予言? それって何?
大歓声に沸く闘技場の貴賓席、皇帝と皇后の斜め後ろで取次ぎ役も拍手を送っていた。
裏から暗殺できなければ堂々と表で殺してやればいい。
単純馬鹿の皇后は軽く顔をかくしただけで無体の真ん中に立ち大歓声を受け止めていた。
貴賓席にいるのは自分の用意した影武者である。
本命はロンバルトとの決闘では有るが、だめもとでおだて上げて出場させた闘技会で軽く優勝されてしまったのにはいまさらながら驚きを禁じられない。
予選からぶつけてやった強者たちをあっさりと下してくれたのにも腹が立つ。
特に地下教義のチャンプを高い金を払ってまで出場させたのに切り刻まれてしまった。
殺気を見せたやつは殺してやったぞ、とは皇后の弁である。
一応やつも本気で闘ったのだろう。
この益し団長はかろうじて生きている。
しかし一回戦で皇后と当たった小僧のほうが長く打ち合えるとは思わなかった。
世の中は広い。
今回の試みが破れてもまた機会は有る。
あの小僧にしてもまだ進歩は望めるし時間はたっぷりと有る。
今までも我慢してきたのだ。
さして付き合いの無い貴族から送られてきたアクセサリーは国宝級だった。
このイヤリングを身につけると魔力体力共に数段の上昇が見込める。
隠すように付けられている狂化には笑ってしまうが。
俺のファンやら誰やらの敵やら知らないが、もらえるものはもらっておこう。
どうしても俺に勝たせたいファンがいるのはドバルカたちからも報告が来ている。
使わないで売り飛ばすのも俺の勝手だがさすが帝室の宝物庫から持ち出されたもの、質感はなかなかいいがデザイン的に…ちょっと改造してやれ。
イヤリングを弄っていると気配がしたので声をかける。
「ニュー、どうだった?」
「魔法での監視が厳しくてわたしには無理デスが、魔力の無いレナなら大丈夫だと思いマス」
「そうか」
「これから二人で処理して来ますのデス」
「俺も付いて行こうか?」
「大丈夫なのデス。今夜はお楽しみくださいデス」
遠ざかっていく気配を見送って、ちょっと反省。
悪巧みの会話をすると男が出る。
今日はそれでも良いかと寝室への扉を開ける。
ルーシェリアは昼間と同じ姿で座りもせずに寝台の横に立っていた。
俺はルーシェリアの帯にそっと手を回す。
「クリス様、おやめになったほうが良いかと…私は…」
「気にするな」
予想通りルーシェリアにほとんど脂肪も筋肉もついていなかった。
ほとんど重さを感じない体を抱き上げ皮を貼り付けた骸骨のようなおでこにキスをする。
「それじゃあ5分で太って2分で目と耳」
「え?」
次の日ロンバルト家では全員がそろって朝食をとることにしているが、やはり目が見えるようになったメタブールン伯爵と始めましてと挨拶しあう、ふっくらした娘の姿があった。
視力が無いほうがよく見えるってこともたまには有るみたいだ。
伯爵になぜ決闘を申し込んできたのかを尋ねたのだが、昔から予言されていたとのことだ。
予言されていた時間場所でそこにいた相手に決闘の申し込みをしただけだということだ。
予言? さっぱり訳が分からない。
それから蛇足ながら家にいつの間にか居ついてしまった男の子の素性が分かった。
「ダン、あなたここで何してるの」
「お姉ちゃん?」
ルーシェリアが教会で世話していた孤児の一人だったようだ。
飛行商船に密航してくるとはなかなかの度胸だし面倒見てやることにするが、俺の嫁に手を出したらすぐつまみ出すからな。
賑やかな朝食を終えて俺は自分の書斎で待っているとほどなくドアがノックされニューとレナが入ってくる。
「クリス様、盗ってきましたデス。レナもがんばったデス。ほめておくれヨ」
黙ってにこにこしているレナと一緒に抱きしめてやる。
「二人ともよくやりましたね。これはご褒美」
レナに貴族にもらったイヤリングを再加工して安全にしたものをご褒美にあげたあと、ニューにはノルンの山で採れる蔓になる果物をわたした。
ご褒美の値段にかなり差があるが、ニューにはこの果物が最もいいのだ。
目をハートにして果物をつかむやいなやすっ飛んで自室に戻っていったニューを追いかけてレナはあわてて出ていった。
二人がとってきた情報の詰まった魔力の結晶をベルの部屋に持っていく。
「これ、大至急分析して」
「わかったわ。ところでロビン、もっとマリシアちゃんをかまってあげなさい」
「母さん、いきなりなんだよ」
「あの子毎晩ここに来てるの。わかるでしょ」
「………気を付けるよ」
「いいわね」
「うん」
ふぅ、いろいろ気を使わねばならないことが多い。




