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強敵にたぎる血

メタブールン伯爵側荷立会人は居らず娘のルーシェリアを連れてきているだけ。

娘は始めてであったときのマアリシアのように体型も顔も分からない神官服に身を包んでいる。

誓約しているので偽物の心配は無いが、なんだろう、彼女常に何かを口に入れている。


 俺のほうも従うのはマリシアと賭けの対象であるティアのみで、屋敷にはレナ一人が留守番で後は偵察という名目で試合観戦に行っている。

別に留守番はいらないんだがレナは余計なことを言って皆の顰蹙を買ったらしい。

人数が増えると余計なごたごたが起きる。

また一人今日嫁が増える予定だが、ふぅ。


 両者無言のまま決闘が始まり、開始の合図と共に相手はいきなり間を詰めてくる。 

圧倒的なパワーを秘める剛剣の軌跡が俺の鼻先を掠める。

スピードでは俺がやや勝るが技で互角。

先制のため俺が繰り出す上段の払いは鋭角に反転してきた剣に弾かれる。

槍は俺を中心点として回転し石突が反動に俺の力を加えた速度で足を刈りに行くが、すでに相手は宙に舞い、無防備になるはずの俺の頭めがけて殺気と共に剣が落ちて来る。

即座に引かれた槍はまだ宙に有る敵の残像を貫くがすでに相手は距離をとって立ち、予備動作無しで突っ込んでくる。


 決闘を始めてかれこれ一時間がたち、何十合となく剣と槍を合わせるが勝負の行方はまだ定まらない。

打ち合わす剣戟は更に速さと激しさを増しもうすでに人間の出しうる限界を超えている。

純粋に技を合わせるのが楽しくて気がつかなかったがこれは変だ。

ダルカンのように無限に大地から魔力を吸い上げているわけでも無いのに力が衰えない。

闘いながら観察し分析する。

確かに魔力は動いていないが、もっと根源的な生命力と言うべき力が動いている。

俺の初級治癒の講義ではその生命力を直接扱う方法を教える予定なのだが…


 更に生命力に注視するとそれは心臓部分からマグマのように湧き出しているが…

これはもしかして暴走して制御できていないのじゃないのか。

魔法でメタブールン伯爵の背後に移動し、魔力で制御した俺の生命力を直接心臓に左の手のひらから叩き込む。

伯爵はあっさりと崩れたが俺まで膝をつきそうになった。

魔力がほとんど持っていかれた。

この系統の術はやはり魔力の燃費がきわめて悪い。


 審判が俺の勝ちを認めると誓約魔法が発動する。

誓約の発動と言っても、強制力のあるものではない。

本人たちの意思を無視した誓約での結婚ってその程度のもんで、いきなり二人が恋に落ちていちゃいちゃしたりはしない。


 しかし何も言わない娘だな、このなんともいえない暗さってどうよ。

黙って座ったまま相変らず時々丸薬らしきものを口に運んでいる。

帰りの馬車にルーシェリアはちゃんと俺たちについて乗り込んできたのだがしゃべらないし、神官服で全身を包んでいるので表情も…あ…肩が震えている…そっか。

俺が悪かった、この娘勘違いしている。


「もしかしてルーシェリアは視力がなくて魔力で見ているの?」

「はい」

「ごめん、メタブールン伯爵は生きてるよ。魔力が空になって生きているように思えないだろうけど」

「え?」

「暴走していた生命力を抑え込むときに全部放出されてしまったから、伯爵の体に魔力は残っていないけど、今は寝ているだけ、ほんとにごめんね。」


 安心したのかルーシェリアはいきなり泣き出した。

俺は背中をさすってやリながら事情を聞いた。

要約すると、500年前のご先祖様が魔族と戦うにあたって自らの体を改造して、生命力を暴走させることで魔力とは別の戦うための力を得たが、それが制御に成功しないまま子孫に伝わってしまったらしい。

ただ、一族に生まれた男性は自分の意思で発動するまで普通に生活できるが、女性は10歳くらいから自然に暴走を始めてしまうとのことだ。

ルーシェリアが今まで生きていられたのは生命力で胃腸を強化して、一粒で3日分の食料となる凝縮口糧を食べ続けているからだ。

父親が決闘しているのになんと行儀の悪いと思ったことは心の中で謝っておこう。

屋敷に着くまでに、背中に当てた手のひらから魔力を流しルーシェリアの生命力をゆっくりと通常状態まで下げていくことができた。



「伯爵様たいへんなのデス、なのデス」

「ニュー、どうしたの?」


 屋敷に着くとニューがすっ飛んできた。


「決闘の申し込みなのデスガ、3人残してゼ~んぶ辞退しましタって貴族局から連絡が来たノデスが。そのうちの一人があとの二人を武術大会の予選でやっつけチャッタのですヨ」

「そんなこともあるでしょう」

「ソ、それがあるわけないのデス。一人は近衛騎士団長サマで、もう一人は地下闘技会のチャンピオンなのデス。すっご強い人たちなのです。それを子ども扱いなのエス。まじヤバなのデス」

「その人決勝トーナメントにでるのね」

「はいデス」


 ふむ。

近衛騎士団長といえば、帝国軍最強と言われる男で、たしか俺と姫の結婚に大反対していたと聞いていた。

地下闘技会はティライアのどこかで開催されている貴族の賭博で、大貴族たちが面子をかけて強者を送り込んでいるためにそれのチャンピオンともなればただ事ではない強さのはずだ。

それを倒すということは…


「ん?なんだ?まだあるのか」

「ハイ、負けた二人が決闘を辞退したのデスガ、別に一人が決闘状を突きつけてきたのデス。貴族局はあまりに辞退とか多いのでこれ以上決闘させないと宣言しましたのデス」

「そうか、あと二人と戦えばいいのね」


 表と裏の世界で最強を誇っていた二人を倒した者、その強者を俺が倒すと見てさらに挑戦してくる者、俺の血は静かにたぎった。



 









次話、皇位簒奪の陰謀…予定

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