皇室の秘密
ベルに分析してもらった魔力結晶は皇帝の宝物庫にある王冠を精査してきたもの。
戴冠式で王冠を被ると皇太子はおかしくなる。
原因は王冠にあると推定した。
別に俺だけが推定したわけではない。
代々の皇子たちもそう推定して何とかしようといろいろ試みていたがあまりにも厳重に管理されていて手が出なかった。
いや今も特に第2皇子が何とかしようとあがいていた。
そこで第2皇子の取り巻き貴族にさりげなくタラーが危ない仕事に就く者たちとの繋ぎの取り方を噂話としてきかせた。
馬鹿正直に屋根のてっぺんに黄色と黒の布を結びつけた取り巻き貴族は、その屋敷の警備をかいくぐって侵入したニューの腕をあっさり信用して、一流の盗賊として雇わせ、王冠を調査させたのだ。
ニューとレナは第2皇子の息のかかった警備兵の前を堂々と通って宝物庫を守る罠に挑んだ。
そして鑑定機で王冠を調査し、その記録として魔力水晶を2個持ち帰った。
もう一個はもちろん第2皇子が持っていて、今頃誰かに分析させていることだろう。
同じものがもう一つあるのを当然彼は知らない。
「あの王冠だけど、魂を保管し移す器だったわ」
「あれを被ると誰かの魂に取り憑かれるわけか」
「憑かれるというよりも、本人そのものになります」
「つまり、その誰かを復活させたくて自分の子供たちを犠牲にしているわけか。初代皇帝がそこまでして復活させたい相手と言えば聖女フェリシア」
「そうとしか考えられませんわね。二人の恋愛物語は有名ですもの」
「まあうちの家には別の話があるんだけどね、そちらは相愛ではなく皇帝が一方的に恋してただけど、どちらにせよフェリシアに気が有ったことは確かだと思う。しかしそんな昔の人の復活ってできるんだろうか」
「少なくても皇后はしてるわね。初代皇帝ティラノも別の体に魂を入れ替えるという方法で若返ってるわね」
「え?」
「闘技会の優勝者、ウォリスさんやカウラスと一緒に見てたんだけど、あの体は40代になったマリシアで、賭けの対象にしている娘っての見たけど10代後半のマリシアだったわ。最初は堂々と自分を賭けるって言い張ったらしいけど40代じゃぁロンバルト伯が承知しないだろうって貴族局がクレーム付けてくれてね。それはそうねって同意したらマリシアそっくりな子を娘だって連れて来たの。マリシアそっくりな娘にクレーム付けれるわけないじゃない」
「もしそれがほんとうなら…」
「そうフェリスの神官たちのベールをはぎ取ったらほぼ全員マリシアと同じ顔をしてるわね。独断だけどルタにフェリスに行ってもらったわ。直通の転移門があるから、結果はすぐに出るとして…わかってるでしょうね」
「あぁ、わかってる」
分かってるつもりだった。
それはそれとして。
「もしかしてルーシェリアも事前に見てた?」
「あたりまえじゃない、変な娘を息子の嫁にできないじゃないの。ルーシェちゃんなら気立てはよさそうだし、ガリガリだったけどあなたが何とかするって思ったし…」
デメリットは俺に丸投げだった。
ベルに言われたわけではなく、なんとなくその日は久しぶりにマリシアの部屋で夜更けまでいろいろ楽しく話をした後、そのままベッドを共にした。
ところが、それが何か暗黒の秩序とやらを乱したらしくひと騒ぎ合った後、俺はみんなに自分の部屋以外で寝てはいけないと言い渡された。
部屋替えとかいうものが行われ、俺は主だという理由で使っていなかった無駄に大きな部屋に移らされた。
部屋の改装は夕食後まで続き、ドアを開けて驚いた。
「ティア、これ何?」
「何ってベッドでしょう」
「そう見えないから聞いているんだけど。こんなでっかいの、ベッドに見えない」
「今日は私一人の日だけど、明日は誰が来てもいい日だからこれでもちょっと小さいかも…」
「…」
家長には家庭不和の種を摘む責任があるらしい。
俺たちはそんな生活を送っていたが、その日、第2皇子が反逆罪で捕縛された。




