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ちょっとしたいたずら

 女性神官たちが修行するための宗教都市フェリスは自給自足のまずしい都市で、ここでは誰もが平等に暮らしている。

平等ゆえに争いごとのない都市だが、弱い女たちを守るためという理由で警備は厳しい。

各所で魔力による個人認証の検査が行われている。

にもかかわらずルタは神殿の最深部までとがめられることなく進んでいた。

マリシアをそっくりコピーしているだけ、それだけで全ての扉を開き関所を通ることが出来た。

一般人も入れる外神殿を通り抜け、大司教たちが支配しこの町の行政府がある内神殿に入る。

外神殿では見習い以外の聖職者たちはほとんど素顔を出していたがここでは全ての人が顔をベールで隠している。

ルタも顔を隠した神官服を着ているのだがどこに行っても何をしても怪しまれなかった。

調子に乗って戸籍を管理している行政府の担当部署にもいく。

そこで事務を執っていた顔を隠した聖職者に何番をお探しですかと聞かれて、ついマリシアから聞いていた彼女の番号582735番と答えてしまう。

書類が綴じられた厚い綴りが書庫から魔法で取り出されルタの手元に飛んできた。

一番手前のページにマリシアの番号があり、驚いたことにその番号の持ち主は書類上死亡したことになっていた。

そして欄外に、次期皇后候補の文字とそして除去率100%…これはなんだろう。

さらに注釈として出来うる限り子孫を残させること。

その子孫の番号は連番でつけられていて約千名で99%台。

最も数字の高い者から2名を成長加速、再交配で100%が3名。

内1名が皇后予定者、もう2名が予備。

それを見てルタは気分が悪くなってきた。

一つめくるとマリシアの両親が書かれており、マリシアの父は現皇后…母が前皇后…

マリシアの誕生日は現皇帝が即位して新皇后が立てられたほぼ10か月後…

その両親はそしてそのまた両親は…最終的にフェリシアの娘三人に行きつく。

明らかにこれはフェリシアの娘たちを使って彼女の肉体を再現しようとした研究資料だ。

ご丁寧にフェリシアの娘たちに行った思考操作の方法まで書いてある。

もしこのフェリシアの交配記録を自分の主であるクリスが見たら一瞬にしてこの都市ごと蒸発させてしまいそうな気がした。

フェリシアの夫の名前は乱暴に墨で消されていた。

これの実行者はよほど彼のことが嫌いなのだろう。

ならば除去率というのはフェリシアの相手の血脈のことか。


 この書類綴りで見る限り、皇太后はまだここで生存している。

皇太后の現在地を確認しようとしてふと気づいたことがある。

戴冠式・年月日…これはなんだ。

あきれたことに、この書類綴りは他の資料と同様に持ち出し可能だった。

詳しくはベルさんに分析してもらおう。

ルタは皇太后やマリシアの子孫がいる奥神殿と呼ばれる場所に向かった。


 奥神殿の門は両側に警備の神官兵が立ち並びさすがに通り抜けるのには足がすくむ。

さりげなく様子を見ていると、ここの神官たちは身分証を見せたりもせずに普通に出入りしている。

ルタも度胸を決めて、通りかかった一人の神官の後ろについて門をくぐるが、だれにも誰何されなかった。

先を歩く神官は二股の道を右に曲がったので自分は左へ…突き当りのドアを開く。

中の光景を一目見て絶句する。

何か管のようなものを体につけられた年老いたマリシアたちが寝かされている。

ぞれにつけられている名札の番号のなかに皇太后の番号の札を付けられている女性がいたので近寄り確かめてみる。

だめだこりゃ…生きているだけだった。

別の部屋では赤ちゃんがならんでんでいて、3人のマリシアたちが世話をしていた。

他には成人したマリシアが美しい裸体をさらして宙に浮かんだまま眠っている部屋、とにかくマリシアだらけだった。

ただ一番奥には小さな神殿があり、冠を被った女神の像が一つあった。

近寄ったルタの口元がいたずらっ子のように吊り上る。




 誰が来てもいい日の翌朝、気配で分かっていとことだが、ドアを開けると帝都にいるロンバルト家全員の顔がいたずらが成功した子供のような笑みを浮かべてそろっていた。


「やっぱり」と俺がかけた言葉に真ん中にいたベルがにやっと笑う。

ほかのメンバーもいたずらが成功していい顔をしている。


「ニューちゃんまだ寝てるの?」


 そう、昨夜部屋に戻るとニューが、え? だれもこないの? とひとりできょどきょどしていた。

ベルがみんなで寝室に押しかけようと誘い、それを真に受けたニューが俺の寝室に一人で特攻してしまったのだった。

ニューを側室にしてしまうと家事をするものがいなくなるので身分は今まで通りなのだが、いやはやローグ組に知れたら団体で襲ってきそうだ。


 そんな平和な時間を過ごしている間にも世の中はどんどん進んでいく。

第2皇子派の捕縛が進み、帝都はぎすぎすとした雰囲気が立ち込める。

もともと小者貴族のタラーはゆったりと構えているが、皇太子派や第3皇子派の貴族の大者たちは戦々恐々としてお互い連絡をとるのも自粛して閉じこもっている。


 そうこうしているうちにルタがとんでもないものを持ち帰ってきた。

それを前にして全員で集まり協議する。


「これって皇后そのものだよね。どこにあったの?」

「皇后が帝都に出発する前に祈る奥神殿の神像の頭に無防備にかけてあったんだよ。そっくりなのが外神殿の土産物屋に売られてたんで取り替えてきた」


 ルタが持ち帰ってたのは、最も手前の神殿にあった植物をデザインした冠で、新しい皇后が選抜される時、一連の儀式に使用されるものらしい。

内側に隠されている宝玉に人ひとり分の魂が入っている。

初代皇帝ティラノは、まったく同じ肉体を量産して、使用している体が老化するたびに新しく取り換え、そのつど新皇帝の皇后として帝国の中枢に入っていたわけだ。

毎回そっくり初代皇帝の意識が再生されるだけなので、進歩がなく同じことがひたすら繰り返されていただけのことだった。

まったく進歩のない悲劇が反省も検証も何も行われず続いてきたことにはもはや笑うしかない、いや笑いも出なかった。

いや、物事を一巡だけだが全て見ている人物がいるはずだが…。


「前皇后って確か皇帝に殉死したよね」

「うん、おばあ様は、おじい様がお亡くなりになった時に神々から授かった力を全部お返しして毒をあおったって」

「いえ、フェリスでまだ生存しています。ただし、自我を無くして生きていただけでした」


 ティアも世間一般に伝わっていることしか知らないらしい。

現実はものすごく陰惨だ。

ところで、この冠の構造を見る限り新旧の皇后は同じ人物のコピーだが記憶や経験の引継ぎがなく別人と言ってもよい。

自分と同じ存在を用がないからと自我を消してしまうなんて…その自分のために鬼畜なことをしても顧みない…何となく行動原理があいつと同じだ。

聖戦士アーサー、初代皇帝ティラノそっくりなあいつはいったい何者だ。

それと魔王と戦って敗れた聖女のマリシア、マリシアはなぜ聖女になれたんだ。

聖戦士と聖女、大至急調べねばならない事柄が増えた。

アーサーの故郷にはルタをまたやるとして、アーサーと融合しているシェリーのところには、そうだ、みんなで行こう。

決闘は2人分取りやめになって2週間余裕ができている。

帝都は危険かもしれない。






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