放って親父を残して部屋を出た。

そして俺の娘、レイシアのいる部屋に向かった。










 







 






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