二人目は呪われた伯爵
あっというまに一週間がたって、2回目の授業の日となった。
先週どんな授業をしたのかよく覚えていない。
困った…と悩んでいるわけにもいかず、とりあえず授業を行う予定の室外の実技演習所へ向かった。
長年にわたって受講者がいなかったので教室が用意されておらず、空いていた屋外の実技演習場を使うことになったのだが、お前らその格好は何だ…。
集まった10人すべてが治癒の授業で有るにもかかわらず学園指定の完全武装でピシッと整列している。
並んでいる内本来の受講生はたった二人。
あと学園の警備員が二人、同じく事務の女性が一人、ここ最近俺の家でうろちょろしている男の子が一人、ティアと侍女のレナとマリー、それから最期の老人が学園長。
その変なメンバーの顔をざっと見ていって先週何をしたのか思い出した。
3人で授業を始めようとしたら見学に来たティアたちが自分たちもしたいと言い出して、ティアを案内してきた事務員も巻き込まれて、通りかかった学園長もおもしろそうだと…ところであと3人はなんだったかな、たしか学園に侵入してきた子どもと追いかけていた警備員達。
それがなぜこうなった。
ふと気付いてここへ来る直前に届いた書類を初めて確認する。
学園の許可の下りた正規の履修届が2通と聴講届が8通、ちゃんとそろっている。
書類が整っている以上問題なし、ということで治癒術の初歩ってのを実戦で学んでもらおうか。
現実逃避しようとした俺の授業は前回にまして、濃い内容となった。
この治癒術は絶対役に立つ。
瀕死になっても学ぶ価値は有る。
たぶん…
俺は驕りでもなんでもなく、単純な事実として午後からの決闘の勝ちを決定した事実として、午前の授業をちょうど良い体の慣らしとしていた。
あらゆる伝を使って、決闘相手のメタブールン伯爵の情報を集め分析し、負ける相手ではないと結論付けていたからだ。
集めた情報によるとメタブールン伯爵は帝国の建国からの家臣であり、、帝国西方を守る任の一部を担っている。
領土はこれといった産業もなく貧しいが、領主の治政が良く人々は明るい生活を営んでいるらしい。
質実剛健をもってなる家系ではあるが、代々優秀な文官として帝国に仕え、現領主の伯爵も帝国の法律を司る司法省の次官として首都で勤務している。
今回、俺との決闘には一人娘のルーシェリアを賭けているが、彼女は幼いころより領地の神殿に見習い神官として出されていて今は帝国西方の大都市トロンの小さな神殿で孤児たちと暮らしている。
賢く分別のある貴族がなぜ神にささげたはずの娘を決闘で賭けるような愚かなまねをするのか。
その辺の疑問は、帝国貴族のドバルカたちに調査させてもわからなかった。
ただメタブールン家は呪われた家系であり、その呪いで代々視覚と聴覚が弱く魔法でその代替えとしていること。
ルーシェリアはメタブールン家に500年ぶりに生まれた女性であり、他に子供がいないにもかかわらず神殿に出家させられたこと。
おそらくこの呪いのなにかがメタブールン伯爵に無茶な決闘を決断させたのであろうかとしか考えられなかった。
今回の決闘も前回と同じ場所で行われるが、見物人はほとんどいなかった。
ティライアの競技場で4年ごとに行われる武術大会のほうに注目が集まり、結果と試合経過がだれにでも予想できる決闘は見向きもされなかったためだ。
だが決闘の場所で先に来て待っていたメタブールン伯爵は、俺が本気にならざるおえない闘気を内包しながら静かに佇んでいた。




