強くなりたい
不死の体質を持つ者はめったにいない。
人は老いても病でも、怪我でもそして殺されても死ぬのだ。
そして死ぬのは誰にとっても怖いこと。
だから生きるためにあがく。
たとえそれが裏切りと呼ばれるものであっても。
フェリスの門前町、全く人通りの無い夜の墓地で7人の神官服を着た人影がルタを囲んでいた。
胸に付けている印は既存のどの神のものでもない混沌の神の物。
「あの冠は確かにマリシアにかぶらせたぜ。約束の新しい闇の宝玉はもらえるんだろうな」
「まぁ待て、あの宝玉は調整が難しい。時間がかかるとは言ってあったはずだ」
「早くしてくれ、体が崩れてくるんだ。あと三日、それしか待てない」
「わかってる」
「ぐぉっ」
ルタと受け答えしていた人影あ手を上げると一斉に放たれた黒い炎の攻撃魔法の焦点にいたルタはこげた肉の塊となった。
「腐ってもさすがロンバルティスというべきか」
7人の内3人が倒れ、一人が片膝をついた。
ルタの体から伸びた何かが3人の心臓を貫き、一人のわき腹をえぐっていた。
土の魔法でルタを埋め仲間の死体と傷ついた一人を担ぎ上げ魔法で転移した先はフェリスの地下だった。
ルタが持っていった冠は予備のものだった。
ただ少しだけ今回特別に細工した。
網一つ予備を作るには資金も時間もかかるがそれはかまわない。
混沌の黒き聖女を蘇らせる可能性があればどんなに確率が低くてもおこなうべきだった。
結果がでるまで彼らは待つだけでよかった。
アーサーの冠をかぶれば、アーサーに取り込まれるにせよ、されないにせよ、フェリシアの王冠をかぶることになるはずだ。
その分岐は制御できないがティラノになってしまえばフェリシアをよみがえらせるために、自我を保っていればより強力な聖女の力を求めて王冠をかぶることになるだろう。
人の欲望を利用すると確立はかなり上がるはずだ。
宮殿の宝物庫へは偽の皇后を派遣して警備を緩くしてある。
皇后と同じ魔力を持ったマリシアなら罠を作動させずに突破できることだろう。
ただいま、と、やけに上機嫌でマリシアが帰ってきた。
ローグに向かったはずなのにみんなと別れて途中で戻ってきていたらしい。
帰ったことを俺にも言わずに何やら自分の部屋でしていたようだが急に飛び出していった。
カウラスとニューがすぐ追いかけていったのでさほど心配はしなかったのだが。
帰ってくるなりにこにこしながら飛びついてきた。
どんないいことがあったのだろう。
「あのぅ」
「なに」
「お爺様と会ってきました」
「え?」
「宮殿へ行って皇后様と会ってきました」
「へぇ」
間の抜けた声を出してしまった。
確かに血の繋がりではお爺様で間違いないんだが、いきなり押しかけて向こうもよく会ってくれたもんだな。
「強くなりたいと思ってルタの持ち帰った冠を着けてみたの、そうしたらお爺様のことがいろいろわかって、それでそれで、とにかくあの冠はお爺様の大切なものだったから返さないとだし、それからそれから、あの冠も宮殿に行けって言ってたから、えっとえっと…」
「ゆっくりでいいよ」
「宮殿でロンバルトの者ですがって言ったらお爺様が出てきて、こんなふうにぎゅって…」
「そう、よかったね」
「うん、それでね、アルルート山へ行きたい」
「なんで?」
「お爺ちゃんたち、そこで修業したんだって…」
あのティラノの人格や技能知識などが丸々入ってくる冠を着けたら、ティラノの知識を流し見することができて、戦士の技能は付けてもらった。
もっと強くなるには宮殿の王冠を被ればよいと冠に指示されたので、宮殿に王妃を尋ねたら会ってくれて修行したらいいと助言されたということらしい。
俺なら盗みに入るが、真正面から乗り込んでいくとはさすがマリシアだ。
「だからどうしても行きたい」
「わかったよ、行くなら一度ローグに寄ってラムに剣とかもらえばいいよ。それからシェリーはたぶん行きたがるだろうし、誘えばいいと思うよ」
「わかった、ありがとう」
皇后に身内だと認めてもらって本当にうれしかったのだろう。
次の日さっそく朝早くマリシアはローグに向かって旅立っていった。
マリシアには、ローグでシェリーとシャロンが同行したと連絡が入った。
いつ帰ってくるのやら。




