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前座が聖戦士…おぃ

 白く輝くライトメイルに身を固め、同色の仮面で顔の下半分を隠した女が決闘開始のかなり前から地面に大剣を突き刺し、あたりに闘気をぶちまけながら俺が来るのを待っていた。

皇后は今朝行われた顔合わせでマリシアを一目見て「フェリシア」と呟いてから完全に本気モードに入ったようだ。

皇后はマリシアに何かを感じ、それによってマリシアがフェリシアだと判別した。

それはおそらくマリシアの魂の輝き。

マリシアは心に封印された三本角の鬼を飼い、それを克服することによって強く輝いている。

人間というものは絶対神のように完璧なものではない。

心に光と闇の両面を持つ。

聖女であるフェリシアもおそらく心に闇の鬼を飼い、それに向き合い封じることによって心の闇を圧倒する光で輝いていたのだろう。

フェリシアの復活に失敗し続ける王冠は、意図的にか偶然にかその闇の部分がないのにちがいない。

聖女フェリシアの記憶は再現できてもそれを動かす心が欠陥品なので、王冠を被った者はフェリシアになりえず壊れてしまうのだろう。

完全な心を欲し穢れを取り去ると壊れる。

心とは、魂とはつくづく厄介なものだ。


 心の性質として一般的には同性の体と反発し、異性の体とは惹かれあうというものがある。

俗に本能とか言われるものだが。

だから親子であっても同性の体に入りにくく、他人であっても異性の体となじみやすい。

だからティラノは異性であるフェリシアの体を復元して使っているのだが、復活したフェリシアが昔のままの姿であるほうが最善であることには間違いがない。

ティラノ自身は、今使っている体を男性化させるだけでいいからだ。

皇帝の愛妾は高位の帝国貴族の娘たち、つまりティラノの血を引く娘たちで、あの皇帝に子が作れるはずはなく、ティアたちの父親はティラノであるとしか考えられない。

今のお飾りの皇帝を戴き皇后が実質支配する帝制がたとえ存続することが難しくなろうとも、ティラノはフェリシアを復活させるためならば気にもしないに違いない。


 試合相手の闘気がさらに膨れ上がり、身に着けていた防具が白金のフルプレートメイルに変化する。

あの時、魔王と戦ったアーサーが身に着けていた装備、必勝を掛けてきた。

対する俺は、動きやすい黒いレザーの服に黒いブレストプレート、左腕に同じく黒の籠手、全てが魔王である黒竜からはぎ取り作らせた物だ。

そしていつもの槍。


 決闘開始の合図とともに魔王を前にする聖戦士と同様に光の球に包まれたティラノが直線的に襲い掛かってくる。

俺も足元に発生させた魔力の力場で重力を制御し、宙に浮かんで迎撃する。

観客の目からは足元に雲を踏んだ俺が飛び交う光の線を躱しながら優美に舞を舞っているように見えることだろう。

高速の攻撃は無駄のある動きでは躱すことができず、武術の心得がない者の目にも美しく映る。

しかし俺が圧倒的に劣勢にも見えているはずだ。

ティラノが球状に展開している防御結界は、その伝説に謳われる蒼い色によって現在知られているどんな魔法にも耐えられる強度を持つことがしられており、治癒師であり魔術師であるはずの俺が魔法攻撃をいまだ放てないことを誰もが得心していた。


 観客たちの思いとは異なり、ティラノは焦っていた。

自分の大剣はまったく俺をとらえることができず、逆に俺の槍は防御結界をたやすく貫いて防具に幾条もの傷を刻みつつあった。

ティラノは一部の魔術師にしか感じ取れない無色の追尾式魔力弾を放ってもいるのだが、遠距離、至近距離にかかわらず、すべて槍先で叩き潰されている。


 攻防が続くうち、ティラノの心にふとした疑惑が湧き上がってきた。

自分は手加減されているのではないか。

その疑惑画幅レア上がり確信に変わったとき、ティラノは誇りを傷つけられた怒りで我を忘れ、人がいるところでは決して使ってはいけない魔力を大剣に載せて最強の剣技を繰り出していた。


 その瞬間を認識できた者はいなかったが、音ではない音が響いた後、意識のないティラノの体は地面に落ちた。


 やれやれ困ったもんだ。

遠くノルンの失われた王宮の地下でそのとき行われていることを全く知らず、俺は邪悪さなどまったくない無垢な目で見上げるマリシアそっくりの娘を前に頭を掻いていた。




 日光の射さない地下にその女はいた。

一見普通に見える女だが特異なのは背中からとがった錆びた鉄の杭が心臓の位置を貫通していることだ。

事故で死に、執念で死霊として復活したその女は何の表情も浮かべず淡々と作業を進めていく。

裸にされ鎖で石の台にうつ伏せにつながれた女の背中に短剣で奴隷紋を刻みこんでいるのだ。

ほかの台の上には首のない女の体、よく見るとあたりの床には人間の一部分だったものが飛び散っている。

そして別の台に仰向けに乗せられている男は顔で誰かが判別できる。

ローバー男爵。


 奴隷紋を刻み終えた女は短剣を大きな斧に持ち替え、男爵の首めがけて振り下ろす。

その光景を一組の男女だけが無言で眺めていた。



 現皇后ティラノを退けた後、匿名の挑戦者から貴族局を通してきた決闘の挑戦を俺はことわった。貴族局も当然だと了承したのだが、私的にまた決闘状が届けられる。

相手が賭けるのは奴隷、ジェシカ・バル・ローバー。

俺が要求されたのは…。



ゆるせねぇ…

俺は黒く燃え上がった。


 


 


 

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