迷走の果てに
本日2話目
この剣が強く物を言う世界は男尊女卑があたりまえ。
男は剣を持って前線に出るがゆえに尊ばれる。
女であっても戦うものは同列に扱われるが。
逆に言えば無様な戦いで散った者には厳しい。
たとえ肉親であっても…
闇討ちの後自爆したようなローバー男爵の死は悲しまれなかった。
それが当たり前だ…当たり前だ…当たり前だ…
そういうことになって誰も涙を見せなかった。
…見せないだけだよ。
ジェシカの、もう呼び捨てにする、傷は俺がすぐに癒した。
一晩別れを惜しんだ後ベルと共にローグに旅立った。
何かが俺の中で警鐘を鳴らしている。
帝都は危険だと。
2人が去ったが俺の屋敷は別にさびしくもならなかった。
賑やかなのが住み着くようになったからだ。
ローバー男爵の首なし遺体が発見されたので、ローバー家の家督はロビンが継いだ。
昔から石頭だと思っていたが本当に丈夫な男だった。
あの爆発で頭が残ったんだ。
ちょうど体があったから、着けたらくっついた。
男爵の代わりにノルンの外務卿になり、この帝都に住まねばならないのだが、なぜか俺の屋敷に住み着いた。
「ねえロビン、屋敷の中でプレートメイルでうろつくのはやめて欲しいんですけど。うるさくってうるさくって」
「おいクリスこれでないと体の線を隠せないんだ。それよりも地でしゃべれよ気持ち悪くって、気持ち悪くって」
「年頃の娘がそんな乱暴な言葉遣いではお嫁に行けませんわよ」
「うるせぇ、嫁ならいるさ。とにかく税務局へ行ってくるからな。桃色の鯨亭には行かないからな」
わかりましたわ、おほほほほほと笑ってやったら顔を真っ赤にして部屋を出て行った。
お前も大変だな、俺はもう慣れた。
ロビンは体が不自由になったとかであれからずっとおれの屋敷にいる。
父さんの死で奴隷紋は消滅したのであいつは自由だ。
レオナもまた俺の屋敷に住んでいる。
どうもロビンの世話をして旅を続けていたことは覚えているらしい。
それ以前の記憶はないということだ。
取り憑いていたヤツは日常の面倒な仕事を全部レオナの魂にやらせていたらしい。
だから陰謀を巡らせていたり、やばい事柄の記憶は全くないけれど漠然としたロビンとの生活の記憶は残っていたみたいだ。
レオナの故郷では一夫一婦の生活が主流で、男女ともに生涯一人の相手と寄り添うのが正しいとされている。
ロビンとの夜の生活も、レオナがさせられていたわけで、その…
欠けた記憶を強引に自分の都合のいいように作り上げてしまった。
「クリス様、うちの人見ませんでした?」
レオナはローバー男爵夫人の座に収まった。
ロビンの体が吹っ飛んだ時、正面方向にレオナもいたので、あの時のはレオナを守るための名誉の負傷ということになっている。
だから女性の体に頭がくっついていても苦情は言わないのだが、やはり欲求不満がたまるらしい。
「桃色の鯨亭、とかおっしゃってましたわ」
「またお茶を飲みに行ってるんですか。あの人ったら貴族局に出す書類が溜まっているのに、もう」
レオナはロビンが仕事をしていないと気に入らないみたいだ。
お気の毒にと、遠ざかっていくレオナの気配を追っていると、別の気配が屋敷の前に降り立った。
気配は玄関を通り、まっすぐ俺のいる居間に入ってくる。
「おかえり」
「ただいま」
肩にカウラスをとまらせたマリシアは大輪の花のように微笑んだ。
『ご苦労様』
そう思念を送ると、ニューの気配は台所へ向かっていった。
ペンの力は、平和の力ではなく数の力だと作者は思っておるのです。はい。
この世界は未開なので男尊女卑がまかり通っておるだけなのでございます。
この世界でも一度守ると約束した相手に手をあげるのは、サイテーなのであります。




